三章 二話 敵のファクターとデートの約束
「それでは昨日の反省を始めます」
ツバキが仕切りいつも通り反省会が始まる。
「橘さん。昨日はどのような変化はありましたか?」
周辺の情報収集担当である灰に昨日の様子を尋ねるツバキ。
「・・また敵の数が減ったぞ」
俺が気絶したあの日を境に、何故か獣の数が減っている。
「だが、数は減った分あの巨獣は増えている」
巨獣・・獣同志が混ざり合ったあいつはあの日ほどではないが出現数が増えてきている。
「それって、相手はだいぶ追い込まれてるってことだよね?」
数を減らしたということはそれだけ余裕がないということだろうし。
「そんなことはないだろうな」
「なんでさ?敵の数が減ったんだよ?」
相手に余裕がない理由としては十分なはずだ。
「さっき言っただろ、巨獣は増えていると。見た目減っているように見えてもそれほど使われている獣に差はない」
・・巨獣は二体で一体の獣になっている。総数が十体減っても強力な獣が十体増えれば確かに総数に差はない。
「本当に余裕がないのなら獣すら出現させないはずだ。事件を起こしている犯人は律儀にこちらに合わせる必要はないんだから」
・・言われてみれば確かにそうだ。相手は事件を起こしている側なんだから、こちらに合わせる必要は全くない。
「それとこれが一番の理由なんだが・・操っている元締めはかなりの戦略家だ。ただただ数を減らす行為をするとは思わない」
「・・随分と相手を評価してるね。俺はただただ獣を放っているだけの考えなしに感じるんだけど」
数を減らすだけの行動・・部下を殺す上官は下の下と聞いたこともあるし。
「・・一度策略に嵌っておいてよく言えたもんだな。忘れたのか?アルムが来なければお前死んでいたんだぞ?」
ツバキに助けられた数日前の夜を思い出す。確かにあの時ピンチになったけどあれは俺が油断しただけのはずだ。
「油断させるために一週間同じことを繰り返し、万が一を避けるために律儀に俺を遠ざけ、お前の弱点を的確に突いてきたんだぞ?」
「・・ツバキが来て良かった」
ツバキがいなければ下手すると・・いや下手せずともあの日に俺はやられていた。
「そこまでして犯人は咲夜を排除しておきたかったんだろう。何らかの理由があってな」
「理由?」
「ああ。理由が何かまでは分からんが目的を達成する上で咲夜が邪魔になったんだろう」
一週間使ってまで俺を倒したい理由か・・なんだろう?
「で、アルムという新しい障害は増えたがそれでも潰せると踏んだのが一昨日。だからあの時に大量の戦力を投入したんだろう」
・・ん?灰の推測矛盾してないか?
「あの時みんなボロボロだったじゃないか。絶好のチャンスだったはずでしょ?」
俺に至っては気絶してるわけだし。
「ボロボロだったのはお前だけだ。俺とアルムは余裕を残していた」
「・・いやいや、ツバキはともかく灰は余裕なんてなかったでしょ?」
悪態付きながら矢を打ちまくってたじゃないか。
「俺が神器能力を使っていたか?」
あれ?使って・・ない?
「つまりはそういうことだ。な?アルム」
「はい。持久戦を意識して動いていたのでまだ戦えていました」
「・・俺が気絶するまで頑張る必要なかったと」
寧ろ二人に迷惑かけただけなんじゃ・・
「いや、必要はあったぞ」
以外や以外、俺の悲観は灰からの珍しいフォローで否定される。
「あのままだとジリ貧になる可能性が高かったからな。相手も予想外の事態に予定が狂っただろう」
「・・・・」
一瞬ツバキがこちらへと顔を向ける・・もう隠さずに言うべきなんだろうな。
けど、いつ言えばいいだろう・・タイミングが分からないや。
「今頃相手は着実に次の策の準備を進めているだろう」
「いつかは予想できる?」
「・・犯人のスペックが分からないから断定はできないが、獣の使役数から見てそう遠くないと踏んでいる」
・・いつも戦っているあの獣たちは恐らく神器能力で作られた存在。
そして、その類の存在は使役者からの武力が尽きるまで無尽蔵に生成される。
「犯人の使役出来る限界は分からないが、連日大量の獣を仕向けてくることを考えるとかなりの数を召喚出来るはずだ」
・・少し数が減るくらいなんてことないというわけだ。
「もし敵が策を打ってきたら覚悟じておけよ・・犯人の目的は 俺たちの排除 じゃない。前哨戦である俺たち相手に出来るだけリスクを冒さず、最小の犠牲で済ませたいはずだからかなりえげつないことやってくるぞ」
・・本当、こういうことには頭が回るよな灰は。
「素晴らしい考察ですね。橘さん」
ツバキも灰の考察に関心しているようだ。
「こんなことにしか回らない頭だがね・・」
「そーそー。性格捻くれているだけなんだから」
相手の行動の裏を考えるのが好きとも言える。
「・・その通りだがお前に言われるとイラッとするな」
いつもの仕返しだこのやろう。
「それでだ。今のうちにこちらも対策を講じておきたい・・アルム。協会からお前以外の派遣は可能か?」
まずは一番手っ取り早い対策である戦力増強。これが出来るならそれだけで十分ではあるんだけど。
「・・厳しいと思います。協会と高天原は確かに協定関係にありますけど、今回の事件はそちらの管轄ですし」
「そうか・・アルムから応援を要請したとして承認が下りるか?」
「難しいかと・・私が今回ここに来たのも私が申し出たからですし・・」
協会側からのこれ以上の支援は望めないということか。ま、そう上手くはいかないよね。
「そういえば、なんで協会に頼もうとしているの?うちの組織に頼んだほうが良いんじゃない?」
こちらの管轄なのだから、高天ヶ原に頼んだほうが簡単だし楽なはずだ。
「・・もちろん掛け合ったさ。だが、問題はないと一蹴されたよ」
「へ?問題ない?」
「・・人への被害が出てないし協会の神器使いであるツバキも加わっているからな。寧ろ過剰戦力だと言われたよ」
・・確かに道路の傷くらいしか被害はないし、そう捉えられてもしょうがない。でも・・
「それは先週までの話だ。これだけの戦力で手をこまねいているという事実を高天原は軽視してるんだろう」
・・自惚れではないけれど、一対一の戦闘でなら高天ヶ原の神器使いと比べても俺は決して弱くない。寧ろ少し上のほうだ。
そして、そんな俺よりも強いツバキと優秀な後方支援の灰がいるにも関わらず未だに打開策が見つからない・・灰が心配するのは当然だろう。
「ともかく、戦力増強については今後も掛け合ってみる」
期待はできないがなと補足する灰。これについては頑張ってもらうしかない。
「それと・・獣についても何か対策を講じないとな」
苦い顔をしながら今一番の問題へと話を移す灰。
「・・いい打開策があればいいんですが」
分かっている能力は二つ。
一つはゲル状になること・・ツバキに助けてもらった時のやつで身動きがとれなくなる。
けど、あれはツバキに助けてもらった日以降一度も起きていない。何かしら使わない理由があるんだろうし、いざとなれば強引に引き剥がせるだろう。
問題は・・獣の融合体である巨獣だ。強さが格段に跳ね上がる。
一体だけでも俺一人じゃ苦戦するのに、それが何体も同時に襲ってくるのだ。たまったもんじゃない。
そして、一番の問題が・・
「なんであそこまで固いんだろうな、あいつら」
敵がとびきり固い。俺とツバキはともかく、灰に至っては全くダメージを与えられない。
・・つまり、後方支援がほとんど機能しないということだ。
「これも有効策が判明するまではともかく集団・・咲夜とアルムが共に行動することを意識するほかないな」
「・・要するに今までと変わらないということでしょうか?」
「ツバキ。折角灰がカッコつけて言ったんだから察してあげないと(笑)」
全くツバキは。よくやってくれた!
「・・まあいい。ともかく、連絡をとれるようにしよう。アルム、連絡先を教えてくれ」
必死に話題を逸らす灰。むふふ。いつもの仕返しだ。
「・・すみません。携帯電話は持ってないんです」
まじか。現代っ子の俺からしたらないと困る必需品なのに。
「な⁉なら、アルムはどうやって学校でゲームをしているんだ⁉」
「お前と一緒にするなよゲーム中毒者」
灰のやつ、ゲームが出来なくなったら死ぬんじゃないか?
「・・そうなると携帯電話以外の連絡方法を模索する必要があるな」
別の方法か・・花さんに通信用の人具を作ってもらうとか?
「いえ、そこまで迷惑をかけるわけには・・週末に買いに行こうと思います」
「いいのか?」
「はい。あって困るものでもないのですし」
「そうか・・咲夜。ツバキの買い物に付き合ってやれ」
灰から素敵な提案が・・こ、これは二人で週末デート・・!
「橘さんは一緒ではないんですか?」
うん。そんなことあるわけないよね。
それにさっき言ってたように集団行動するべきだし。うん。しょうがない。うん。
「・・すまん。今週は用事があってな。お前たち二人で楽しんでくれ」
・・・・灰!いいところあるじゃ・・
「・・お前たちを遠くから見ていたほうが面白そうだしな」
あ、そういうことね・・後で盗聴器の場所を吐かせておこう。
キンコンカンコーン。昼休み終了のチャイムが鳴る。
「今日はここまでですね・・咲夜さん。週末、私と二人でもよろしいですか?」
「全然大丈夫!」
敵の対策は全く進まなかった。が、ツバキとデートできる!週末が楽しみだなぁ!
「・・お膳立てはしたぞ。週末なら聞けるだろう」
「・・話してもらえるでしょうか?」
「それなら心配ない。あいつは話すさ」
「・・二人ともどうしたの!」
「・・すぐ行く!」
・・?何の話をしてたんだろうか?
ともかく、週末が楽しみだ!
神器不能の想創神 @yukiyuki1212
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