エピローグ・残された人々
「てめえの演技が臭すぎたんだよクソビッチが」
チルルが一言、悪意を込めて吐き捨てる。
「そういう話じゃねえだろ、アホらしい」サナリもまたタバコを吹かしながら、冷たい床に向かってペッとツバを吐いた。「なこと言うならこの衣装からしておかしいじゃねえか。これで戦士のつもりとかナメすぎだろ。誰がこんなのに騙されんだ」
「今まではこれで良かったんだよ……クソガキめ、無駄にいい勘しやがって」
「女が誘ってんのに逃げ出すとか、マジ腐れインポだわ。死ねばいい」
「あーあ、無駄な時間使っちまった。腹立つわー」
悪態を
「殺す……絶対殺すっ!!」
大の男が五人がかりで押さえても、アミは止まらない。その強さがゆえに、彼女は一連の仕事の中で、転生者の一番近くを担当することになっている。
「チルル様……そんなところで見てないで助けてくださいよぉ……」飛んできた部下の男が、情けない声を出す。
「うるせえな、こっちだってムカついてんだよ」
「そんなぁ……」
彼女らの仕事は、定期的に勇者を向こうの世界から召喚した上で、その力を抜き取ることである。奪い去った勇者の力は制御こそできないが、単純な爆弾としてはこれ以上ないレベルで優秀なものが作れるために、テロリストたちからすれば喉から手が出るほど欲しい力なのだ。
勇者の異能を固めて作られた小型高性能爆弾、
「で?」サナリは立ち上がり、剣を構えて伸びをする。「リリィはどうなのさ? あいつ、勘がいい上に無駄に知恵が回ったから逃がしたわけでしょ? 大丈夫なの?」
「問題ねえよ」チルルもまた立ち上がり、腕にバンデージを巻きつける。「どうせ男なんてみんな馬鹿なんだから」
「でもサキュバスって、妄想の中の理想の恋人を演じるんだろ? それこそバレるんじゃないの。ただでさえ自分がモテるはずがないって逃げ出した奴なんだから」
フフッと、チルルは笑う。
「逆だよ、馬鹿女。そういうやつこそさ」
彼女のその言葉に間を合わせたかのように、にわかに魔法陣が光を放ち始めた。
ショッキングピンクの閃光が倉庫を満たして、音のない爆発が空気を震わせる。
リリィが帰ってきたのだ。
「……ほら、な?」クククと、チルルは笑う。
シューッと舞い上がる煙の中心……そこには、先程逃したバクトだかという糞ガキが、サキュバスであるリリィに抱かれたままで、事態が把握できないとでも言いたげに目をパチクリと瞬かせていた。
……一度この世界に入って淫紋を刻まれてしまった男が、サキュバスから逃げられるはずがないのだ。
「おかえりなさい……勇者様」
爪を光らせ、牙を剥き、アミがニッコリと、微笑んだ。
「さぁ、続きをいたしましょう? バクト様」
異世界詐欺には気をつけて 小村ユキチ @sitaukehokuro
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