外国人

 妙に混んでいるなと思っていたら、店員は外国人の対応に追われているようだった。ここは別に観光地でもないのに。そう思ったが、別に外国人がいることは悪いことではない。彼らにも観光を制限される権利はなく、むしろこんな観光地らしからぬ場所にも観光客がいることはプラスに考えるべきだろう。私は地域の観光大使でもなんでもないが、そのようなおおらかな心持ちで列に並んで待つことにした。

 金髪で色白の外国人はスマホを見せて店員に英語で話しかけていた。どうやら、アプリを使て翻訳した日本語を見せているようだが、正しい日本語ではないらしい。店員にも満足に英語を話せる人はいないらしく、会話に苦戦しているようだ。外国人の方もバックパックから垂れる紐をいじらしく触ってみたり周りを見渡してみたり、せわしなく動いている。

 嫌いだ。

 英語は、確かに世界において共通言語だろうし、世界中どこに行ってもある程度英語が通じる必要はある。

 しかしここは日本であり、日本の公用語は日本語。日本に来ている以上、少しは日本語を話すべきではないだろうか。


 私たち日本人の多くは――最近はそうでもないのかもしれないが――少しでも向こうの言葉を覚えて外国に行く。ありがとう、こんにちは、これが欲しいです。それくらいの言葉は勉強する礼儀があってほしいものだ。

 それが、他国に対する敬意というものだろう。


 私は仕事の関係上、何度か海外へ行ったことがある。英語圏の国が多かったが、英語の通じない国にも行ったことがある。その時も仕事は英語だけでよかったが、私は現地の言葉を少しは勉強していった。カフェや喫茶店でスムーズに珈琲を注文できるほどには。実際にカフェに立ち寄り、さほど問題なく珈琲を注文できたのだから、私は胸を張っていいだろう。モーマンタイ、モーマンタイ。


 私は彼の言う英語訛りが聞き取れそうになかったから、私が入っても場を混乱させるだけだ。そのため、私は手伝おうとは思わなかった。私も英語に精通しているわけではない。仕事に困らない程度に話せる、というだけに過ぎない。


 例の外国人は、その場に居合わせた英語の堪能な人が通訳となって、事態は丸く収まった。通訳をしてくれた男性と笑顔で握手をし、「ありがとう、いい人に恵まれたよ」と英語で言って、外国人は受け取った飲み物を片手に陽気に店を出て行った。「アリガトウ」とは言わなかった。

 私はブラックのアイスを注文した。いつもよりも苦いような気がした。

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喫茶店にて、徒然なるままに 北見 柊吾 @dollar-cat

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