「おかけになった電話番号は現在使われておりません」
山芋娘
第1話
「おかけになった電話番号は現在使われておりません」
機械的な音声だけが、聞こえてきた。
「おかけになった電話番号は現在使われておりません。おかけになった電話番号は現在使われておりません」
何度かけ直しても、聞こえてくるのは、同じ音声だけ。
莉子は少ししてから、声を出した。
「久しぶり」
「おかけになった電話番号は」
「元気、してた?」
「現在使われておりません」
「……えっと、ちょっとどうしてるかなー? って、思って」
「おかけになった」
「私は元気……。まぁ、ちょっと仕事がゴタゴタしてるけど」
「電話番号は」
「健治は、どう? その……仕事は上手くいってる?」
「現在」
「……もし、もしさ、健治さえ良ければ、またご飯とかどうかな? よりを戻したい訳じゃないの! ただ、おしゃべりしただけ……」
「使われておりません」
「……お互いにさ、仕事の愚痴でも話さない?」
「おかけになった」
「……健治と話してると、楽しいからさ。もちろん、無理にとは言わないから」
「電話番号は」
「もし、良かったら……。うん」
「現在」
「……また電話するね」
「使われておりません」
ピッ。
通話を切ると、手からスマートフォンが滑り落ちる。
冷たい夜風が、莉子を包み込む。
一つ、雫が落ちてきた。
「会いたいよ、健治」
もう、彼の温もりは思い出せない。
声も、香りも。
「おかけになった電話番号は現在使われておりません」
「おかけになった電話番号は現在使われておりません」 山芋娘 @yamaimomusume
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