冒険者世界も不景気です 世界最強の人見知りと魔物が消えそうな黄昏迷宮/葉村哲

MF文庫J編集部

序章「世界の終わりは目に見えない」

「迷宮こそが無限の宝物庫である」 ──冒険王ローゼンガルド一世──



 牛を育てるのではなく迷宮に巣食うれん魔牛を狩る。

 麦を育てるのではなく迷宮に生息するはじけ麦を収穫する。

 鉄を掘るのではなく迷宮に生息する生きた鉄を解体する。

 迷宮と魔物と冒険者にって立つ国家、それがローゼンガルド帝国である。


 新暦九九七年。

 ローゼンガルド帝国/『帝国による平和パクス・ローゼンガルデイア』の成立より四百余年、ローゼンガルド六十八世の時代。

 いまだ冒険者は帝国の花形であり、迷宮前広場はいつも祭りのようなにぎわいを見せる。


 それはこの帝都ローゼリア近郊に位置するしんえん迷宮アヴィリディアも例外ではない。いな、その迷宮の規模に相応ふさわしく、その賑わいは大陸屈指のものであった。


 大陸に七つ存在する大迷宮/未踏破迷宮の一つであり、帝都ローゼリアで消費する魔物素材の一大産地、手に入らない魔物素材はないとすら称されている。

 地下/アヴィリディア内部へと続く階段の隣には冒険者ギルドの出張所があり、たんさく許可を求める冒険者でごった返し、その冒険者たちを相手にする商人の声が引っ切り無しに聞こえてくるほどだ。


「地下三階でとれた新鮮な花がえるの肉に特製スパイスをかけた絶品串焼き! 特大串焼きがたったの一本二ケイル、冷めてもい花蛙の串焼きを探索のお供に!」


「おなじみアイム武具修理店はこちら! ゴーレム鉄とオルトロス革なら在庫あるよ!」


「ペンにインク、ペンにインクはいらんかねー。書き味ばつぐんのグリフォン羽のペン、暗がりで光るヒカリゴケインク、紙もあるよー」


「青空神殿でーす! 《》は十ケイル、《せい》は五十ケイル、《解毒》、《びよう》、《かいじゆ》はそれぞれ百ケイルから。お得な回数券も販売中です!」


「冒険者ギルドです! 探索許可証の発行はこちらの列にお並びください! 申請には冒険者カードをお忘れなく! 冒険者ギルドです! 順序よく並んでください!」


 そんな、熱気とけんそうほんろうされている、一人の少女がいた。


「あわわわわ! ど、どこですかー! セージさーん! セージさああああああん!」


 名前はティルム・ディード。かれ色の髪をした小柄な少女だ。今年で十六歳になる。悲鳴を上げる顔はまだまだあどけなく、幼さを残していた。


 手に白い旗を持ち、飾り気のない長剣を腰に差し、背に小さなリュックと中型のたてを背負い、地味なよろい/茶に近い赤の厚手の鎧下に、鋼のきようこう、具足を身につけている。

 首元には、これだけは随分と派手な、鮮やかな赤色のスカーフを巻いていた。


 防御力と素早さを両立させたバランスの良い/平均的な前衛の戦士らしい装備だ。

 しかし、一目見てわかるほど似合っていない。武具の重さに体がんでないと言うべきだろう、一つ一つの動きにぎこちなさがある。


 ティルムは迷宮たんさく許可証を求めて並ぶ冒険者の流れに完全に飲み込まれ、手にした白い旗だけがちょこんと上に出ている。押され、流され、気付けばギルド受付前にいた。


「ようこそ冒険者ギルドへ。迷宮探索許可証の発行には冒険者カードが必要です。カードをお持ちですか」


 ギルド制服を着た受付の少女が、いっそすがすがしいほどに無表情かつ事務的に言った。

 ティルムは、慌てた様子でふところから冒険者カード/薄い水晶の板を取り出し渡す。

 受付の少女はちらとカードを眺め、手元の書類にかりかりと何かを素早く書き込む。


「結構です。探索許可証のない迷宮探索は迷宮法違反であり、発覚した場合は冒険者カードの停止──つまり冒険者資格の停止もあります」


 恐らくこれも決まり文句なのであろう警告の言葉と共に探索許可証が渡される。

 ティルムはやはり後ろから押されるようにして受付の前からはじき出された。

 そして、出張所を出て、やっと一息つく。


「は、はうう。ぼ、冒険者って、朝から大変ですねえ」


 迷宮にもぐる前からよれよれになってしまったティルムは、旗をつえにして一息ついた。

 視線の先には、多くの冒険者を飲み込んでは吐き出すギルド出張所が建っている。

 そのせわしなさはそのまま帝国内の冒険者がいかに多いかを/迷宮の重要さを/魔物素材がどれほど日常に密着したものであるかを示している。



 もしも、その魔物素材が、消えてしまったならば。

 迷宮が決して、無限の宝物庫などでなかったならば。

 迷宮は枯れつつあり、魔物が滅びつつあるとしたならば──



「……『人工迷宮計画ダイダロス・プロジエクト』か」


「ふふっ、やっと見つけたわぁ。その白い旗。あなたが私の仕事仲間なのね」


 つぶやくティルムの下に、また別の少女がやって来た。

 銀髪の、ひどくアンバランスな印象を与える少女だ。年の頃は十二か、十三か、はっきりと幼い。女性としても小柄なティルムよりさらに小柄だ。

 しかしその唇はつやめいて赤く、表情、態度、まとう空気は妖しくすらある。

 語尾を延ばした、からかっているような口調で彼女は名乗った。


「アルリアナ・デイジーコート。神に愛された天才神官よぅ。よろしくぅ」


 銀髪のようえんなる幼い少女/アルリアナはてんびんを模したちつじよ神の聖印を胸元にぶら下げていた。まとっているのも白い神官衣であり、腰には聖印を刻み祝福を施した儀礼武器──彼女の場合は短剣を下げている。

 これは確かに典型的な神官の服装だ。しかし、彼女が、秩序神の神官らしく見えるかといえば見えないだろう。

 ティルムは少し困ったような愛想笑いを浮かべて口を開く。


「……ええと、あなたも、その、あの『計画』に?」


「ふふっ、神殿からの命令でなければ薄汚い冒険者のごとなどしないわ」


「冒険者はきちんとした仕事だと思いますよ。けど、まずは会えてよかったです。わたし、ティルム・ディードって言います──」


「騎士団から派遣されたのね。貧乏くじを引かされた新米騎士さん」


「あはは……騎士ってわかりますか」


「おバァカさん。騎士は必ず、センスのないスカーフを巻いているじゃないの」


 アルリアナが指摘したとおり、赤いスカーフはローゼンガルド帝国騎士団員のトレードマークである。さらに言えば、ティルムの装備は全て騎士団の支給品だ。


「まだあるわよぅ。あなた──ティルムは見るからによろいを着慣れていないもの。私よりは年上のようだけど、それでも若い。入団したばかりの新米だろうと察しもつくわね」


 アルリアナはしそうにくすくす笑う。

 ティルムはいまだに困ったような、愛想笑いを浮かべている。


「当たりです。昨日入団したばかりなんですよね」


「ふふっ、お互い運がないわねぇ。入団したばかりで貧乏くじを引かされたんだもの」


 皮肉にほんのわずかだけ気遣いを混ぜてアルリアナが言う。

 ティルムは小さく首を振った。


「でも、誰かがやらないといけないことですから」


「あら、おひとしぃ」


「あはは、よく言われます」


 愛想笑いではない笑顔を、ティルムは浮かべた。

 ふふっ、と、アルリアナも微笑ほほえみ返す。


「でも、私はお人好しってだぁい嫌い」


「あはは……そうだ自己紹介、冒険者カードの交換、しましょうか」


 アルリアナの暴言が聞こえなかったふりをして──反応に困ったというのもあるが──ティルムは冒険者カードを取り出した。

 冒険者カードはギルドが発行する冒険者の身分証明書である。

 同時に、数値化された冒険者としてのステータス/LVレベル・技能・特技が記されている。

 冒険者カードは、はるか過去に滅びた古代文明の遺産を利用して発行されている。原理は未だ不明のままだが、『冒険者の国』ローゼンガルドに存在する膨大な数の冒険者を管理するためには絶対に必要なものでもあった。

 互いにカードを確認する。



●ティルム・ディード/十六歳

 騎士/属性Nアライメント・ニユートラル

 総合LV:四

 冒険技能:戦士四・学士LV四

 生活技能:貴族礼法LV三・法学(帝国法)LV三

 戦闘特技:たてたくみ・堅陣構築



●アルリアナ・デイジーコート/十三歳

 神官/属性Lアライメント・ロウ

 総合LV:五

 冒険技能:神官(ちつじよ神)LVレベル

 生活技能:神学LV五・法学(帝国法)LV五

 戦闘特技:魔法拡大・秩序神の祝福・秩序神の加護



「十三歳でLV五の神官なんですか!」


「LV四のダブルスキル、ね。驚いたわ。LV一か、高くて二だと思ってたものぉ」


「……あはは、高等学院でがんばったら、LV四になってました」


「これも私が神に愛されているあかしよぅ。神学校では百年に一度の天才と嫌われていたわ」


 たとえばろくに訓練を受けていない場合はLV〇となる。最低限の訓練を受けた駆け出し冒険者がLV一、迷宮をたんさくし経験を積んでLV三になれば一人前、LV五ともなれば冒険者の中の冒険者と言えるだろう。

 高等学院や神学校で高度な訓練を受けたとしても、卒業時はLV二が精々である。

 その基準から考えれば、ティルムとアルリアナはまぎれもない天才だ。

 十三歳のようえんな少女──アルリアナが銀色の髪を揺らし、肩をすくめる。


「悪くないわぁ。騎士なら、少しはまともな人間でしょうし」


「ありがとうございます……で、良いんですかね?」


「残りは二人ねぇ。商人組合と冒険者ギルドの貧乏くじ仲間が楽しみぃ。私、冒険者と商人がだぁい嫌いなの。もちろん、子供じゃないのだから仕事中は我慢はするわよぅ」


「……く見つけられると良いんですけど。こんなに混雑してるとは思いませんでした」


「所詮は商人に冒険者でしょう。案外、面倒になって投げ出したのかもぉ?」


「失礼にゃー、他の商人はともかく、にゃーは約束守るにゃーよー。『取るものは絶対に取るけれど、必要以上には絶対取らない』がにゃーのりゆうにゃー」


 素っ頓狂な口調の台詞せりふと共に、がらがらと荷車/カート(サイドに可愛かわいらしい猫のイラストが描かれている)を引きながら、一人の女がやって来た。

 頭の上のネコミミ飾りと、美しい緑の瞳が特徴的な女だ。

 にこにこと人好きのする、だが、どこか偽物めいた張り付いた笑顔を浮かべている。

 首には鈴の飾り/音は出ない。手首などの急所を革で補強した服。腰に古代文明時代の武器──魔銃/拳銃の入ったホルスターを下げ、背に大型魔銃/長銃を背負っている。

 ネコミミ女は二人に微笑ほほえみかけると、にゃーにゃー言いながら自己紹介を始めた。


「こんにちにゃー。冒険商人のククリカ・テンセルにゃ。商人組合からあつせんされて今回の仕事を引き受けたのにゃー。『計画』が終わるまで、よろしくにゃ」


「よ、よろしくお願いします。ところで、冒険商人って何でしょうか?」


「冒険者以外にはみがないかにゃ? 簡単に言えば、迷宮にもぐれる戦う商人さんにゃ。素材を取りに行くこともあれば、迷宮内で冒険者から直接素材を買い取ったり、薬品や魔法のスクロールを販売したりにゃ。だから──」


 軽く、緑色の瞳の商人/ククリカは腰のホルスターをでた。


「──腕には、自信があるにゃ」


 撫でたと思った、次の瞬間には、魔銃が抜かれていた。

 その動きの早さを、ティルムは目でとらえることが出来なかった。

 アルリアナも、恐らくは同じだろう。


「これ、にゃーの冒険者カードにゃ!」


 逆の手で彼女は冒険者カードを出す。

 三人は冒険者カードを交換し、各々のステータスを確認する。


「うにゃ! LVレベル四のダブルに、LV五の神官なんて、二人とも若いのにすごいにゃ!」



●ククリカ・テンセル/二十歳

 商人/属性NLアライメント・ニユートラルロウ

 総合LV:六

 冒険技能:魔銃使いLV六・ぎんゆうじんLV三・野伏LV三・学士LV三・戦士LV三・神官(幸運神)LV一

 生活技能:取引LV六・鑑定(価格)LV六・算術LV五・経営学LV五

 戦闘特技:抜きち・狙い撃ち・踊り撃ち





「……LV六、しかも、技能の種類がすごい」


「にゃはは、一人で迷宮にもぐるうちに色々と身についちゃったにゃーよ」


だったんですか!」


「昔は商人仲間でPTパーテイを組んでたにゃー。けど、にゃー以外が引退したにゃ」


 ククリカが、肩を落とす。


「男二人、女三人の五人PTだったにゃー……PT内でカップルが二組できて二組とも妊娠結婚引退にゃ、それから、ずっと単独にゃ………………にゃあ」


「ばぁかみたい。二十歳の大人がネコミミつけてにゃーにゃー言ってるせいよねぇ」


「ああ、これは商売上のキャラクター作りです」


 ククリカはネコミミを外すと、真顔になり歳相応の口調となって答えた。


「わたしのような単独商人はまず名前を覚えてもらわなければいけません。幸い、公平かつ公正な商売をしているうちにお得意様も増えたのですが、せつかくなので続けています」


 ティルムとアルリアナの二人は、ククリカの変貌にぽかんとしていた。

 ククリカが再びネコミミをつける。また、張り付いたような微笑ほほえみを浮かべた。


「確か四人PTパーテイにゃーよね。最後の一人はどんな人なのか楽しみにゃー」


「冒険者になんて、なにも期待しないわよぅ」


「セージさんは……悪い人じゃないと思います。ちょっと変わってますけど」


 ティルムは、何か思い出したのか、少しおかしそうに言った。


「案外、もう、わたしたちの近くにいるかもしれません」


「……、わかった、ティルム」


 声がした。

 声だけがした。

 ティルムの隣に、何もないところから浮かび上がるように、声の主は現れた。


「おはようございます、セージさん」


「……」


 黒い男だった。暗闇を人間の形にしたように、頭の上から爪先まで全てが黒かった。

 黒い革製のつなぎに身を包み、腰に黒いさやをさし、顔もまた黒い布でおおい隠している。

 覆面の隙間からのぞく瞳まで黒く、まとっている空気そのものが黒い。

 その姿は、さながら死神の如く、不吉と死を想起させる。


「………………おはよう」


 挨拶の言葉を思い出すような長い間を置いて、不気味な黒い男/セージはそうつぶやいた。


「……な、なにぃ、こ、この男…………本当に、人間…………なのよ、ね?」


「……な、なんにゃ、こいつ何を、したにゃ。姿も、足音も、気配もなかったにゃ」


「……」


 セージは無言だ。ティルムがとりなすように口を挟む。


「セージ・トーラストさんです。冒険者で、盗賊で、特技がさっきみたいに見えなくなることだそうです。何でも、気配を消して意識の死角にもぐんでるとか」


「簡単に言ってるけどそれすごすぎねーかにゃ?」


「挨拶ぐらいしたらどうなのぉ。ああ、冒険者に礼儀を期待するだけ無駄かしらぁ」


 驚かされた仕返しとばかりに、アルリアナは皮肉な目でセージを見上げ言葉でなじる。

 セージは無言のまま答えず、ふい、と視線をらした。

 慌てた様子で、ティルムがぱたぱたと両腕を振りながら二人の間に入る。


「あ、あはは。セージさんはずっとだったせいで会話が苦手らしいんです。ただ照れ屋さんなだけで、悪気はないと思うので怒らないであげてください」


「なによぅ、つまんなぁい」


「にゃー? アルリアナちゃん、冒険者のこと嫌いにゃ?」


「冒険者なんてだぁい嫌い。商人はもっとだぁい嫌いよ」


「あはは……あの、これから一緒に仕事をするんですから、もう少し仲良く……」


 控え目にティルムが主張した。


「……」


「ふふっ」


「にゃはは」


 セージは無言。アルリアナはからかうように笑う。ククリカは真意が見えない作り物のような笑顔を浮かべたままだ。


「と、とりあえず! セージさんも冒険者カードを見せてもらえませんか!」


 言われ、セージは冒険者カードをティルムに渡した。



●セージ・トーラスト/年齢不明

 盗賊/属性NCアライメント・ニユートラルカオス

 総合LVレベル:七

 冒険技能:盗賊LV七・野伏LV六

 生活技能:魔物知識LV七・魔物解体LV六

 戦闘特技:第六感・影歩き・急所狙い・天の──絶技『みよう無想』



「へえ、セージさんってLV七だったんですね……え、LV七!」


「こいつがぁ? 十三人しかいないLV七の一人ぃ? 冗談でしょう?」


「LV七……セージ……セージ……」


「……」


 LVは実力の目安であると同時に、才能の壁でもある。

 LV三までは本人の努力次第。LV五になれるのは努力と才能を兼ね備えた約一割。LV六ともなればさらに減少し、LV七に至っては──現在、大陸に十三人しかいない。

 それより上はもはや伝説の領域である。

 冒険者の最高峰、人間の限界点、伝説の領域に踏み込んだもの。

 それがLV七である。


「セージ……セージ…………セージ・トーラスト!」


 にゃ! っと、ククリカが緑の瞳を見開いた。


「『絶影』、『死の指先』、『殺す闇』! ありとあらゆる魔物をで狩り続け、ついにはドラゴン殺しを成し遂げたLV七! その素顔を知る者すらいない圧倒的正体不明──『首狩り屋』セージ・トーラストにゃ!」


「セージさんってそんなにすごいひとだったんですか!」


「ドラゴン殺しねぇ……この男がぁ?」


 ティルムたちの視線がセージに集まる。

 特に、ククリカは、張り付いた笑みを一段深くし、ずいと一歩、距離をつめた。


「お会いできて光栄ですにゃ! にゃーはククリカ・テンセルですにゃ! LVレベル七ともなったら迷宮の奥深くにもぐりますにゃ? 素材が持ちきれなかったり、アイテムが足りなくて困った経験はありませんかにゃ? そんなお悩みを解決するのが冒険商人ですにゃ! にゃーならどんな場所でもカートを引いて駆けつけますにゃ! 今までも──」


「…………」


 立て板に水の如くまくし立て、ククリカは自分を売り込み始める。

 セージの困惑した様子は覆面の奥からすら伝わって来るが、気に留める素振りもない。

 その素早さと強引さは、ククリカの商人としての才能であろう。だが──


「わかったぁ。そんな風にガツガツしているから、一人だけ結婚できなかったのね」


「ぐふっ!」


 アルリアナの残酷な指摘に、ククリカがひざから崩れ落ちた。


「あ、あはは……そろそろ、出発しませんか。たんさく許可はわたしが取りましたから」


 このPTパーテイは突っつけば突っつくだけ問題が起きる。

 ティルムはそう悟り、仲間たちをうながした。


 帝国をべるこうぞくが設立した帝国騎士団から新米騎士のティルム・ディード。


 帝国で信仰される五大神の神殿連合より天才神官アルリアナ・デイジーランド。


 帝国の金庫番である商人組合より冒険商人ククリカ・テンセル。


 そして、帝国の背骨とも呼ばれる冒険者ギルドより、ドラゴン殺しの『首狩り屋』セージ・トーラスト。



 迷宮深層でも通用する実力/才能を持つという以外は、何一つ共通点のない彼ら。

 彼らはPTパーテイを組み、しんえん迷宮アヴィリディアに挑む。

 それは迷宮の深層に住まういまだ見ぬ魔物をとうばつするためではなく。

 それは迷宮の最果てに到達し迷宮の踏破者となるためではなく。

 それは迷宮の最下層に封印されている古代文明の遺産を発掘するためでもない。



「今日は、地下一階で、『ゴブリン』と『スライム』を保護します」



 魔物の保護/捕獲/管理のために──

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