思考の末ー完
第7章・結論
あの戦いの翌日は嘘の様に静かだった。
あれだけの戦いだったのだから仕方ないが、それでもなんとかお店を開いたグリーンは流石だ。お陰で家が騒がしく休まらない・・・・・・と言いたいところだけど、その原因の多くはむしろこいつだ。
「ねぇちょっと聞いてるの!?」
激しくお冠なクーがオイラの部屋で声をあげている。
ベッドから叩き起こされてソファーにぐったりと寄り掛かったまま、オイラは生返事をした。
「あぁ、うん。悪かったって。うんごめんって・・・・・・」
何の謝罪かって、彼女はあの戦い、特に彼女がご執心なアキラの戦いで蚊帳の外にされた事を怒っているんだ。・・・・・・それはもう激しく。
まぁ、でもそれだけじゃあない。
誰かが困っているときに近くに居られない事が嫌いだ。それは多分、彼女の家の問題とも相まってのものなのだろうけども、今回は命に係わる事で、ましてや親しい者が対象だったのだから尚更だ。
「次・・・・・・こんなことされたら、耐えられないから」「・・・・・・うん。悪かったよ」
いつになく低い声でそう言うとクーは部屋を出た。
「まずかったかな・・・・・・」
許さないじゃなくて、耐えられないだ。
彼女はオイラに怒っていた以上に自分に怒っているんだ。
蚊帳の外にされた事より、蚊帳の外にいてしまった自分が許せない。
オイラは頭をかきながらクーの出ていったドアを見た。いつもなら勢いよく閉められるドアは音もたてずに半分開いたままだった。
「身代わりご苦労様」「グリーン・・・・・・ずるいよ」
オイラが似たのか、グリーンの仕草がオイラに似たのか思い出せないけど、グリーンはまるでさっきのオイラみたいに頭をかいて言った。
「仕方ないじゃない。彼女、私には怒れないみたいだから」
「まぁ、そうだけどさ・・・・・・」
クーは人によって態度が変わる、特に、グリーンに対しては師である以上にアキラの事で恋愛での好敵手の様な意識がある様であまり感情の機微(弱み)をみせない。
「あなたも気絶していたから、彼女を呼びに行く事なんて出来なかったんだけどね」
「まぁ、そうなんだけどさ・・・・・・」
態々言わなくていいよ。
それはオイラも口から出かかったけど、言わなかった事だ。
「随分大人になったわね」「え?」「あなたよ。気付かない?」
「んー、どこが?」
「どこっていうのは難しいけど、考え方、言動、それらで象られるあなたの雰囲気が・・・・・・よ」
そう言って微笑んだグリーンの顔にドキリとした。
彼女のそれは初めて見る顔で、多分彼女が大人にしか見せない顔だった。単純な話だけど、オイラの何かが認められた気がして凄く嬉しかった。
「っと、しまったな。オイラも行かなきゃ」
「アキラのところ?それはまた彼女に怒られるわよ?」
「ちがうよ!そっちも気になるけどあっちが先だから」
「!・・・・・・偉いわ。しっかり言うのよ?」
オイラの言葉に一瞬驚いて、それからクシャっと笑いながらオイラを見送ってくれた。
「もう何言いたいか知ってると思うけどもさ、ちょっとさ、謝る前に一言いいかな?」
家を出てすぐにティーチがいた。
いや、待っていたんだと思う。逆に、オイラが彼について悩んでいる間ずっと、合わない様にしていたんだと今なら分かる。
「まったく、その読心ってのは不便だけど、便利だよね。かくれんぼじゃあ敵なしだもの」
あぁ、言いたいのはこんな事じゃない。
「謝る必要はない・・・・・・事実だ」
「・・・・・・へへ、なぁティーチ、やっぱり読心は不便だよ」
「!?」
だって、今彼は勘違いをしているんだ。
「オイラがティーチに謝らなきゃいけなかったのは、一人で悩んだ事だよ」
「・・・・・・そうか。それなら、距離を置いた俺も謝らないとな」
それは、今回オイラが学んだ事だ。
会って話さなきゃあ解決なんてない。そんな当たり前の答えだ。
その日見たティーチの笑顔は凄く久しぶりな気がした。沢山の事を話した。
この数か月分の話はいつまで話していても尽きない気がした。
・・・・・・
結局、アキラと落ち着いて話せたのは一週間も後になった。
目が覚めたのが三日前でちゃんと立って物事をできるまで回復したのは昨夜だった。
「で、早速朝稽古なのか?お前は馬鹿なのか?」
思わず漏れた開口早々の嫌味にもアキラは光る汗を飛ばしながらさわやかな笑顔で答える。
「体力を早く取り戻したいんだよ。次の戦いからは君と共闘できるのだからね」
「バーカ、ここは軍事国家じゃないんだからそうそう戦いなんて起きてたまるかよ」
もう戦いなんて懲り懲りだけど、その言葉は嬉しかった。
アキラが来てからここまで色々な事があったけど、彼には謝ることも謝られる事もなかった。それがオイラ達にはピッタリな気もした。
あぁ、アキラといえば一人称を僕に戻した。
といってもオイラに会った時には既に私を一人称にした偉ぶった喋りをしていたけど、それはそれで彼なりに大人ぶろうとした行動だったらしい。
「さて、今日の稽古くらい控え目にしろよ?あれでピートも心配してたんだ」
そう言ってアキラを連れ帰ったオイラだったけど、それは失敗だったかもしれない。
「そうか!入浴が一日一回なんて考え自体が何かに囚われている意見だったんだ。私としたことがなぜ気付かなかったか!!」
オイラ達が帰るタイミングも絶妙だった。
居間にいたピートはそう叫んだと思ったら、突然グリーンに泥団子を投げつけるという強引な風呂の誘い方をし、当然、額の傷を一気に10個程増やしていた。
「パウロ、あれが僕を心配していた人の態度?絶好調じゃないかな?」
「ごめん、オイラもあまり上手く擁護できないかもしれない・・・・・・」
というか、出来るとは思えなかった。
「な、なんだアキラいたのか?お、おいなんだその冷たい目は?」
「僕がそういう目をする行いに自覚はありますか?」「・・・・・・ある」
あるのかよと、ツッコミたい気もしたけど、オイラは黙って事の顛末を眺めていた。
良くも悪くも、いや、あまり良くはないけども見慣れた日常だ。
オイラはまだピートの事がよくわからないけど、彼には彼なりの考えがあるのだとは思っている。
実際頼れる姿も時々だけど、ある。
多分、これも彼なりにここの雰囲気を良くしようとやっている事なんだ。良くも悪くも・・・・・・だ。
そんなピートだけど、彼も少し変わった。
多分、本当の意味で仲間になったんだ。再開された勉強会ではティーチと一緒によく教鞭をふるっているし、例え話なんかを交える教え方は抜群にわかりやすいから、そういうところだけはグリーンからも信頼されているみたいだ。
今回の事でみんな色々な変化があった。
それは大人も子どもも関係なく起きたし、オイラも自分で分かるほど変わったけど、それはグリーンの言ったみたいに大人になったというのとはちょっと違う気がする。
正義とは何か?
では悪とはなんだろうか?
正義を決めたのは誰か?
それは誰にとっての正義なのか?
善悪に過剰は子供か?
大人は揺るがない者を指すか?
ならばオイラは早く大人になりたい。
そういう考えや悩みは今もある。
ティーチの事も全部許せたわけではないけど、彼はそれを話したオイラに当たり前だと言ってくれた。
「友達でも家族でも好きも嫌いも良いも悪いも全部あるんだ。好きなだけなんてあり得ない」
「パウロ?」「一緒にいるってそういうもんなんだってさ」
「それ、ピートの事言ってる?」
「んー、多分ピートの事もそうなんじゃないかな」
「そうなのかな・・・・・・・あまり納得はできないけど」
苦笑しながら言うオイラの言葉に真剣に考えこむアキラ。
正直オイラだって全部納得なんてできてないし、これからも悩む。恨むかもしれないし、そうならないかもしれない。
ただ、今はそれを隠さないで悩んだり恨んだりしようと思う。
ただ、そういう時は誰かに聞くんだ。だって子どもは悩むものだし、大人はそんな子供に教えてくれるんだから。そう、それがオイラの結論だ。
「オイラはティーチを許せてはいないかもしれない。それでもティーチや皆といる時間が大好きだ。いまはそれでいいんだと思う。だってオイラはまだ子どもなのだから」
二話―完
ティーチ 不適合作家エコー @echo777
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