燦めきの箱庭

優水

燦めきの箱庭

私は会社への道を走っていたつもりだった。だというのに、この辺り一面に広がる金色はどうしたことだ。気がつくと、私は迷い込んでいたのだ。


匂い立つような美しい髪の大海原に。


髪——そう、髪だ。

糸というには硬質で、ワイヤーというには繊細なそれは紛れもなく髪だった。

それが一面に敷き詰められているのだ。


髪が敷き詰められた地面、なんていうと恐ろしいものに思えるけれど、私が直面している景色はただただ美しかった。

誘われるように足を踏み出すと、金色の海は優しく私を迎えた。

やわらかく、沈んでいく。

だけどそれは私を搦めとることはなく、私は泳ぐようにゆっくりと歩いて行った。

私はどこへ行くつもりなのだろう。なぜ、私は歩いているのだろう。

答えは出せずにいた。しかし、私は確信を持って進み続けた。

海は深くなっていく。

私は沈んでいく。

柔らかな金色の繊維は私をやさしく包み込んでいく。まるで、繭のように。

沈んで、沈んで……


気がつくと、私は小さな女の子の姿になって公園で一人、ブランコに座っていた。

誰も私を邪魔することはない。

誰も私を迎えにくることはない。


その時、やっとわかった。

これはあの子の夢だ。これは私の罪だ。

あの子の綺麗な金髪が夕日に燦めく度、私はとても憎らしくて——

だから——


私は一人でブランコを漕ぐ。あの子の髪で紡がれた鎖が軋む。

私は一人でブランコを漕ぐ。もうどこにもいないあのわたしを想って。

私は一人でブランコを漕ぐ。きらきらと燦めく黄昏の世界で。

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燦めきの箱庭 優水 @ysui

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