第一章「冒険者が多すぎる③」
「ううー、全身がぬるぬるします。お風呂に入りたいですねえ」
「まったくね。だぁれかさんのせいで
「まー、今回はにゃーたちが悪いにゃ。次からはもうちょっと考えて行動するにゃ」
「とりあえずやってみようと言ったのはあなたよ、このおバァカさん」
「過ぎたことは仕方ないにゃー」
「あはは……でも、これって、わたしたちが迷宮を
「セージにゃんがいなければ、マジで全滅してたからにゃあ……にゃーもちょっと、油断しすぎてたにゃあ」
「そうねぇ……もう少しで、本当に、あのぬるぬるがくせになるところだったわぁ。今、思い出しても……いけない気分に、ふふっ──」
「アルリアナにゃんだけ反省するところがなんか違ってねーかにゃ」
「スライムをペットにしたら、いつでもあのぬるぬるを楽しめるのよねぇ」
「……スライムローションを
「それも楽しそうねえ」
「沸いた、ぞ、湯、が」
スライムを捕獲したティルムたちは休憩をとることにした。
さすがに、スライムの粘液にまみれたまま
丁度、二刻石が一つ消え、休憩には良いタイミングだったというのもある。
「ありがとうございますセージさん。これでやっと体が拭けますよ」
「わかってると思うけれど、
「むしろ金を取るにゃー」
「あはは。セージさんはそんなことしませんよ。ねえ」
「……」
ふい、と、セージがティルムたちに背中を向ける。
「怒ったにゃ?」
「いえ、あれは面倒くさくなったか、照れてるだけかなって」
迷宮内で休憩を行う場合は、周囲に魔物がいないことを確認し、他の
「さすがに脱ぐ、のは、あれですね」
「それなりに人通りがあるものねぇ」
「安心するにゃ。脱がずに体を拭く方法を教えてあげるにゃー」
「わあ、それは助かります」
「女冒険者は助け合いにゃ。アレとかコレとか女にしかない問題もあるからにゃあ」
「それにしてもぉ、地下一階でこれじゃあ深層だとどうなるのかしらねぇ。日帰りは無理だしぃ、何日もお風呂に入らずに過ごすのよねぇ」
「深層になると逆に人目がないからいろいろと楽だったりもするのにゃーよ。珍しいタイプの冒険商人に、深層専門の移動風呂屋なんてのもいるにゃ」
「へー、迷宮の中でお風呂ですか」
「カートに
などと雑談をしながら、ティルムたちは
もし
「
「にゃはは。ついでに、このままお昼ごはんにするにゃ?」
「そうねぇ。少し早いけれどお昼時だものねぇ」
そういうことになった。
それぞれが昼食の用意をする/各自で持ち込んだ食事を取り出す。
「冒険者って普段はどんなお昼ごはんを食べてるんですか? わたし、とりあえずお弁当を作ってきたんですけど」
「冒険者の宿で売ってるお弁当か、軽くて保存の効く携帯食糧にゃ。にゃーは仕入れの売れ残りを食べる場合も多いにゃーね」
「私は携帯食糧にしたわよぅ。余計な荷物は持ちたくなかったもの」
「なるほど。じゃあ、いただきます」
と、ティルムが手を合わせ、昼食が始まった。
彼女はリュックから取り出した大き目の弁当箱を開ける。
中には野菜を挟んだパンと、花
「ティルムにゃん。意外とがっつり食べるにゃーね」
「あはは。動き回るから、お
「正しい、判断、だ。空腹は、判断と、動きを、鈍らせる」
そう言うセージは、腰のポーチから取り出した干し肉の
ククリカは冒険者の宿で売っている弁当だ。メニューこそティルムの手作り弁当にそっくりだが全体的に、べちゃっと、しなっとしている。
「うにゃー、宿弁当ばっかり食べてる身にはティルムにゃんのお弁当が目に毒にゃーね」
「良かったら少し食べますか?」
「催促したみたいで悪いにゃー、じゃ、遠慮なくこのから揚げを……む、
「ふぅん」
アルリアナが横目でちらりと、ティルムの手作り弁当を見た。美味くもなさそうにぽりぽりと棒状の携帯食糧をかじる。
「ありがとうございます。良かったら、お二人もどうぞ」
「いらないわぁ。お
「……
セージがから揚げを口に運ぶ。二、三度
「美味い、な。下味が、効いている」
「揚げたてなら下味が薄くても
「わかった」
言われたとおり、セージはパンの間に、揚げ肉を挟む。
パン、野菜、から揚げ、野菜、パンの構造だ。覆面の口元を押し下げ、かじりつく。
「なるほど、合う。この、野菜、酢漬けだな」
「はい。口の中がさっぱりします」
「パンも、だ、焼いて、時間が経っているのに、しっとりとしている」
「あはは、それはパン屋さんで買ったんですけどね」
「良いものを見抜く、目も、腕のうちだ」
「ありがとうございます」
「もう一つ、良いか」
「どうぞどうぞ、沢山ありますから」
ぐっぎゅーるるるるー。
そのとき、
誰かの腹が鳴る音だった。
一同の視線が、音の方向/アルリアナに向く。
アルリアナは何事もなかったかのような顔をしているが、
「気のせいよぅ」
携帯食糧は生地にハーブ、ドライフルーツなどを練りこみ棒状にして硬く焼き上げたものだ。
軽量で栄養価に優れ保存も効くが、食事としてはあまりに味気なく満足感に欠ける。
「……何が、気のせい、なん、だ? 鳴った、おまえの、腹だ、間違い、ない」
「気のせいと言っているでしょう。だから気のせいよ」
「にゃはは。素直になれにゃー。携帯食糧なんかで我慢できるはずがないにゃー。こっちには
「やめなさい、私を誘惑するのは!」
「あはは……誘惑って認めた時点でアルリアナさんの負けじゃないですかね」
「くっ!」
「それに、食事は三食ちゃんと食べないとだめですよ。特にアルリアナさんはまだ小さいんですから。ちゃんと食べないと大きくなれません」
「お母さんみたいなことを言うのねぇ、新米騎士のくせにぃ」
「あはは。ママですよー。甘えても良いんですよー」
「皮肉よぅ」
「ママー、にゃーの人生
「ひどい二十歳児ねぇ。まあ、そこまで言うなら食べてあげるわぁ。けれど、私を
すっ、と、ティルムの弁当箱からパンを
口調は変わらず、からかうように、だが、瞳に
「絶対に、美味しいごはんになんか負けたりはしないわぁ」
ぱくぱく、もぐもぐ、ごくん。
「おかわりぃ!」
「速攻で負けてるじゃねーかにゃ」
「あはは。どうぞ、まだまだ沢山ありますから」
「愚かね。これは自制した上で、あえて、食欲に負けているだけよぅ」
「苦しい言い訳にゃー。まったく、口を開けば皮肉しか言わない邪悪神官のくせに、かわいいところあるにゃーねえ」
「ふふっ、さすが商人ねぇ。下手なお世辞がお上手だことぉ」
「そんなこともないと、思いますけど」
「お
「セージさんはどう思います」
「…………宝に、
「いやそれどういうたとえにゃ」
「まったく、どうしようもないわねぇ。ここは私が大人になって譲ってあげるぅ」
ティルムの手作りサンドイッチを食べながら、アルリアナは少し笑った。
「ありがとう、
「……」
皮肉なのか本心なのかは、ちょっとばかり、判断が出来なかった。
昼食を終え、
次の獲物/捕獲対象はゴブリンだ。
「ゴブリンってどんな魔物なんですか」
「金にならねー
「捕まえるのは簡単そうねぇ。見つけることさえ出来ればだけれど」
「にゃはは。まあ、魔法使いがいれば《眠り》の魔法とかで一網打尽にゃー。いないけど、にゃーの魔銃で
新しい二刻石の
昼前と同じように、何度か、冒険者たちとすれ違った。
中には冒険の成果/氷魔法で固めたスライムの
同じぐらいに、まだ満足な成果がなく、ぴりぴりしたPTもいた。
ゴブリンらしき声を聞いたが、行ってみれば既に倒されていたこともあった。
そうこうするうちに、二刻石の灯りが消えた。
「思った以上に、魔物と会えませんね」
「にゃー。地下一階でもまともに回ると一日つぶれるぐらい広いにゃー。魔物もまだ結構いるにゃー。でも、それ以上に冒険者が多くて駆け出しには本当に厳しい時代にゃ」
「スライムも全然いないわねぇ。ペットに一匹欲しいのだけれどぉ」
「にゃはは……え、マジで飼う気にゃ」
「冗談よぅ。でも、『計画』って要するにそういうことよねぇ」
「──!」
そんな会話の最中、セージがいきなり、土の上に、腹ばいで寝転んだ。
「ど、どうしたんですかセージさん! 土下座ならぬ土下寝ですか!」
「……複数の足音。一箇所で固まって、激しく動いている。この足音の軽さは…………間違いない、ゴブリンだ。ゴブリンの群れが何かと戦っている。こっちだ」
セージの瞳には再び
ヒュン、ヒュン、ヒュン、と影が地面を切るようなセージの走りはさして力をこめているようには見えず、そのくせ、驚くほどに速い。
ティルムたちは引き離されぬようほとんど全力で走らなければならなかった。
「ここだ」
ぴたり、足を止めた。セージが
遅れて追いついた
戦闘が繰り広げられていた。
「ゴブッ! ゴブゴブゴブー!」
「やれやれ、こんな大群に会うのは久しぶりだな!」
「
「くそっ、あと、何体いるんだよ! 危ない、そこ後ろだ!」
浅黒い肌の青年剣士、
対するゴブリン──『子鬼』の別名に
七倍近い数の差があるが、それでも、正面から戦えば冒険者側が優勢だったであろう。
ただし、現在のような、前衛と後衛が入り乱れた乱戦ではその限りではない。
「そこだ!」
「ゴブッ! ゴブ…………」
「ゴブッ!」
「ぐあっ!」
青年剣士の一撃でゴブリンが倒れる。同時に、ゴブリンが背後から盗賊の少年を刺す。
「うっ……ど、どうしましょう、これ」
「嫌な臭いねぇ」
思わずティルムが口元を押さえた。アルリアナが
「これなら地力の差で冒険者側が勝つにゃーね。その前に、一人ぐらいは死ぬかにゃ?」
「あ、あの、助けに入ったり、はしないんですか?」
「横から手を出さないのが冒険者のマナーにゃ。横取りがどうのと
「そんな!」
「要は、あいつらを助けて、ゴブリンも捕まえれば良い。簡単なことだ」
セージが言った。
「
──そして。
「あの、大丈夫ですか?」
「うっ、ううん……おれたちは、確か、ゴブリンに不意打ちされて…………」
ティルムが、浅黒い肌をした青年剣士を揺り動かした。
青年剣士が頭を振りながら目を開け、ティルムを見た。
「お嬢さんが、おれを迎えに来た天使かい?」
「あはは。ここはまだ地上で、わたしはただの冒険者です」
ティルムの後ろには、アルリアナ、ククリカ、そして青年剣士の仲間の女神官と盗賊少年もいる。
女神官は
「あんたそれいつも言ってるけど、気取り過ぎてダサいからね」
「やれやれ、うちの天使はいつもこうだ。真面目に話をすると、おれたちが、きみたちに助けられたってことかな?」
「そういうことよぅ。サービスで《
「ありがとう。不意打ちとはいえ、まさか、ゴブリンにやられるとはね。これだから迷宮は怖い」
「そこそこ良い装備にゃーね。ちゃんと使い込んでもいる。
「ああ、ぼくとそっちの彼女がLV三で、そっちの盗賊がLV二さ」
浅黒い肌の青年剣士は立ち上がり、改めてティルムたちに頭を下げる。
「普段は地下六階、二層の上で狩りをしてる」
「不思議な話ねぇ。地下六階で通用する
アルリアナが言うと、青年剣士はティルムたちを見て肩をすくめた。
「そのネコミミ、LV六の『歩く銀行』ククリカ・テンセルだろ? きみたちが地下一階にいるほうが驚きさ。ま、ぼくたちはちょっと、仲間が一人、厄介な呪いを受けてね。普段と同じ調子で狩りをするのは難しいから安全策をとっているんだ」
「呪いですか大変ですね……あれ、《
「ぼくたちもそう思ってたよ。ただあれは最低料金らしくてね、簡単な呪いならともかく……うちの仲間みたいに厄介な呪いだと一気に跳ね上がるんだ」
「《
「いっそ死んだほうがまし、と言いたいけれど、生き返っても呪いが解けるわけじゃないからね。しかし本当にまいったな、許可証なしで成果もなしじゃ笑い話だ」
「待ちなさい。迷宮法第三条、迷宮の安全と保全に関する法で許可証なしの
「は? ああ……」
青年剣士は、アルリアナの胸の聖印/
「そりゃ悪いことだけどね。それじゃあ生活できないんだから仕方ないだろ。誰でもやってるし、ギルドの上はともかく、現場は黙認さ。それこそよっぽど派手にやらなきゃね」
「だから、法を破っても許されると?」
「じゃあ、法を守って仲間を見殺しにしろと? 冗談じゃない」
青年は目で、仲間の女神官と少年盗賊に合図をする。
「ぼくたちはそろそろ行くよ。明日は法を守れるようにもう少し獲物を探してみる」
「お世話になりました」
「あばよ、この借りは、いつか返すぜ」
ゴブリンと戦っていた三人
彼らがいなくなると、何もない場所から浮かび上がるように、セージが姿を現す。
「
「
完全に
ティルムは、青年剣士たちのPTが去って行ったほうを向いたままぽつりと
「……ちょっと悪いことしましたかね。大変な状況みたいですし」
「ふふっ、迷宮の
「みんなの利益と自分の利益が対立してるんだから仕方ねーにゃ。それを上手に調整するのが国の仕事にゃ。ま、思いっきり失敗してるみたいだけどにゃー」
また、ククリカが、鈴を揺らして肩をすくめた。
「……魔物の取り合いで、冒険者同士が、戦闘になった、話も、ある。無許可、探索ぐらい、まだ、マシだ」
ぼそぼそとセージが言う。
「そういうことが、なくなるように、するのが、おれたちの、仕事だ」
「そうですよね!」
ぱああっと、ティルムが明るい、感動に近い笑顔を浮かべる。
「にゃはは、セージにゃん良いこと言うにゃー」
「お
「……
「さっきまでかっこ良かったのにもうこれですよ、このひと!」
「戦闘中、なら、いくら、でも、喋れ、る、んだ」
「あなたもうずっと戦ってなさいな」
「おれ、も、そう、したい。いっ、そ、迷宮、に、住み、たい、ぐらい、だ」
「何言ってるにゃこいつ」
「おれは、迷宮が、好きだ。一番、落ち着く」
「もはや病理を感じるにゃ」
「あはは……そ、そうだ、ゴブリンを捕まえて、今日は帰りましょう。そうしましょう」
「そうだ、な。ゴブリン、は、ここだ」
セージが、迷宮の壁に近寄る。壁の下の方に、よく見なければわからない程度の、人間の子供がやっと通れるぐらいの穴が開いている。ゴブリンの巣穴だ。
恐らく、群れが巣穴を出たところで冒険者たちと鉢合わせたのだろう。
冒険者たちを気絶させ、ゴブリンたちを巣穴に押し込み、一芝居打ったのだ。
呼びかけると、巣穴から一匹のゴブリンが姿を見せた。
「……ゴブゥ?」
ゴブリンは先程の戦闘で傷を負ったらしく血を流している。武器こそ持ってないが、警戒しているのは雰囲気から見て取れた。
「おれたちは、味方だ。今のところ。話がある。聞け」
「……ごぶぅ?」
「…………おい、誰か、ゴブリン語を話せる
「ゴブリン語なんてあるんですか?」
「んなもん、本職の学者ぐらいしか知らねーにゃ」
「要するに、敵意がないと伝わればいいのよねぇ」
アルリアナが銀色の髪をかき上げた。
「──
祈りが
ゴブリンが淡く優しい輝きに包まれ、脇腹の傷が
「良いのか、秩序神の神官」
「お人好しの
つん、と、アルリアナは薄い胸の前で腕を組み、そっぽを向いた。
「あはは。とにかく、これで話が……身振り手振りで伝わりますかね?」
腰の剣をセージに預け、ティルムは非武装をアピールして一歩前に出た。
ゴブリンは傷があった場所を、信じられないといった顔で
「わたしたちは、魔物を保護する活動をしています。一緒に、来て、くれませんか」
「……ゴブゥ」
「……伝わりましたかね」
「…………ハナシ、ワカッタ」
「
ゴブリンの口から、片言の大陸共通語が漏れたことに驚きの声を上げる。
アルリアナもククリカもだ。セージだけは平然としている。
「共通語を喋るゴブリンか、久しぶりに、見た、な」
「オレ、カシコイ。ダカラ、ニンゲン、コトバ、ワカル。ダカラ、フシギ」
ゴブリンがじっとティルムを見た。意外に
ゴブリンが問う。
「ニンゲン、オレタチ、タクサン、コロシタ。ナノニ、コンドハ、オレタチ、マモルイウ。ニンゲン、ナニヲ、カンガエテイル?」
「あはは……」
生きるために魔物を殺し続けて、生き残るために魔物を保護しようとしている。
そして、その保護すらも、最終的には人工迷宮を築き──魔物を狩るためのものだ。
皮肉と言えば、これ以上ない皮肉。
身勝手と言えば、これ以上ない身勝手。
ゴブリンの素朴な言葉に、誰も、何も言えなかった。
地下一階での迷宮
既に日は傾き、空は夕焼け色に染まっていた。
PTは地上で待機していた魔物移送PTに捕獲したスライムとゴブリンを引き渡す。
「確認しました。後日、規定の報酬が皆さんの口座に支払われます」
「はい、よろしくおねがいします」
通常の冒険者のように魔物素材の収入が見込めないティルムたちには、魔物を引き渡すたびに報酬が払われることになっていた。
「それじゃあ、今日はお疲れさまでした」
「……」
「お疲れさま、と、一応言っておくわ」
「ばいばいにゃー」
引渡しが終わると、迷宮広場でPTは解散した。
普通のPTなら酒場に繰り出して打ち上げでもするのだろうが、
ティルムは今夜の晩ごはんは何にしようかなと
「あなた……セージ。この後、時間はあるかしら」
「ある、ぞ。なん、だ」
「冒険者のたまり場に案内してもらいたいのよ。詳しいでしょう?」
「冒険者の宿、か……ローション、スライムのなら、売ってない、ぞ」
「それはまた別の機会に聞くわ。今日は法と
「……」
「仲間は売れない? 冒険者にも仲間意識なんてものがあるのねぇ。ふふっ、バァカみたいに薄汚くて、だぁいっ嫌い」
幼いアルリアナは大人びた仕草で銀色の髪をかきあげる。
「『秩序神の神官にとって最も大事な仕事は罪を裁くことではない。罪が犯される前に手を差し伸べることである』──自慢するけれど、私は秩序神に愛された天才神官よ。帝都にだって私より優秀な神官は少ない。私の《
「おまえが、治すのか」
「そうすれば、あの冒険者たちは罪を犯すことはない。秩序神の
「……そう、か」
「ふふっ、覆面で顔を隠していてもわかるわよぅ。言いたいことがあるなら言ってごらんなさぁい。大抵の悪口にはなれているわ。才能があると無能の嫉妬を受けて大変なのぉ」
「おまえが、今日、一番の、お
「斬新な悪口だこと。初めて聞いたわ。どういう意味なのかさっぱりわからない」
「行く、ぞ。冒険者の宿は、多い。探すのは、大変、だ、ろう」
「あらそう」
二人が歩き出した。
夕焼けに照らされて、銀色の髪が、きらきらと
「ところでぇ、本当に、スライムって飼えないのかしらぁ?」
「……やめておけ、さすがに」
「つまんないわねぇ」
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