第2話

「俺はこんなところでいったい何をしてるんだ?」

気がつくと俺は、朝日が昇り始めた広い荒野の真ん中で、一人立ち尽くしていた。体を動かすたび何かが当たる。どこなんだここは。こんなところで居眠りでもしてしまったのか?

「うっ」

血の臭いがする。あの日、親父を殺した日、嫌という程嗅いだあの臭いだ。

「何があったんだ」

朝日に照らされようやく俺の視界が広がってくる。

さっきから体に当たっている物を力一杯引き抜いてみる。

「なんだこれ?・・・まさか人の腕?」

驚いて周りを確認する。

俺の足元にあったのは7体の人間の死体だった。



「・・俺がやったのか?」

自分で自分に問いかける。でも本当は分かっている。やったのは俺だ。俺以外にこんなこといったい誰がやったっていうんだ。

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

怖かった。親父を殺してから約7年、幾度も殺戮衝動に駆られてきた。それでもいつもそこで思い留まってこれた。実際に人を殺したことなんて一度もなかった。

なのに今日は7人も。

僕はそこで気を失った。

意識が薄れる中、「この子、感染者よ」そんな声が聞こえた気がしたが、そんなこともうどうでもいいことだった。




目を覚ますと俺は小さなボロ屋の中のベッドの上にいた。

誰かが運んできてくれたのか?そんなことを考えていると、

「感染者と見られる男の子目を覚ましました。」そう言いながら俺と同い年くらいの女の子が部屋に入ってきた。


「アンタ、派手に殺ったわね〜。羨ましいなあ〜」


羨ましい?何を言ってるんだこの女は。


「アンタさあ、今まで何人殺ってきたの?」


「ちょっと待てよ。さっきから殺るとかどうとか何を言ってるんだよ。気でも狂ってるのか?」


女は驚いたような顔をしているようだった


「何今更なこと言ってんのよ。アンタも感染者なんでしょ?」


「感染者?なんのことだよ。」


少しの間があった。


「アンタ名前は?」


「良介だけど」


「良介さあ。アンタ今まで生きてきて本当に何も気づかなかったの?自分が他と違うってさあ」


ドキッとした。でもこの子になら言ってもいい気がする。何故かそう思った。

「・・実は俺は小さな頃から、人を見ると無性に殺したくなる時があるんだ」


言うのはすごく辛かった。今までこのことは誰にも言わなかった。自分が殺人鬼だなんて思われたくなかったから。

それなのにこの女は

「やっぱ感染者じゃん」

と驚く顔一つ見せずにこう言ってきた。


「さっきから感染者感染者って、俺が何に感染してるって言うんだよ。」


「キルウイルスさ」


そう言いながら、40代後半くらいだろうか、ずいぶん背の高い男性が部屋に入ってきた



「杏子は部屋に戻ってなさい。」


「はーい、じゃあねーりょーすけ」


そう言うとさっきの女は俺たちのいる部屋から出て言った。


「キルウイルスってなんなんですか?」

俺は尋ねた。


「まあまあ焦らない。君は良介君って言うんだね。私は哲也だ。神谷哲也。キルウイルスの研究者でもあり、キルウイルスの感染者でもある。」


「研究者?」


「そう。キルウイルスのことを話すにはまず、この国をこんなにした70年前のあの戦争のことを君に知ってもらわないといけない」


「戦争ですか」


「そう。あの戦争は今までの戦争とは違う。なんたってあの豊かだったこの国をここまで腐らせた、いまだかつてない戦争なのだから」

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鬼の涙 山崎祐 @pokkaroba

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