小さな書店にて
御手紙 葉
小さな書店にて
ある日小さな書店に、背の高い女性が佇み、新刊の文庫本を立ち読みしていた。すらりとしたその細い足は斜めに開かれ、スーツスカートには皺一つなく、凛としたその顔に合っていた。
仕事の昼休みに立ち寄ったのだろう。僕の勝手な想像だけれど、この近辺には出版社が多いので、この業界の人間かもしれなかった。彼女は唇をわずかに開きながら、浅い呼吸を繰り返した。ページを捲るその指は、とても機敏に動いていた。
彼女の手元にあるその本を確認した。……『青の残像』。若手作家が書いた、ミステリー小説だった。文学賞にもノミネートされている。一冊試しに抜き取った。
ページを開いた瞬間に、これは面白い、と驚いてしまった。冒頭がとにかく読み易くて、エンターテイメント作品としてはとてもスリリングで、臨場感に溢れていた。
本をぺらぺら捲っていたけれど、やがてカウンターへと近づいていった。僕は冒頭の三ページを読み、そのままレジへと向かっていこうとして、自然と彼女と顔を見合わせた。
「とても面白そうですよね、この本」
僕の言葉を代弁してくれたようだった。ふっと微笑み、「評判もかなりいいみたいですよ」と言葉を返した。
「読んだら、ハマりそうです」
彼女は細面の顔をにっこりと微笑ませて、そのままカウンターへと進んでいった。僕らは順番に本を買って、そのまま書店を出た。
「帰りの電車で読むのが本当に楽しみですね」
彼女は小さくそう零して、もう一度会釈して、オフィス街を抜けていった。僕は思わず口元を緩めて、反対側へと歩き出す。確かに楽しみだ。本が好きそうな彼女が言うのだから、間違いはないだろうな。そう思った。
また、この書店で会えたらいいな……そう思いながら、文庫本が入った手提げ袋を掌で確かめ、足取り軽く会社へと戻っていった。
了
小さな書店にて 御手紙 葉 @otegamiyo
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