第二話
その日を境に、私は螢子さんとよく話すようになりました。
螢子さんは変わった言動が多い人でした。私と話をしていても、用事が出来たから帰ると言い残して本当に帰ってしまったり、暑いからとたくさんのアイスを買ってきて食べ切れずに未開封のアイスを私に渡したこともありました。
そんな螢子さんの話の中で一番驚いたのが、今まで学校に通ったことがないと打ち明けられた時でした。
どのような理由があって、学校に通わなかったのかは分かりません。以前、あんな所に入れられて何年も過ごすなんて、地獄以外の何ものでもないわ、と話していたので、学校に対してそもそも良いイメージなど持っていないのでしょう。
けれど、義務教育も受けずに今までどのように生活してきたのだろうか。とても興味があります。
また、螢子さんは家族もいないらしく、聞いても覚えていないとか、そんな昔の話なんてしてもつまらないわよ、と上手い具合にかわすだけで、教えて貰うことは出来ませんでした。
施設にいた経験もないということだったので、今までどのように生きてきたのかとても不思議に思います。
螢子さんがどこの出身なのかは不明ですが、今まで各地を転々としてきたことだけは知ることが出来ました。
ある日の帰り道、後ろから救急車とパトカーが私を通り越して行きました。パトカーは一つ目の信号を左に曲がり、姿が見えなくなりました。
ああ、何かあったんだな、と思い、その場を通り過ぎようとしたのですが、背後から何人もの人がサイレンの鳴る方へ向かって行くのが見えました。私もその人たちにつられて行くと、子供から大人まで人がたくさん集まっていて、その先には何人もの警察官が立っていました。野次馬と化した私たちに向かって、この先に入らないように、と注意を呼び掛けているのが人と人の前から見えました。
横に並んでいる警察官の間からは、人が乗せられた担架が救急車に運び込まれるところでした。
私と同じ年くらいの中学校の制服を着た女の子です。救急隊員が何度か呼び掛けていますが、全然反応はありません。
女の子はそのまま救急車に運ばれていきました。
私は救急車が発車して、周りの人たちが徐々に帰り始めても目の前の建物を見上げていました。目の前には十階近くあるマンションが聳え立っています。
「ここの屋上から飛び降りたのね」
突然後ろから声がしたので驚いて振り返ると、背後に螢子さんが立っていました。
「螢子さん、どうしてここに?」
「近くでサイレンが鳴っていたから来てみたのよ。みんな同じ方向に向かって歩いて行くから何かと思えば」
「あの女の子、ここから飛び降りたんですか?」
「そうみたいね。女の子が屋上に向かって行くのを見た住人もいるみたいだし。まあ助かるかは分からないけど」
そう言うと、螢子さんはくるりと背を向けました。
私がどうしたんですか、と尋ねると、
「帰るのよ。こういうのは別に珍しいことじゃないでしょ。ところで、あんたまだここにいるの?」
「私も帰ります。外に出していた洗濯物を入れないといけないので。あの、螢子さん?」
私の呼びかけに振り返った彼女に、
「螢子さんって何時までここにいるんですか?」
前から気になっていたので聞いてみたのですが、彼女は少しの間考えてから、
「そうねえ、まだ分からないわ。でも、その時期が来るまではいるつもりよ」
「その時期って、これから何かあるんですか?」
私は彼女の口にしたこの時期、という言葉が気になり聞き返したのですが、
「あるような気がするわ。私にもはっきりとは分からないけどね」
彼女はそう言うと、再び背を向けて歩き出しました。
螢子さん ※執筆途中の作品です 野沢 響 @0rea
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