死神さんとタイムワープ&タイヤ妃ラーメヤ&次元変更線

閉口世界

全三話










      死神さんとタイムワープ     

                                                          閉口世界

                     

わたくしは、大衆の場を好んで出てくるーー。


言わば、一種のまやかし者でございます。


で、さのごときの私が今回現われましたるところはーー。


理容学園の実地練習ーー散髪代はただ特設会場(教室)。


「パチパチーーチョキチョキーーパチバチーーチョキチョキ」


「かっちょ良くやってくださいね」


「でも何て言うかーー髪型って本当に不思議ですよね、例えば原始


人さんだって綺麗さっぱりに調髪すれば男前になりますかね?」


「ウククククッッーーー」


ぶっちゃけた話ーー今から実験台となるこの私がこの場に及んで一


体何を言うやと、一人笑いするやもーー。


思いのほか学生君達のまなこは、ぐーんと輝いた。


「☆キラリッ☆ーーー☆キラキラ☆」


「本当、目玉ってそんなにも輝くものだったんですね!」


「誠、眩しい位にっ!ーーーーー」


「で、その煌きから察するにーー君らの願いは!ボサボサ頭をスッ


キリさせてあげたいと言う事でしょーーきっと」


「いいとこーーついてきますね、あなたっーーひっひひひひっーー


にょほほほほっーーっ


(嘲笑)ーー」


「それじゃ、その望みが叶うようにーーいっそうの事、原始人さん


達を散髪しに行きましょうか?」


「ええっっーー冗談ではない本当の話ですかっ(驚)?!」


「わたくしに二言はございませーーんーー」


「こいつはまたなんてこったっーー原始人だってよっ!うへへへっ


っーーでへへへへっっ


(再度嘲笑)」


「ーーじゃ行きましょう!行きましょう!」


「それじゃ、授業はもうお終いになさって下さいーーー」


「みなさんっ!輪になって手をつないでーー」


「ついこないだ死神さんからいただいた、腕時計小型タイムワープ


マシンを今から駆動させてみますから」


「キャャッッ(叫)!ーーー死神さんだなんてーーー大丈夫です


か!?」


「この機械自体ーー彼とは何の関係も無いでしょうーー推測で申し


訳ありませんが私として


は今はそのようにしかお答え出来ません」


「尚ーーこのマシンは今まで見た事も聞いた事もない代物ですから、


今回の時間旅行に関してはあくまでも自己責任でお願いいたします」


「でも、言っているうちにーーもうスタートしてしまいましたっ!」


「ビビビビッッツ!ビビッ!ビビッ!ーーーー」


超小型タイムマシンが唸りを上げて出現させたーー虹色のスパイラ


ルゲートを通過していくとそこはもう原始人の住む惑星であった。


「ジャャッーーーーンッ(現)!はーーーい、皆様こんにちは!」


ええ、到着して間もなく私達の目の前にはーー。


とにかく虚勢を良いタイムワープコンダクター(女性ホログラム嬢)


が即時に目の前へと現れ出たのです。


「みなさん!良いですか!」


「此処は原始人の住む惑星世界です!」


「今のところ太陽さんは、よく似ておられますが、実際夜になって


星座を見てみないと何とも言えませんっ!」


「今いる場所はっっーー必ずしも地球の過去とは限らないと言う事


ですーーその事をお間違いなく!」


ええ、彼女の説明によるとーー。


此処がひよっとして過去の地球でなければ、我々は二度と元の世界


へは帰れない可能性もありうるーーー。


つまりこれは一体どういう事かと申しますとーー。


今回については、運悪く地球の未来を変えてしまう事を恐れる地球


の味方のタイムマッシーンZ型が使用されているーー。


その為、距離時間を問わず、とにかく別の(原始人がいる)惑星を


手っ取り早く見つけだし其処へと送り届けてしまった可能性がある


と言うのです。


「ブヒーーブヒーーブヒブヒブヒブヒヒッッーーー(怒)」


それを聞いた途端っーー皆は激しいブーイングを発しました。


「あんたらっ、贅沢言うんじゃありません!」


「お前ら場所はどうであれ、人類史上初めて時間を遡ったのですよ


っ!」


「しかも一分間やそこいらではありません、何万年もです!」


「これはまさに新しい時代の幕開け、その金字塔たるやーーーーー」


「うるせいっ!つべこべぬかすなっ、この何処から見ても正面に見


えるフォロ化け野郎っ!


早く俺達を元の世界に帰せっ!帰せっ!帰せっ!(絶叫)」


ええ、学生君達はもう原始人の散髪どころかーー。


とにもかくにも、この異常な事態を回避する為の主導権を握ろうと


したのですがーー。


そんな簡単に従順するホログラム嬢ではなく、それからもえらくお


高く留まる態度をとり続けました。


だいいち歴史的快挙ならーー何故もっと賞賛の美を称えてくれない


のかと皆は思ったものです。


しかしながら彼女が言うには、実際に帰ってこそ、なんぼのもんだ


と言うのです。


成る程、その通りですーー。


しかしそれ以前の問題として、このホログラム嬢は彼らに対して最


初から何一つの安心感も与えなかったのです。


実はーーその態度の裏側にはーー。


ただの映像である彼女は元の世界に戻っても何の恩賞ももらえない。


しかしながら、この未知なる惑星に到達できた学生君達には恐らく


国家より途方もなく豊かな将来が約束される筈でございますからー


ー。


余りにも高い知性を備えすぎたこのマシンからしてみればーーこん


なにも面白くもない話は無い訳です。


しかもそのうちにーー。


帰りは鈍行列車のような速度だと、確実に元の世界に帰れると言い


出しやがってーー。


だから、みんなも勿論その事に対しては賛成しそれから直ぐにその


方法で発進しました。


でも、そのうちにだんだんと皆の様子が変わってきてーー。


何しろ時間移動は通常の空間(宇宙船)移動の類のものとは本質的


な意味合いが全然異なっていたんです。


何も食べない何も出さない全く眠らないーー。


そんな状況が帰りは一年以上も続くものですからーーその間は事実


上人間ではなくなってしまうのです。


人間ではなくなってしまった理容学園のみんなですか?


ええ、いろいろでしたーー。


はい、最初の内はそんな感覚で済んだんです。


でもその内にそれだけでは済まなくなってきてーー。


やはりこのタイムマシンに人間が長時間乗船するには、どうしても


無理があったんでしょうなあーー。


ある一定の時間帯を超えたあたりから、彼らは自分と言う存在を認


識出来なくなってしまっ


たんです。


つまりーー。


通常の身体維持システムから余りにもかけ離れた現在の状況を異常


であると判断した魂がーー。


もう宿主(身体)は死んだとものと勘違いしーー抜け出て行ってし


まったんです。


いいえでも、別段心配する事はありませんーー。


こう言ったケースの場合は神様からの恩赦が適用され、全員天国行


きとなりましたから。


ですけどーー。


超高性能マシンは、予めその事を予測しておったんでしょうなぁー


ー実験材料が死んでしまっては困る。


ですから最初から別に用意していたーー予備の魂達をその抜け殻(人


体)達に次々と入れたんです。


何故ならこのマシンを制作した、言わば化け物達の研究存続に関す


る今後の命運ががかかっていたからーーええですからーーその結果。


新しい魂達にしてみれば、今の環境(最悪)下に置かれた宿主の状


態が初っ端であり、ついては何の苦にもならない訳ですし学習能力


も赤ん坊に比べてずば抜けて早い。


しかし問題はーー。


皆が元の教室へと戻った時ーー。


これはまさに、世に生まれ出たのと同じ状況でありーー。


世間のど真ん中に到着した、大人の怖がりでわがまま、言葉分から


ず共と言う、とても矛盾したエネルギー存在者達が何かにつけオギ


ャーオギャ一!とあまりにうるさく喚くものですからーー。


「おいっ!何だか分からんが何とかしたまえっ!この学生諸君を!」


全くそんな感じでーー。


学校長は大いにてんてこ舞いしたものです。


勿論、本人達は自分達が一体何者なのか?全く分からない訳であり


ましてーー。


これはーー事情を全く知らない世間一般者からすれば、重い記憶喪


失者なのかそれとも何らかの事情で完全に脳に異常をきたした者達


なのか、それとも二つ足した状態なのか?


きっとそのどれかに違いないとも考えましたがーー。


結局、事件は何も真相が分からぬまま、勿論、本来は全員行ける筈


のない天国行きの末路を与えてしまったこの天使のような私からも


決して真実が語られることはなくーー。


素の状態と化した精神肉体だけが無事生還した人類初のタイムトラ


ベルの事実は所謂よその世界の格好の実験材料となった次第でござ


います。ーーーーーーー(完)




    タイヤ妃ラーメヤさん

                                                              閉口世界


ある夏の日ーー。


黄昏時の海岸線で虹色のオーラを放つ娘に魅了され、声をかけたの


が間違いの元だった。


その娘の名前はタイヤ妃ラーメヤさんーー。


見た感じーーグッグッとくる女の子である。


彼女は言わば宇宙人。


何でも遠い星から空飛ぶ円盤に乗ってやって来たという事である。


「ラーメヤさん、あなたの星(タイヤ星)のお話をしながら御一緒


にお食事でもしませんか?」


「二人で将来の夢を語らいながらーー出来る事ならあなたにプロポ


ーズしたいーー」


しかしーーー。


彼女は残念そうに真実を打ち明けてくれたのです。


「実はーーーわたくし共の星の結婚の仕方は、あなた方地球人から


見ればたいへん変わっています」


「どう変わっているのですか?ラーメヤさん」


「難しいセオリーやらやり口はーーとやかく御説明いたしません」


「がとにかく、あなたと私は永遠の契りを交わした直後、身体を入


れ替えなければならないのです」


「考えても見て下さい、ユー&アイーーアイ&ユー」


「これ以上お互いを固く結び付ける信頼関係は無いでしょ、実際の


話」


「その通りですラーメヤさん」


しかし、わたくしとしてはーーどんな感じの入れ替わりになろうと


も、彼女の事は永遠に愛せると信じーー。


即座に「それでもオーケーですっ、ラーメヤさん」と申し上げプロ


ポーズしたのです。



結婚してからーー。



「バタンッ」


彼女は夜中になるといつも一人で何処かに出かけて行きました。


勿論、以前の私(姿)として。


しかし、結婚後はお互いのプライベートに関しては一切関知しない


と言う約束。


ですので、何も聞けないしまた聞かなかった訳ですがーー彼女の生


活パターンは奇怪醜怪そのものーー。


「ただいまっーー」


毎夜々、零時きっかりに外出し、明け方近くになると血の付いた衣


服を着けたままお腹をまるで妊婦のように大きく膨らませて帰って


来るのです。


しかも日中は棺桶そっくりの鋼鉄の箱の中に入ってただひたすら眠り続けます。


その姿を見てーー。


ああこれって、現実の出来事なんだなあーー多分こいつバンパイヤ


みたいな奴できっと夜中に人を喰って腹ぼてになっていやがるんだ


ろうなって思いましたよ。


自分は完全に騙されたなともーー。


つまり細身の彼女が私の身体と入れ替えた一番の理由は、実はこの


星(地球)で狩猟する為でありーー。


しかも私の頭の中にある記憶をそのままコピー流用した方が、相手


(人類)の能力把握や街中を移動する時も何かと都合良かった訳です。



そんなある日の夜ーー。



「あれが!そうですかっ!」


彼女つまり以前の私が、自身が乗って来た空飛ぶ円盤を実際に空か


ら呼び寄せ見せてくれたのです。


ええ、それは大変な代物でした。


窓から良く良く目を凝らして見てみるとーー。


アダムスキー型そっくりのやつが、お風呂屋さんの煙突と並んで殆


ど無色透明のまま空中に浮かんでいたのです。


「なんだか本当にーー死んだくせに完全に死んでいない生命体共と


は(驚)?ーー何とも薄気味が悪い奴らめっ(怒)ーーー」


ええ実は結局のところ!!ーーー。


彼女はこのところ毎日のように自身が喰った人間達(霊)によるら


しい?何らかの(怨念)


攻撃を受けていたらしくーー。


肉体は滅んでも魂が遺恨を持って生き続けるこの惑星の未知なる生


命体(人類)をとても不気味がりーー。


いやと言うより一刻も早くこの惑星圏から離れたいと、空飛ぶ円盤


で一緒に他の惑星へと旅立とうと持ちかけてくれた訳です。


「しかしーー他の惑星って言うけどーー其処に住んでいる住人達っ


て一体どんな奴らなんですか?」


「いえーー私が行くのは必ず未知なる惑星ーーなのでどんな生命体


が潜んでいるのかは全く予測が付きません」


「するとやはり宇宙の生命体は変幻自在、通り一辺倒の生態系を形


作ってはいないんですね


ーーーー」


私が躊躇しているとーー彼女はまた新たなる提案をいたしました。


「元通りーーつまり婚約解消の元での体の入れ替えを望みませんよね?」


「当たり前ですよっ」


「そんな事をしたらーー私は即座に捕まってしまうっーー貴方が夜


中何をしているのかを私が知らないとでも思っているのですかっ!」


「今、警察が総力を挙げて防犯カメラの映像やら指紋等を分析して


いるんですよ」


「もう時間の問題なんですっ!犯人像が浮き上がるのはっ!」


「そうですかーーそこまでおっしゃるならーー」


「実は隠していたんですかーー相手の同意を得なくとも他の誰かの


身体に侵入するのは可能なんです」


「それをもっと早く言って下さいっ!」


それからですーーー。


ラーメヤさんが見ず知らずの男と体を入れ替えた後、前の私を処分


しその後もまるで手品のように次々と身体を変えていったのは。


でも、全く見た事もないあっぱっばでマッチョな男達やら絶世の美


女としてやって来てくれても、その内にその方々の捜索は始まる訳


ですし、私としてはとにかく犯罪者にはなりたくなかったのです。


「ヒュィィッッーーーーンッーーーー!」


「なっーーー何という生命体だっ!!」


結果、ラーメヤさんついには諦めて違う星へとさっさと飛んで行っ


てしまいました。


「愕然…………」


ええ、残された私としてはーーー。


取るものも取り敢えず、ラーメヤさんがどう使うかはあなた次第ー


ーと言って置いて行ったタイムマシン(ボールペン型装置)で可能


性を探りました。


ええ、どうするかは申すでもないーー。


彼女と知り合ったあの夏の日の夜(海岸線)まで時間を遡っていっ


て、即座にこのタイムマシンを彼女に返還したのです。


「不思議な事をおっしゃるお方ですねーーオホホホッ」


「そうですかーーじゃ御遠慮なくこのボールペンは頂いておきます


ーー」


彼女は人喰いはするものの、銀河星団どころか時空さえも股に掛け


る超生命体ーー。


こちらの思いは全てを知っていてーー。


わざと知らぬふり。


さらりとした表情でボールペン(タイムマシン)を受け取りました。


「さようならーー我々の星、地球に二度と来るなよっ!ーー」


私は次第に闇の中へと消え入るその背中に向け、勇気を振り絞りそ


のように言ってやりました!


しかしながらーー。


家に戻る途中ーー何か途轍もない大冒険をさせていただいたような


気がだんだんしてきてーー。


満天の星空へと向かって思わず大きく手を振った次第でございます


ーーーーーーー(完)




           次元変更線

                                                              閉口世界


湾岸都市高層ビル建設工事に従事していたこのわたくしはある日突


然ーー。


場を借りるにあたっての立会人役として、数多くいる建設(工事)


関係者からたった一人ーーー。


人知れず秘密裏に選ばれたのでございます。


場とは私が毎日勤務しております工事完成間際の高層ビル、その最


上階大会議室場。


してその出席者とはーー。


女房三十六歌仙の小野小町君を始めとする、京の島原吉野太夫、歴


代の大将軍、宮本武蔵殿を始めとするあらゆる戦いに名を馳せた猛


者等々、日本国の歴史に名を残された錚々たる御方総勢百余名ーー。


その方々の所謂パラレロ(時間系並行世界)御前会議へと、つまり


はこのわたくしも特別に出席させていただくと言う大栄誉を授かっ


た次第でございます。


勿論、会議中は一切の邪魔立て混乱が起きぬよう、一時的に時間(歴


史)をストップさせての開催と相成りました。


で、方々が申されるにはーー。


我々は死神殿から選ばれし者達であり、俗に呼ばれるタイムワープ


により参上つかまつり候ゆえ何とぞ心ある汲み取りをーー。


うち一人の武将がそのように言った。


その御方は美しくも力強く異様に黒光りする兜をつけていた。


「あっ、貴方様は!あのダースベーダー卿のモデルと言われている


伊達政宗公殿では?」


わたくしは単色一色のまるで金属のような真っ黒な甲冑を見て、思


わず深々と一礼いたしました。


そんな訳でーーこの不可解すぎると言わざるを得ない儀式(御顔


合わせ)は、あなた様の以外の誰にも悟られず語られずーー。


この儀式が終わり次第、各自、人混みの中へと紛れ込みこの世の視


察を続けられると申されるのです。


「そうでしたかーーこれはまた大変な重責を背負われた御様子で、


とにかく事の経緯は良く分かりませぬがまっまっ、どうぞ一つよろ


しくお願いいたします」


わたくしは、いやはやどう言って良いのやらーー身に余る光栄と恐


縮したまま最後尾一番端っこの席へと座らせていただきーー。


現代の雰囲気とはまるで違う方々の御顔合わせの仰々しさ華やかさ


をありがたく拝見させて頂いたのでございます。



第一回目の休憩時間ーーー。



とは申してもーー。


配膳された現代食の味を確かめるようにゆっくりと一口、二口ーー。


まるで猫舐めずりするかように咀嚼を繰り返される方々のその御様


子にはーーぞっとするような不気味ささえ感じられ、まだかまだか


とようやく訪れた昼休み時。


その場から一刻も早く抜け出て、外の空気でも吸おうかと屋上庭園


行きエレベーターへと乗り込んだ次第でございます。


「グゥィィッッーーーーンッ」


屋上庭園へと上がりますとーー。


土佐が生んだ国民的英雄ーーつまり討幕(大政奉還)に大きな影響


を与えられた幕末の風雲児が先に御休憩中でございました。


「パタパタパタパタッッ~~(風)」


風雲児は風に髪を靡かせながら両腕を組み、今では別世界化してし


まった現在の都(首都)の様子を眺めておられました。


その両頬は痩せこけ、時代の厳しさを知りました。


「やはり、食べ物は現代とは違って大変ご苦労されるのでしょうか?


ご飯のお代わりはよく出来て一杯までですか?ーー」


私は開口一番そのように尋ねました。


「そりゃーーわしやち、そう思うちゅう!けんど食べたくとも食べ


られんかったーーー」


「それに比べおまんらみたいな酷い食い過ぎ食べ残しは絶対にいか


んぞっ!」


「まっそうちゅうてもーー無性に食いとうなってきたらーー腹の要


求を抑えちゃる事はもはや不可能」


「ほななーーー思い切って、わしの時代へと来てみるが良い、無い


物ねだりは出来ぬ相談じゃきぃのーー」


私は、なる程なと頷きーー。


「タイムトラベルなどまこと凄いお話ーー是非に!わたくもお供を


っーー」


事態は思わぬ方向へとーー。


やはり人間、大きく尻尾を振って会話に望むと高い勝率で何かが始


まる。


よく鳴く鳥は可愛がられる。


それと同じ理屈であろう。


「うむっ」


私の同行は確定した。


して、問題の御顔合わせにおける議事内容はよくそのむねがよく分


からぬままーー満場一致で可決されーー。


ともあれ会議を無事終えられた方々はーーそれぞれの目的とする街


中ーー人混みの中へと跡形も無く消え去って行かれました。


しかしながら幕末の風雲児は取り急ぎーーあの動乱の最中へと今直


ぐにでも帰ると申されるのです。


「分かりましたっ!よろしくお供しますっ!」


「ほんだら行こうかのっーーあしの船でっ」


「是が非とも!ーー」


ですが!!ーー。


共に幕末期へと戻った途端ーー。


「グギャャャッッ!ーー」


私共が来るのをまるで事前に予知していたかのように、到着地点に


は尊師の敵の手の者らしいもののふが大勢いて、彼は歴史とは異な


る地点で暗殺されてしまったのです。


しかもその者達は、一風変わった髪型身なり服装をしている私の事


をどうやら未来人と察しているらしくこれから起こる得る近い将来


の情報を聞き出そうと、今日は島原、明日は祇園と毎晩のように贅


沢三昧させました。


「旦那様っどうぞおひとつーー」


「こいつは、うめえっっっ!ーーー」


過去の時代はやはり塩や水の質が全然違うせいかーー。


一流どころにせよ、食事や酒がこんなにも美味いとは到底予測も付


かなかったのであります。


しかしながらこの時すでにーー。


頭の中では途轍もなく不可解な現象が始まっていたのです。


つまりーー。


元の時代の美味しい食べ物がどうしても思い出せないのでありますーー。


「成る程そう言う事かーーー」


ええ、私の思考回路からは、元居た時代の記憶がどうやら次々と無


くなり始めていたのです。


はいとても奇妙な事ですがーー。


自身を世の異物としてーーしいては歴史上の脅威としての存在にさ


せまいとする、何らかの歯止め(神の安全策?)が残念ながら作動


してし始めてしまった模様ーー。


つまり世の移動に関する何のセキュリティーコードを全く持たずに


突然やって来た者を、受け入れる側の世が受け入れる為の最低条件


として、どうやら前世界の記憶を次第に白紙へと


戻してしまうのか?ーー。


しかし実際に神などいるのか?


ええ、こなってしまった以上ーー。


もののふ共の期待する世の出来事など何も記憶しておりませんので


ーー未来予測に元ずく策略など一切不可能。


そうなるとーーこの私めは無用の長物となってしまう。


しかしながらもののふ共は、まだその事までは気付いていない様子


ーー。


それ故にわたくしとしてはーー。


これから、近い将来に起こる出来事と称してーー次々と口から出ま


かせを言いーー。


そしてまた大い崇められたのですが、何もかも記憶がないのによく


もまあ何やかやと大ボラが言えたものと自分でも呆れました。


しかしそうする事でーー未来から来たわたくしの価値を不動のもの


とさせたのです。


が、そうこうするうちにーー歴史上の事実とは明らかに異なった場


所、時間、手段でーーー尊師が無情にも御命を落とされた事をふと


思い出したのであります。


ええそうなるとーー後の世の歴史はこれから大きく塗り替えられる


やも知れず。


そして唯一その事を認識出来る私の存在(記憶)との所謂、状態不


一致が私の全ての記憶素子を次々と白紙状態(フォーマット)変化


させたに違いない。


つまり結局は、さような最終結論へと落ち着いた次第でございます。


ーーーーーーー(完)

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