熱血!ゲートボールジジイ!!
TAKA麻呂
第1話 田吾作、憤怒!
『熱血 田吾作』は2000年8月1日生まれである。
熱血家、築45年2階建ての1階奥の和室。
そこに田吾作は寝ていた。
2085年夏、今年も日本列島は異常な暑さに見舞われている。
田吾作、85回目の夏である。
21世紀も後期だというのに、その部屋にあるのは扇風機。
しかもガチャガチャと強弱を変えるタイプの、かなりな骨董品である。
朝昼夜の食事は定期的に運ばれて来るが、家族はあまり顔を合わせてはくれない。
この状況を見ていると、あまり恵まれた状況ではないように思える。
20年前、妻の良子が他界するまでは今のようなことはなかった。
精力的に働き、町内の仕事もこなしていた。
家族からの信頼も厚く、孫もおじいちゃんおじいちゃんとなついていたものだ。
だが、あれ以来何かが変わってしまった。
何をやっても楽しくなく、考えたり頑張ったりすることが嫌になってしまったのだ。
今では1日のほとんどは布団の中。
若い頃にラグビーで鍛えられた身体も、もはや見る影もないほどやせ衰えている。
たまに起きて、自分の部屋の外を窓越しに見つめたりもする。
だが、見つめるだけで外にはあまり出ない。
トイレはまだ自分で行ける。
それだけが救いだ。
あとはテレビを見続けるぐらいか・・・。
寝たきりにでもなれば、田吾作は老人ホーム行きだろう。
最近、それもいいかと思えてきた。
そんな毎日が続く中、田吾作はたまたま老人会に誘われて外に出ることになった。
杖はまだ使わずに歩ける。
あまり外に出ないためか、太陽の光が妙に眩しく感じた。
「おう、田吾作!」
誰の目から見てもわかる高級車が横に止まり、半分ぐらい開いたその車の窓から声が聞こえた。
家を出てすぐ、いきなり会いたくないやつに会ってしまった。
これだからあまり外出はしたくないのだ。
「お、おう、源・・・」
『源 忠太郎』は、隣に住んでいる金持ちだ。
昔からの顔なじみだが、いまだに気に入らない。
ちなみに読み方は『ゲン チュウタロウ』である。
近所の人からは『ゲンさん』と呼ばれているが、よくよく考えるとよそよそしい呼ばれ方だ。
言葉のひとつひとつが嫌味ったらしいせいか、近所には仲のいい人がいないのだろう。
何かと金持ちぶりをふりかざすのである。
「なんやなんや、今から老人会行くんか?俺は今から自家用ジェットで海外や。いやぁ、ほんまは俺も老人会ってとこに行ってみたいんやけどなぁ。」
とまあ、こんな感じだ。
会うたびにこれなので、もう慣れてしまった。
「海外へ何しに行くんや?その歳でまだ仕事か?」
「アホ言うなや。ゲートボールや、ゲートボール!ええでぇ、ゲートボールは。」
ゲートボール・・・・・20世紀に開発された、1チーム5人で行う老人向けスポーツである。
ボールをスティックでうち、3つのゲートをくぐらせてから、コート真ん中の棒に当てれば上がり。
細かいルールはまだまだあるが、ここでは語らないでおこう。
だが、21世紀にこのスポーツに変革が訪れた。
まず、コートの大きさが100m×100mの巨大なサイズになった。
それに伴って、使われるボールも直径150cm、重さ120kgのものに変更された。
スティックも強化され、形状は同じながらボールを打つときにはボタンひとつで爆発的な威力を発揮するものに。
ルールも変更され、自分のボールのある場所から半径5mに来るボールを自分のスティックで打ち返すことができるようになる。
これにより、身を守るための専用のプロテクターも開発された。
白熱するバトルになるため、見る人もどんどん増えていき、今では押しも押されぬ人気スポーツになったのだ。
「新型のスティックを買うてのぅ、それのためしうちや。うちらのチームは装備が違うでの、そんじょそこらのご近所チームとじゃ話にならんのや。ほんじゃのう。」
そう言って源は見るからに高級そうな車で去っていった。
なにか胸の奥に熱いものを感じたのだが、とりあえず田吾作は老人会のある公民館へ向かうことにした。
「田吾作もか!あいつ、ほんま昔から嫌味なやつやな!!」
老人会の席でのことである。
声を荒げながら話すのは、田吾作を誘った電衛門だ。
『五色 電衛門』(ごしき でんえもん)は、田吾作の昔からの友達である。
あまり外に出なくなってからも、電衛門は時々部屋を訪ねてくれ、いろいろな話をした。
こいつにだけは本音を話せて、友達の良さというものを感じさせてくれる。
どうやら電衛門もここに来る間に源の奴に会ったようだ。
「源の野郎、ちょっと金あると思って威張りやがって!なにがゲートボールや!!そんなん、俺たちだってできるわ!!なあ、みんな!!!」
かなりいきり立っている。
ほかの参加者も、源に対して色々あるらしく、ざわざわとそれぞれが悪口を言い合っている。
「田吾作も腹立たんか?あいつにひと泡ふかせてやりてぇと思わねぇか!?」
電衛門の熱い言葉が田吾作の胸の中あった小さな火種を少し大きくした。
確かに腹が立つ。
電衛門の言葉を聞いているうち、なんだか徐々に胸から熱いものがこみ上げてきた。
小さかった火種が、徐々に大きく、熱く燃えてくるような感じである。
こんな気持ち、何十年ぶりだろう・・・
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