第4話 今日の事だって僕らは忘れてしまう

目が覚めると、僕は彼女の家にいた。

「大丈夫だなんて嘘は良くないわ」

「ごめん」

彼女は白いワンピースを着て近くに座っていた。

「家はやっぱり涼しいでしょう?」

そう言う彼女の髪は、開けた窓から入る風でふわりふわりと揺れていた。

「涼しい。君がいるから」

彼女は少しだけ目を開くと、

「ありがとう」

と言ってそれから黙った。

「くじらは?」

「くじらは、蝉を食べて消えてしまったわ」

遠くで蝉の声がした。

「ああ、忘れてしまう」

「ええ」

「冬になれば蝉がいた事を僕らはきっと忘れてしまう」

「なんだってそうよ。私達は忘れてしまうの」

そうだね、と僕は言ってから、用事があるのでそろそろ帰らなければならないということを伝えた。

「また倒れないようにね」

彼女は感情のこもっていない声でそう言った。

「うん」

玄関の扉がパタンと閉まって、僕は歩き出した。

青空がビルの間から見えて、少しだけ揺れた。

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ふとした時に思い出される何でもないこと 青夏 @aonatu3

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