なぜなら、
れなれな(水木レナ)
なぜなら、
アキオは飛んで家に帰ってきた。なぜならミカに叱られるのが怖いからである。夜の九時を過ぎたら表をうろついているのは頭がおかしいと思われる田舎に住んでいる。
妻のミカは気が気でない。なぜならアキオにこれ以上、悪い虫がついていないか、心配だからである。
ミカは細い声で「おかえりなさい」と言って、何かして欲しいかを確認する。なぜなら、アキオはその日の気分で要求がコロコロ変わるからである。放っておいてくれとか、先に寝てていいのにとか、面倒くさいからもうかまわないでくれとか。
しかし今日は手早く食べられる物を用意してと答える。なぜなら、愛人宅で気取ったイタリアンを中途半端に食したからである。アルデンテを通り越したふやけたパスタを食べさせられた。ミカより家庭的だと思っていたのに当てが外れた。
ミカはわかったと言って――なぜなら、追及してもアキオはするりとかわしてしまうからである――台所に行く。
アキオはミカの顔を見て安心した――なぜなら、アキオの愛人はなにかと彼をふりまわす性質だからである。気疲れが半端ない――おかげで気が抜けて疲れが一気に出てきてしまう。
アキオはゆっくりと歩いて――なぜなら、彼は愛人宅で気力と体力を使い果たしてしまったからである――台所の手前のリビングまで進む。
そして服装を適度に楽な感じにしつつ――なぜなら、上着、シャツなどに移り香、口紅などがついていたらことだからである――テーブルにつく。
台所でミカが食べ物を支度する。アキオはその音を聞くと、気持ちが楽になった。なぜなら、ミカが供する食べ物は昔から食べつけてきたものだからである。
ミカが台所からリビングに戻ってきた。お茶漬けを作ってきてくれていた。なぜなら、ミカはアキオに愛人のことを知っているわよ。と暗に言いたいからである。今日で何回目の無言電話だったことか。
アキオは食べ易くて良いと喜ぶ。なぜなら、気取ったふりをしなくて済むからである。だったら愛人とは手を切るべきなのだ。
少しの間お茶漬けの見た目を愉しんでから――なぜなら、アキオは愛人宅でこの味を食したことがないからである――アキオは食べ始める。
アキオがお茶漬けを食べる。その様子をミカはアキオの向かいに座って見ていた。なぜなら、アキオに愛人のことを知っているのよ、と詰め寄るチャンスと思ったからである。
幸せな空気が、二人を包んでいた。なぜなら、二人の時間に愛人の話はいっこも出なかったからである。
END
なぜなら、 れなれな(水木レナ) @rena-rena
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます