第2話 誕生!チームペリカン
「ふぉふぉふぉ、そんな目をした田吾作を見るのは久しぶりじゃて。」
こう言ったのは、老人会メンバーの1人である四丁目の憲三郎である。
山さんこと『桑山 憲三郎』(くわやま けんざぶろう)は田吾作の同級生であり、学生時代は野球に熱い魂を燃やしていた男だ。
学内ではラグビーの熱血、野球の桑山と言われるほど人気を二分していた。
「お前がそんな目をすると、わしもやる気になってくるわい。」
そんなことを言いながら、憲三郎はそこにあった掃除用のほうきを手に持つと、ぶんぶんと振り回し始めた。
抑えきれない何かが彼を突き動かしているのだろう。
とりあえず公民館の備品を壊されると面倒なので、取り押さえて席につかせようとする。
多少暴れたが、1分ぐらいで疲れたのか潔く座ってくれた。
その後は、いつもやってるただの茶話会が始まり、終わった。
ここでメンバーを紹介しておかねばなるまい。
熱血 田吾作(85)
五色 電衛門(84)
桑山 憲三郎(85)
西 策治郎(75)
桑山 由紀子(84)
田吾作、電衛門、憲三郎はすでに物語に出てきているが、ほか2人はまだこれからの人物である。
簡単に紹介しておくことにしよう。
『西 策治郎』(にし さくじろう)は、電衛門の従兄弟である。
五色家は代々植木職人の家系であり、学校を卒業してからは、電衛門も親である竜衛門の弟子として働いていた。
そこに弟弟子として入ってきたのが策治郎である。
根性があり真面目な性格の策治郎を、電衛門は実の弟のように可愛がっていた。
学生時代はアイスホッケーをしていたと聞いている。
『桑山 由紀子』(くわやま ゆきこ)は、憲三郎の嫁である。
学生時代は新体操をやっており、国体へも県代表で何度か参加したらしい。
学生時代から憲三郎と付き合っていたらしく、憲三郎は田吾作に写真を見せながら自慢したものだ。
身体の柔らかさと身軽さはいまだ健在。
公民館で、レクリェーションダンスとかいうものの講座を開いているぐらいだ。
とまあメンバーはこんな感じなのだが、ここで問題が発生した。
監督というものの存在である。
・メンバーは5人で1チームとすること
・メンバー5人中、必ず1人は女性であること
・メンバー以外で監督を決めること
・チーム名を役所に登録すること
2つめまではクリアしているのだが、監督となると・・・
ちなみに21世紀後半ともなると、監督はロボットでも可ということになっている。
ようは、形だけなのだろう。
立派なチームにもなれば、怪我で現役を去った有名選手とかを監督に起用するのだが、そんな金はない。
とりあえず田吾作と憲三郎は電衛門の家に集まり、3人で監督について話し合うことにした。
広い庭、平屋の日本家屋、これが五色家である。
庭には見事に手入れされた植木があり、地面には白い玉砂利が敷かれている。
それを横目で見ながら、3人は話し合いをはじめた。
「隣町の老人会チームの監督はのう、携帯電話っちゅう話じゃぞ?」
「電衛門~、ありゃお話ロボットっちゅう小さいロボットじゃ。見た目は携帯電話にも見えるがのぅ。」
細かい監督についての規則をみていくと、こういうのは駄目らしい。
・ロボット以外の非生命体(ぬいぐるみや扇風機)
・植物
・ひわいなロボット
1時間程度悩んだ挙句、ふと電衛門が何かを思い出したように口を開いた。
「そういや田吾作んとこには変な鳥がいるそうじゃねぇか。あれ、なんじゃ?」
思い出したのは、どうやら監督とはまったく関係ないものだったらしい。
「そうじゃ、わしも気になっとった!」
憲三郎も続いて聞いてくる。
どうやら、みんな気になっていたらしい。
「ああ、あの鳥かぁ・・・ありゃ、ペリカンっちゅう鳥じゃ。前に河原で怪我してるとこを助けての、治るまで面倒見とったんじゃよ。治った今でも時々遊びに来るんじゃ。」
そう、ペリカンである。
田吾作が2年ほど前にたまたま助けた鳥なのだが、時々遊びに来ては窓から入ってきて、田吾作のいい話し相手になっていた。
何も言わずに、うなずくように話を聞いてくれるのだ。
すでに心が通いあっているらしく、つらいときは羽でやさしく包んでくれたりもする。
言葉が通じるのか、また来週というときっちり1週間後にやってくる。
たまに鮎や虹鱒も持ってきてくれる、気の利くいい鳥だ。
「田吾作!規則に鳥はあかんとか書いてあったか!?」
電衛門が何か閃いたように口を開いた。
今度は監督に関することである。
「いや、確か書いてなかったが。・・・まさか、あのペリカンを監督にするんか!?」
田吾作はさすがに驚いた。
頭にそんな選択肢はなかったからだ。
「今のところそれしかねぇだろ。今度そのペリカン来たら、伝えといてくれや。」
確かにあいつなら監督をつとめてくれるかもしれない。
田吾作もちょっとその気になってきた。
憲治郎はというと・・・気持ちよさそうに座布団を枕にして寝てしまっていた。
さっきまで起きてたと思ってたのに。
後日、田吾作の家にやってきたペリカンにそのことを話すと、羽を大きく上に上げて○を作られた。
どうやら快諾してくれたようである。
ペリカン監督の誕生だ。
これに伴って、チーム名もペリカンになってしまった。
本当は役所に出す書類の項目を見間違えて、監督名ではなくチーム名に『ペリカン』と入れてしまったのだが、それについてはメンバーからまだ文句を言われていない。
提出してしまったので、文句を言われてももう遅いのだが。
とにもかくにも、チームペリカンの戦いはこれからはじまる!
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