第3話 呪の連鎖

 確かに、調べてみると、このE神社の竜神様が、もともとは生け贄を求める荒ぶる神様だったことは、神社の縁起にも書かれていました。


 子どもを生け贄として欲していたようで、そのことは「稚児」「子死」といったこの辺りの地名にいま現在も残っています。


 その、竜神様の悪行を止めたのが、この地に舞い降りた天女、弁財天だそうです。

 弁財天に恋したから、竜神様は生け贄を求めることをしなくなった、と。


 そう、正式な縁起には書かれています。



 現代では、「弁財天様と恋」というキーワードがいつの間にか一人歩きして、ここは恋が叶うパワースポットということになっています。

 恋愛成就のお守りも人気があるようです。



 でも、それが真実なのでしょうか?

 私は、K池の伝説に巧妙に隠された人柱の女性のことを思い出しました。

 こちらの神社の縁起も、美談としてまとめられてはいますが、無理やり犠牲とされた女性がいたのではないか、と。

 つい、想像を逞しくしてしまうのです。



 いえ、あながち想像ではないんですよ。



 結局、その日、私たちがE神社の境内を出ることができたのは、日も傾きかけた頃でした。


 なぜ、そんなに時間がかかったと思います?


 また、迷わされてしまったんです。


 私たちは、岩屋を出てから怖くて怖くて、とにかくE神社の境内の外に逃げようとしました。

 幸いにも、地図を見るとショートカットして、下へ降りる道が用意されているのがわかりました。

 そこで、私たちはその脇道を目指し、急ぎ足で歩きました。

 私たちの後ろを歩いていた人たちも、同じようにショートカットして下へ降りようという相談をしているのが聞こえてきました。



 ――ところが。


 突然、後ろを歩いていた人たちの声も気配も、消えてしまったのです。


「どこで? どこに、下へ行く脇道があったの?」


 私たちは、戻って確かめました。

 でも、どこにも道なんてありません。

 しかし、後ろを歩いていた二人連れの姿も、どこにもないのです。

 何度、その近辺を往復しても、私たちにはショートカットの脇道は見つけられませんでした。


 ええ、私たちには“見えない”のです、その道が。


 その間に、私たちの後ろを歩いていた人たちは、どんどんと消えていく。

 そして、私たちはまたそこに残される。

 その繰り返しです。


 日暮れが近付いていました。


 ただでさえ、日が暮れる時間というのは、人と物の怪とを区別することが難しくなる「かれ」時。

 これ以上、ここにいても物の怪にバカされ続けるだけだ、そう思って、私たちは正規の参道を急ぎ足で降りることにしました。



 結局、E神社から出られたときには、完全に日が暮れていました。



 生け贄の話、なぜ想像ではないとわかるか、教えて欲しいですか?

 本当に?

 聞きたいですか?



 担当編集者にも聞かれたんですよ。


「パワースポットとしては紹介できないです」

と言ったら、理由を教えてくれって。

 でも、これ、この痣を見たら納得してくれました。


 蛇に巻き付かれたような、赤い痣が首や足にありますでしょう?



 K池とE神社の岩屋で、犠牲となった女性たちに頼まれたんです。

 この話を、自分たちの真実の話を書いてくれ、と。

 なるべく多くの人に伝えて欲しい、と頼まれたんです。

 そうすれば、呪は解けるから、と。



 この話を語ったり、書いたりすると、消えるんですよ、ほら。



 これ、本当に語っていいんですか?

 ああ、よかった。私はやっと約束を果たすことができました。

 これで多くの人にようやく伝えることができました。



 でも、これ……読んだ人は大丈夫なんですか?

 ここまで読んだ人も、「もっと、他の人に伝えて欲しい」って、――生け贄の女性たちにせがまれませんか?

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【実話怪談】負のパワースポット 中臣悠月 @yukkie86

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