文章を読んでいると、なんでもない場面であるのにも関わらず、「泣きたくなること」って無いだろうか。商業作品でも滅多にそんな気持ちにならないのに、私はこの作品を読んで「そう」なった。一文一文がまっすぐ"ココロ"に届き、感情が優しく、ゆっくりと撫でられる感覚がする。なんでもない場面――クライマックスでも感動シーンでもない、ただの1人称で描かれた独白であるはずなのに、ココロに届いてしまうのだ。誰かを思って無性に愛しくなるなら、それは恋だろうが――。人でなくとも、私はこの小説に恋をしてしまったかもしれない。
物語で言えば中盤、二人の話し声が聞こえた時点で終わりだと思ったら、そこからさらにもうひとひねり。訥々と、大人しい文章でありながら淡々と狂っていて。まるで白黒映画の美しい殺人劇のような不気味さでゾクゾクしながら読みました。窓のカギは外れたが、窓そのものは開かない、というところだけが少しつんのめってしまいましたが、あとは私としてはパーフェクト。素晴らしい狂いっぷりと、派手で見るからにおかしな描写がなくても狂気は静かに存在できる、という証明に脱帽です。
ミステリーのようでもあり、ホラーのようでもあり、けれど読み終わった今となっては『恋愛小説』だったのだと思う。この感覚を味わわないなんて勿体ない。ぜひ丁寧で繊細な描写で描かれるこの物語に身をゆだね、あらゆる感情を掻き乱されて欲しい。
この一言に尽きるでしょう。まだ読まれていない方は、是非読んでほしい。読めば読むほど、その展開に胸を打たれるはずです。
すごく素敵でした。きれいな筆致で描かれる日常、どんでん返し、見事の一言です。
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