おいで、おいで。

竹神チエ

 

 みっつか、よっつのころなんですけど、公園に母と二人でいたんですね。

 他には誰もいなくって、二人っきりだったんですよ。


 その公園、複合型遊具っていう、すべり台とかジャングルジムとかが一つになった遊具があるだけの、小さな公園なんですけど、ほかにだれもいないでしょ。だから、一人じめして遊んでたんですよ。はじめは母の視線を感じてたんですけど、すぐに夢中になって、ニコニコして楽しんでたんですよ。


 けどね、ふと、周りをみると母の姿がみえない。キョロキョロ見回してみても、いないんです。見当たらないんですよ。それで、置いてきぼりにされたように感じて、怖くなって。


 タタタッと走りながら探したんです。うえ、した、みぎ、ひだり。

 どこにも、いないんですよ。


 かくれんぼだろうかって、思ったんですけど、でも、楽しくないですよね。だって、まったく見当たらないんだもの。お母さん、どこいっちゃったの? とても不安で、かなしくて。


 体の芯の部分ていうのかな。そこのところが、さぁー…と冷えてきて、いよいよ泣き出しそうになったんですね。すると、視界の端にブルー色が見えたんです。


 いた。みつけた。ホッとしましたね。張りつめていたものが、さっとほぐれて、安堵のぬくもりでいっぱいになったんですよ。


 ブルーのカラーパンツに、白のブラウス。両手を前に差し伸べて、にこりと微笑んでいるんです。


 おいで。


 わたし、うれしくて。飛びつくように前へ――、でも、名前を呼ばれた。ぱっと振り向いた。


 母がいたんですよ。わたしが見当たらなくなったから、探しにきたみたいで。心配気で、おこったような顔をしていて、まったく笑ってなかったんですね。


 ふしぎな気持ちで視線を戻すと、だれもいないんですよ。ブルーの服の人はいない。消えてたんです。

 

 誰かいたのだといいはるので、母も一緒になって探したんですけど、遊具のかげをのぞきこんでも誰もいない。

 ブルー色の服だったと話すと、母は遊具の色が青色だから、きっと勘違いしたのだと笑って。でも違う、ちゃんと人だったんです。だって、わたしは……。


 両手を差し伸べて、うれしそうで、愛情いっぱいで。あの腕の中に飛び込もうとしたのだから。わたしは、彼女を母だとおもった。似ても似つかないのに、心から、母をみつけたと安堵したんですよ。ほっとしたんですよ。


 彼女から、深い愛情を感じたんです。そして、一瞬にして消えてしまって、とても寂しかったんです。あの気持ち、あの奇妙な愛情は、いったい何だったのでしょう……。


 みつけた、っておもったんですよ。

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おいで、おいで。 竹神チエ @chokorabonbon

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