不思議な読後感でした。海、水、異界のイメージが文体にまでしみわたっているようで心地よい没入感があります。さらにどこか懐かしさも感じました。男が嫁というねじれた設定もユニークだし、異神の正体が開示されていくにつれ恐怖から哀感へとグラデーションで推移する印象も素晴らしい。この国に残っている禁足地への想像も羽ばたかせてくれます。もう少し長く読んでいたかったと思わせる作品です。
剣士の「晴天」である理由、反対に澪の薄暗い心情の対比が物語を牽引する異世界ファンタジー。もっと彼らの続きが読みたいと思いました。「春告鳥」に私も乗りたい。
幻想はしばしば遷ろう。それもまぁ楽しい。だがしかし多分この作品はそういう遷ろいを求めてはいない。神々の世界からまろび出てきた少年とその少年を迎え入れた人々の物語。そう語るのは容易い。誰か、この混沌に皮を与えてやってはくれまいか。そうして初めて神格は重さと熱を何者かに伝える熾火になる。