状況説明、場面描写は削ぎ落とされた。「わたし」の思考と感情がぞわぞわと、解像度の高いまま読者の背中を冷たく這う。読書というその擬似体験が――行為そのものへの興味の度合いによらず――たいへんに生々しい。多くのひとは体験することもないかと思われる題材。しかし関心や知名度は高い。でもそんなことをする心理は分からない。だから、作中の「わたし」の心理を覗いてみたいとする。この作品は読むというより、本能的に痛みを感じる、いや感じてしまう。読み味はお世辞にも平和的ではない。けど、文章から離れられない。やや強迫観念じみた気持ちは「もっと読みたい」とわたしたちに告げる。痛そう、でも引き込まれる、読んでしまう。ボリューム的にかなりタイトな文章でありながら、ここまでの感情を惹起できる作者さんは、おそらくだけど無尽蔵の力があるのだと思う。