三章 一話  死線の先で得た絆・・絆?

・・ツバキが来てから早三日。ツバキを名前で呼ぶことや戦闘の連携なんかも少しづつではあるけれど慣れてきていた。


「行きましょう咲夜さん」


前の授業から舟をこいでいた俺を昼食に誘うツバキ。昼食を屋上で食べることもすっかり恒例になっていた。


「うん?もうそんな時間なのか・・ふぁぁ」


寝ぼけなまこな目をこすりながら屋上へと行く準備を始める。


「・・咲夜さん。この教科書、三時限目のではありませんか?」


机の上に出ていた一つずれた教科書を見て嘆息するツバキ。


「あはは。気持ちよくてつい」


最近は暖かいことや花さんのしごきが増したこと。何よりパトロールで力を使用していることもあって授業はもっぱら睡眠学習ばかりになってしまっていた。


「・・はあ。手伝いますから早く行きましょう」


嘆息しながらも片付けを手伝ってくれるツバキ。


・・なんだか気絶したあの日からツバキが優しくなった気がする。

傍から見れば仲のいいカップルに見えるのではないだろうか。


「羨ましい羨ましい羨ましい」

「またあの2人かよ・・リア充氏ね」

「ツバキ様にあーんしてもらいたい」


その証拠に欲望と敵意が背中に刺さりまくってるし。


・・俺とツバキが急速的に仲良くなったことに危機感を持ったのか、あいつらも最初は一緒にと混ざろうとしてきた。が、


「すみません。咲夜さんと食べたいので」


なんてピシャリと言われたものだから大人しくしているのだ・・あくまでツバキの前だけだが。


最近、下駄箱に偽物のラブレターを仕込まれていたり、消しゴムにシャーペンの芯が刺さってたりと地味な悪戯を受けている。


ラブレターなんて最初に見た時にはドキドキしたのに開け見たら


「ブルーベリーって別に目に良くないらしいよ」


・・少し関心しちまったよ。


昨日も女子がいきなり手紙を渡してきてドキドキしながら開けたら


「か、勘違いしないでよね。別にツバキ様ファンクラブは男子だけじゃないんだからね!」


・・ラブレターからは何故か百合の花の匂いがした。


そんなわけで、こいつら小学生かよと思うような悪戯を何度もされていた。


・・けれど、俺はそれ以上に許せないことがある。


ツバキに何もないのは当然だからいい。だが、密かに女子からの人気が高い(死ぬほど憎たらしい)灰は何もされていないのだ。


「どうした?嫉妬にまみれた目で俺の顔を見て」


こちらの気も知らないで昼飯を持って近づいてくる灰。


「灰の顔で福笑いがやりたいだけだよ」


「何言ってるんだ?もう自分の顔でやってるじゃないか」


「上等だ!お前の顔でも遊んでやるよ!」


「咲夜さん!遊んでないで早く準備をしてください」


・・灰め、命拾いしたな。


振り上げた拳を収め、鞄から弁当箱を取り出す。


「それじゃ、行こうか」


醜い嫉妬を背中で受けつつ、屋上へと向かう。


「・・はぁ。懲りないなぁ」


けど、後ろをつけてくる気配がちらほら。


「・・・・」


無言で懐から人具を取り出し発動する灰。三日連続となると慣れたものだ。


「あっ!またか!」

「どうしていつもいなくなるんだ⁉」


俺たちを視認できなくなり、慌てて周囲を探し始めるファンクラブ会員たち。


・・昨日のパトロールの反省や相手への対策についてを主に話しているので、人に聞かれるのは不味い。だから人具を使って人払いをしているということだ。


「・・このようなことに人具を使用するのは気が引けますね」


「しょうがないよ。それに悪さに使ってるわけじゃないんだし」


「そうだぞ。それとも後で記憶を操作するようにしたほうがいいか?」


「・・そちらの方が非人道的ですね」


そんな話をしてるとあっという間に屋上へと到着する。今日はいつもより陽の光が温かいから午後の睡眠もはかどりそうだ。


「昨日のパトロールについてなのですが・・」


そして、屋上に着くや否や事件について話始めるツバキ


・・真面目だなぁ。授業も鍛錬もパトロールも真剣に取り組んで、睡眠時間も少ないだろうに・・根を詰めすぎてないか心配になるよ。


「・・咲夜さん?聞いていますか?」


「へっ?あ、ごめん。聞いて無かった」


いかんいかん。ツバキが真面目に話してるんだ、真剣に聞かないと。


「大丈夫ですか?眠そうですし」


心配していたのに逆に心配をかけてしまった。


「アルムで何か変なこと考えていたんだろ、こいつは」


ふざけんな親友!そんなフォローはいらないんだよ!


「?変なことですか?」


「ああ、親友の俺には分かる」


分かってない‼いや、あの顔・・分かっていながら誤解させようとしているな⁉


「ち、違うからねツバキ⁉このゲーオタの虚言だからね」


「褒めるなよ恥ずかしい」


「褒めてないわ‼お前は画面と仲良くしてろ‼」


ああ、もうツバキに変な誤解されちゃうじゃないか!


俺はただツバキとキャッキャッウフフな会話をしたいだけなのに・・

(結局変なこと考えているんじゃねーか)

心にまで入ってくんなバ灰!ああ、どうすれば・・


「・・ふふっ」


ツバキが顔を綻ばせる・・ツバキが笑った?


「ツバキ?」


「す、すいません。お二人の会話が面白くて・・ふふ」


・・ツバキの笑顔を見たのは初めてだ。


いつもの真剣な顔もいいけど笑顔もすごく魅力的だ。


「そうだろう?咲夜をいじるのは楽しいだろう?」


灰め、余計なことを吹き込もうとしていやがる。


「何言ってんだ!ツバキがお前みたいなダメ人間と同じわけないだろう!」


「それはどうかな?」


「なにっ⁉」


「さあ、アルム。咲夜を罵ってやれ!」


ふん。何をバカな。ツバキがそんなこと・・

「はい、分かりました」


バカな⁉即答だと⁉


「咲夜さん」


笑顔から一転。いつもの真剣な表情に戻るツバキ。


「・・・・何かな?」


何を言われてもいいように心の準備をしておく。


・・・・・・さあ、来るなら来い!


「咲夜さんは・・えっと・・・・・・何でもないです」


・・天使か?・・この子は。


「どうだ灰⁉ツバキエル様がお前と同じわけないのだよ!」


「・・アルム。ちょっと」


ん?灰の奴、ツバキに何を吹き込んでるんだ。


「・・って言うんだ」

「・・?それはどういう意味なんでしょうか?」

「あいつを喜ばせる魔法の言葉だ。いいな?」

「・・分かりました」


再び俺の正面を向くツバキ。


「咲夜さん」

「ん?」


「咲夜さんはバニーガール好きの変態紳士ですよね。ぶっちゃけキモイです」


・・・・・・・・あ、死のう。


屋上だし丁度いい。さっさとフェンスを・・


「咲夜さん⁉何をしているんですか!」


「離して!もうお家に帰る!」


「そっちは咲夜さんの家ではありません!」


「うわああああん!」


(しばらくお待ち下さい)

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