第一章「冒険者が多すぎる②」


 そして時間を戻す。

 セージ、ティルム、アルリアナ、ククリカの四人は迷宮第一層地下一階にいた。

 空気はひんやりとして、周囲は薄暗い。足元は土で、ところどころからごつごつした岩が飛び出ている。端的に言えばどうくつのようだった。


「わあ、迷宮ってこんな感じなんですね。思ったより普通」


「普通じゃない場所もあるにゃーよ。まあ第一層地下四階まではこんな感じにゃ」


「層と階って何が違うんです?」


「地形が変われば魔物も変わるにゃ。つまり難易度が変わるにゃ。だから同じ種類の階をまとめて第一層とか第二層って区分けしているにゃ。それぞれに名前もあるにゃ」


「なるほど。じゃあ、ここはどう呼ばれてるんです?」


しんえん迷宮アヴィリディア第一層『深淵の始まりは土と泥』」


 セージがつぶやいた。


「地下一階──別名を、『自殺街路』、だ」


「あらぁ随分と物騒な名前がつけられているのねぇ。おもしろぉい」


せい術が普及するまでは、新人の半分が地下一階で死んでたにゃ。冒険者になるのは死にに行くようなものだから『自殺街路』。今でも、新米PTパーテイが最初の戦闘で死人を出してダッシュで神殿に駆け込むのは迷宮の風物詩みたいなもんにゃ──あ、ほら、丁度」


 階段を下りた直後はまた、ちょっとした広場のようになっている。ここから三方七箇所に通路が枝分かれしていた。

 通路の一つから、一つのPTが、階段へ向かってダッシュしている。見るからに新米といった四人PTパーテイで、神官らしき青年が、血まみれの女戦士の体を背負っていた。


「くそっ! まさか初戦闘でいきなり死者が出るとは!」


「あわわわわわ、あわわあわわ、頭が、頭が割れてぴゅーって血が!」


「やめてやる冒険者なんてやめてやる冒険者なんてやめてやる」


 彼らはそのままダッシュで、階段を駆け上がって行った。

 その背中を見送り、ククリカがけらけらと笑い飛ばす。


「にゃはは、初々しいにゃー。早速、迷宮の洗礼を受けたにゃーね」


「嫌な洗礼ですね! っていうか、命の扱い軽っ!」


「だって、せいが一回五十ケイルにゃーよ? 宿代二日分ぐらいにゃ」


「確かに命の値段と考えたら異常に安いですけど!」


「おれは、不思議だった、前からだが。どうして、なんだ、《蘇生》が五十ケイルで、《解毒》や《びよう》が最低百ケイル」


 とつとつとしたセージの言葉に、自然と、一行の視線が本職/神官のアルリアナに集まる。

 アルリアナがどうでもよさそうな態度で、銀色の髪を揺らして肩をすくめる。


「あれは本物の蘇生術を劣化させて簡単に扱えるようにした、まがい物だからよぅ」


「違う、のか。本物の、蘇生術、とやらは」


「劣化蘇生術は死体の状態で成功率が左右されるわよねぇ。本物の蘇生術──神の奇跡に失敗はないわぁ。使い手もめったにいないけどねぇ。それよりもぉLVレベル七、ひとの目を見て、もっと、はきはきとしやべれないのぉ? きもちわるぅい」


「……」


 悪戯いたずらめいた上目遣いでアルリアナが見詰める。セージがすうと姿を消した/逃げた。


「あはは、そろそろ行きませんか? ずっとここでお喋りしてても仕方ないですし」


「そうするにゃ」


 ククリカがカートからランタンを取り出した。ランタンの中に入っているのは油とともしではなく丸い石だ。丸い石を軽くたたくと、石が白く輝き、周囲を照らし始めた。


「何ですか、それ」


「二刻石にゃ。これ一つで二刻、《あかり》の魔法が周囲を照らす便利アイテムにゃ」


「魔銃みたいな古代文明の遺産ですか?」


「にゃはは。時間を調節して《灯り》の魔法をかけただけの石にゃ。三個一ケイルの、駆け出し魔法使いの小遣い稼ぎにゃ。迷宮では時計代わりでもあるにゃーよ」


「なるほど、明かりと時計を兼用してるんですか……へえ、冒険者の知恵ですねえ」


「その通り、冒険者の知恵にゃ。はい、アルリアナにゃん、ランタン持つにゃ」


「どうして私なのかしら。商人の分際で私に雑用を押し付けるつもりぃ?」


「役割の問題にゃ」


 アルリアナの暴言を軽やかに無視し、ククリカが肩をすくめる。


「戦士のティルムにゃんと盗賊のセージにゃんは前に出るにゃ。神官のアルリアナにゃんと商人のにゃーは後衛にゃ。で、にゃーはカートを引いているにゃ」


「手が空いてるのは私だけってことねぇ。まあ納得してランタン係をしてあげるわぁ」


「余計な荷物はにゃーのカートに乗せるといいにゃ。物資管理も商人の仕事にゃ」


「ありがとうございます」


 ティルムがぺこりと頭を下げ、背負っていたリュックをカートに乗せた。


「セージにゃんと、アルリアナにゃんは荷物を乗せないにゃ?」


「おれは、持ち歩かない、余計なものを。元々、だから、な」


「預けるほどの荷物はないわ。預けられないほどの神の愛があるだけよぅ」


 セージが再び姿を現し答える。アルリアナが銀色の髪をかき上げ冗談めいて告げる。


「剣よし、よろいよし、たてよし……うん、大丈夫。わたしはいつでも出発できますよ」


 ティルムが腰の剣を確かめ、よろいのずれを直し、背負っていた中型のたてを左で持った。


「準備は出来ているわ」


 アルリアナが左手に二刻石のランタンを持ち、右手で胸にるした聖印をでる。


「にゃーも行けるにゃ」


 ククリカが腰と背中の魔銃に弾を込め、カートの車輪を目視で確認する。


「かまわない」


 セージは何もしない。迷宮に入る前に全ての準備は終えたと言わんばかりに。

 人の形をした暗闇のようにたたずむ。

 PTパーテイの準備は整った。

 たんさく開始を前に、ティルムは、全員の顔を見て、笑顔を浮かべて、頭を下げる。


「それじゃあ──みなさん、今日は、よろしくお願いします!」


「……」


「はぁい。上辺だけのお付き合いをよろしくねぇ」


「にゃはは」


 こうして、性格的に見事にまとまりのないPTは初めての迷宮探索を開始した。


「……あはは」


 ティルムは、早速、ちょっと、心が折れそうになった。



 ランタンのあかりを頼りに、PTはところどころに岩が飛び出た土の道を進む。

 前列にティルムとセージ、後列にアルリアナとククリカ。ククリカが引くカートからわずかに、車輪がきしむような音がしていた。

 最初こそ緊張していた様子で片手を剣に添えていたティルムだったが、あまりに何も起きない/同じ冒険者とすれ違う程度なので、次第に、気がゆるみ、口を開く。


「いませんねえ。スライムも、ゴブリンも」


「にゃはは。一階はわなもないし、まずは迷宮に慣れることにゃーよ」


「そんなものですか?」


「ゴブリンもスライムも、ぶっちゃけにゃ。下がLVレベル四、上がLV七でドラゴン殺しのPTパーテイじゃ負けるほうが難しいにゃ」


「なるほど、あ、こんにちは」


 何組目か、また、セージたちは、別のPTとすれ違う。

 くたびれた装備の戦士が二人に魔法使い一人、全員が三十歳程度の男所帯だ。獲物が見つからずいらっているようで、ティルムの挨拶にも素っ気なく会釈を返しただけだ。


「くそっ、全然スライムがいねえ。どうする、きのことコケ狙いに切り替えるか?」


「宿代で消えるぞ、厳しいな」


「最近はそっちも減ってるからな……おい、あれ見ろ」


 ちら、と、魔法使いローブをまとった男が、ティルムたち、正確にはククリカを見た。

 他の二人も、同じようにククリカに気付いて舌打ちをする。


「『歩く銀行』じゃねえか。LV六が地下一階で何してんだよ」


「ただでさえ、最近は獲物が少ないってのによう。LV六ならもっと深くもぐれよ」


「やめとけ。相手はギルドにだって顔が効くLV六の名士さまだ」


 聞こえない程度の小声のつもりだったのだろうが、どうくつの反響は、しっかりと彼らの皮肉なつぶやきをティルムたちの耳に届けていた。


「嫌われちゃいました、かね」


「にゃはは。気にする必要ないにゃ」


 ククリカは本当に全く気にした様子なく、笑い飛ばす。


「そうよねぇ」


 けいべつちようろうあらわに、アルリアナが銀色の神をかき上げ赤い唇を釣り上げる。


「あの歳で、地下一階でくすぶっている小物に生きてる価値なんてないわぁ。稼ぎたいならLVを上げてもっと深いところに潜れば良いだけよ。自分に甘い、クズよねぇ」


「そういう言い方は良くないですよ。ひとには、それぞれ事情があるんですから」


 さすがに見かねたのだろう、ティルムはたしなめるように言った。

 しかしアルリアナは鼻で笑う。


「誰にだって事情はあるでしょう。そんなのただの言い訳ねぇ」


「アルリアナにゃん、小さいのに厳しいにゃー」


「でも……」


 納得が行かない、という表情をティルムは浮かべている。アルリアナは皮肉っぽく笑った。セージは無言で、ククリカはどうでも良さそうだ。

 気まずい空気をただよわせたまま、一行はなおも、進む。

 ──ぴちゃん。

 不意に、小さすぎるほどに小さな水音がした。聞こえたのはセージだけだった。


「──止まれ」


 セージが、低い、だが、震えもどもりもないめいりような声で告げる。

 背筋が伸び、黒い覆面の奥の瞳はやいばのように鋭くなる。

 ティルムたちを残して一歩前に出る。天井を見上げる。何かを探しているように、何度も、立ち位置を変え、やがて、足を止め、天井の一点を指した。


「いたぞ、スライムだ」


 ティルムたち三人がセージのそばまで行く。アルリアナがランタンをかざす。

 すると確かに、天井の片隅で、何かがランタンの光を反射して輝いた。


「うわセージにゃん、よく気付いたにゃーね。あれ、確かに、スライムにゃ」


 透明なねんえきかたまり。余程に注意深いか、幸運がなければ見落としていただろう。

 一つの大きさは、人の頭より少々大きい程度か、それが、五~六匹はいる。


あいにく、私は詳しくないのだけれど。スライムってどういう魔物なのかしらぁ」


にゃ」


 ククリカが言った。


「攻撃が通じないのは厄介だけど、松明たいまつで焼き払うか氷魔法で凍らせれば一発にゃ。おすすめは氷魔法にゃ。スライムの素材──粘液は焼くと大部分が消えるけど凍らせれば丸ごと手に入るにゃー。スライムの粘液は保湿性がとっても高いにゃ。傷薬の材料とか、化粧品の素材に需要が多くて、雑魚のくせに良い値段になるから大好きにゃー」


 そしてわずかな沈黙を挟みセージも口を開いた。


「スライムは雑魚だ。知能は低い。動きは鈍い。だが、極めて危険な雑魚だ」


「雑魚なのに危険なんですか?」


 かれ色の髪を揺らしてティルムが首をかしげる。


やつらは目の代わりに『熱』と『音』で『見る』。天井に貼り付き、獲物が下を通るのをじっと待つ。落下し獲物の頭部を包み込み、窒息させ死体を食う。一度、スライムに包まれたら助かる方法はない。スライムに殺されるか、スライムごと焼かれてしまうかだ」


 二人の説明の差異はそのまま、二人が魔物をどう見ているかの差異であろう。


「にゃー? 確かにスライムで死ぬ駆け出しも多いけれど、どうせせいで一発にゃ?」


「冒険者にとっては死は身近な友人だ。しかし、死に甘えるのは二流だ。深層に進めば進むほど、死体を抱えての帰還は困難になる。全滅すればなおのことだ」


 セージの声は変わらず明瞭だが、そこに感情の色は薄い。

 それだけに、その言葉は、奇妙な重みを持って響く。

 どちらかと言えば、一般的なのは、ククリカの考え方である。それほど、『死』を容易たやすくつがえす『せい術』の恩恵は大きい。安価で手軽な『蘇生術』の完成によって冒険者は一気にその数を増やし、ついには、人口の四割を占めることになったという経緯もある。


「……にゃあ」


 冒険者になれ過ぎたククリカは耳に痛いことを聞いたと苦笑を浮かべる。まだ冒険者としての経験が浅いティルムとアルリアナは素直に感心する。

 特にアルリアナは、心底驚いた/しかし見直したといった顔をしていた。

 じっ、と、セージの顔を見詰めて、心なしか柔らかな口調で言う。


「さすがねえLVレベル七。いえ、セージ、普段からそれぐらいはっきりと自分の意見を言えるなら、私も認めてあげるわぁ」


「……吐き気がする」


「ふぅん? そういうけんの売り方は好きよぅ、泣くまでののしってあげるぅ」


 いきなりセージがそっぽを向いて吐き捨てる。その態度に、アルリアナがついとを細めた。ティルムが慌てて二人の間に割って入る。


「お、落ち着いてください。というかどうしたんですかセージさん急に!」


しやべり、すぎた。調子に、乗った。緊張で、今は、吐きそうだ」


「ええええええええ!」


「もう、ずっと、ドラゴンと戦っていたい。その方が、楽だ」


「基準がすごい! いやむしろドラゴンがたいしたことないように思えちゃいます!」


 ぷるぷると、セージ(LV七・でのドラゴン殺し・生きた伝説)は震え始める。


「そもそも、どうして、このPTパーテイは女ばかりなんだ」


「今更そんなことを言われましても!」


「女は、苦手だ。わからん」


「わたしはセージさんがわかんないです! とりあえず背中さすってあげますから!」


 さすさすと、黒いつなぎに包まれたセージの背中をティルムがでる。


「なんか、ティルムにゃん、セージにゃんのお母さんみたいにゃ」


「情けない男ねぇ」


 心底からのけいべつを浮かべて、アルリアナが銀色の髪をかき上げた。

 首の鈴を揺らして、ククリカはさして興味もなさそうに肩をすくめる。


「ところで、あれ、どうやって捕まえるにゃ?」


「……え?」


 一瞬の沈黙。


 どうくつの冷えた空気が通り過ぎ、ぴちゃんと、また水滴/スライムのねんえきしたたる。


「ないのぉ? 捕獲の手順書のようなものは」


「ない、と、思います。多分、それを考えるのもわたしたちの仕事かなと」


「にゃー……確かに、魔物の捕獲なんて普通はやらないからにゃー」


「えっとセージさん、何か、案は?」


「……」


 ティルムが声をかけるも、セージはまだうずくまって震えている。

 セージを除く三人は、天井に貼り付くスライムを見上げた。


「手は……届きませんよね」


「届いたとしても、ねんえきかたまりなんてつかめないわねぇ」


「下手に触ったら、腕を伝って頭に取り付かれて終わりにゃ」


「凍らせて……溶かす?」


「凍らせた時点でスライム死んでるにゃ」


「あはは。倒すなら難しくないんでしょうが、捕まえるとなると……案外、困りましたね」


「生け捕りだものねぇ。虫取り網のようなものでもあれば良いのかしら」


「網の隙間を抜けるだけだにゃ」


「ならつぼを……手が届かないのね。脚立でも持って来るべきかしらぁ」


「それですよ。高さが足りないなら、みんなで肩車をすれば」


「あー、それならギリギリ届きそうにゃ。凍らせたスライムを入れるつぼもあるしにゃー」


「待ちなさいおバァカさんたち。それは本気で言っているの? どう考えても危険な、失敗の予感しかしないのだけれど」


「とりあえずやってみるにゃーよ。知恵と機転はどれだけしぼってもタダにゃ。それでも無理ならお金を使ってひとを雇うか物を使うにゃ」


「私は反対したわよぅ」


「あはは。ま、まあ、とりあえず挑戦ですよ。セージさーん!」


「…………なん、だ?」


 知恵と機転/別名『思いつき』によりセージたちは全員で肩車をすることになった。

 体格順にセージが土台、ククリカ、ティルムと続き一番上の捕獲役がアルリアナだ。

 四人の肩車はお世辞にも安定しているとはいえないが、一応、垂直を保っていた。


「どうですかアルリアナさん」


「信じられないけれど、意外にく行きそうよぅ」


 スライムのすぐ下につぼの口を合わせる。短剣の先で天井を軽く削るようにするとスライムがずるりと壷の中に落ちて来た。


「やったわ!」


 次の瞬間、スライムが壷の中で急に激しく動いた。


「わっ!」


「えっ!」


「にゃ!」


「……」


 辛うじての安定を保っていた肩車が崩壊した。崩れる肩車、地面に落ちるティルムたち、壷こそ割れなかったがスライムは飛び出し、襲い掛かって来た。

 さらには、その『音』と『熱』に反応し天井のスライムたちまでもが襲い掛かって来る/一斉に落下し、獲物/ティルムたちにまとわりつく。


「うひぃ、ぬ、ぬるぬるして気持ち悪いです! わ、わあ服の中に入って来た!」


「ひ、ひんっ。く、くすぐったい。こ、こいつら、じわじわ、上に登って来てるぅ」


「やべえにゃ。頭に来られたら終わりにゃっ! ていうかスライム相手に全滅とか笑い話にしかなんねーにゃ!」


 幸運なことに、いきなり頭部を包まれる/窒息死することはなかった。

 しかし、スライム/ねんえきの固まりはティルムたちに絡まり肌の上をいずり登る。

 ひんやりぬるぬるとした感触は気持ち悪くも気持ち良くもあり、彼女たちの背筋にぞくぞくしたものを走らせる。


ちなみにスライムの粘液はローションにも使われてるにゃあ! スライムローションのぬるぬる感にはまっちゃう冒険者もちょくちょくいるのにゃあ!」


「そ、そんな話を、今しないで下さいよぅ!」


「……ふふっ、でも、確かに、この、ぬるぬる感は癖になりそう、ねぇ。はぁん」


「アルリアナさぁあああああん! そっち行っちゃだめですぅううううう!」


「……」


 一人、素早く難を逃れていたセージが、腰の短剣を抜いた。

 冷え冷えと白く、三日月を思わせる鋭いやいばだ。

 銀光いつせん──セージは、スライムたちの首をはねた。

 音もなく、彼女たちを襲っていたスライムが、何十ものスライムの破片に分断される。力を失い、ぼとぼと、と、ダンジョンの土の上に落ちて行く。


「へ?」


「あ、あら?」


「にゃ……ス、スライムを斬ったのにゃ!」


 ティルムとアルリアナがぽかんとする。ククリカはきようがくの視線をセージに向ける。


「スライムは群れの生き物だ。一匹に見えるスライムも、雌雄数十匹の小スライムによって構成されている。スライム同士の『つなぎ目』を狙えばスライムは斬れる」


「そんなの聞いたことないにゃ!」


「おれが調べた。魔物を狩るためには、魔物を知る必要がある」


 魔物を狩り続けたLVレベル七──『首狩り屋』セージ・トーラストは静かに告げた。


「ところで、おまえたちは、何を、したかったんだ」


「……え? それは、スライムを、捕まえようとしたんですけど」


「……?」


 セージは首をかしげた。

 そして、幸運にも割れていなかったつぼを抱えて天井を見上げる。

 天井にはまだ一匹、実際は数匹の小スライムが集まった、小ぶりなスライムがいた。


「子供のスライム、か。親から、分裂した、ばかりの」


 セージはスライムの真下に立った。

 小ぶりなスライムが獲物に襲い掛かる/落下する。より正確には、天井からの跳躍と表現するべきなのだろう。意外なほどに速度と勢いがある。

 セージは危なげもなく身を引き、壷でスライムを受け止め、蓋をした。


「捕まえた、ぞ、スライムを」


 ティルムたちはしばらくの間、目を丸くしてセージを見詰めていた。

 セージはもう一度、首を傾げる。


「どうして、あんなに、難しいやり方を、したんだ、おまえたち、は?」


「あはは……」


 スライムのねんえきにまみれてぬるぬるの女性陣を代表するようにティルムが叫んだ。


「で──出来るんだったらもっと早くやれえええええええええええええええええ!」


 ティルムの叫びは反響し、迷宮の中に響き渡る。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る