思考の末⑦

第6章・天敵


 オイラは笑った。アキラも笑った。皆笑っていた。


「はははっは」『ハハハ』


 でも、そこに違和感があった。

 一つだけ、温度差のある笑いがあった。冷たく、しかも頭に直接侵入してくる様な笑い声だった。違和感を感じたのはオイラだけでは無い。皆の笑みが途絶えた。緊張。しかし、それでも・・・・・・


『ハハハハハ』


 一つだけ、笑い声が頭に残った。

 声の主はすぐに分かった。そもそも隠れる気もないのだろうし、これは後で分かったことだけど、彼には隠れる必要もなかったし、そもそも隠れることが出来なかった。声が届くほど近く、しかし、危害を加えるには遠い距離をもって冷酷な笑みを浮かべる。ただそれだけで全身の毛が逆立ち、冷や汗が止まらなくなった。


「嘘だろ・・・・・・まさか・・・・・・」


 ティーチに負けない痩身、それが際立つ白の燕尾服姿よりもオイラの目を奪ったのは、彼の手にした十字架の文様の剣だった。


「初めまして。私、アキラ君の監視を命じられて参りました。Jと申します」


 今度は耳を通して聞こえた。


「・・・・・・」


 理屈ではなく、分かる。この男は危険だ。

 今までに感じた事のない速さで思考が巡った。


 酷い殺気を感じる。彼は敵だ。

 全員の前に現れたのはこの状況で勝てる自信があるのか、ただの慢心・・・・・・とは思い難い。


 不自然なほどに剣を持っている腕に緊張がない。なれているのだ・・・・・・そういう事に。だが、おかしい。彼の衣服には返り血の一切見られない。彼を観れば観る程に不気味でちぐはぐな印象があり、オイラの中の何かが確信し警鐘を鳴らす。この男は危険だ。


 逡巡の後、オイラは彼の目を見た。

 彼は、相変わらず軽薄な笑みを絶やさずこちらを見ながら言う。


「私は帝国の教育者、まぁ用心棒の様な、便利屋の様な存在です。君の事は国からアキラ君の報告分だけには聞いていますが・・・・・・なかなかのドラマでしたね。読心(リーディング)……素晴しい能力だ。すると私の力は伝心、テリング(伝心)といったところかな?」


 続けて頭に声が届く。


『実にくだらない連中だ。すぐに消してしまおう・・・・・・』


 彼は教育者と言った。

 伝心というのは、この声の正体なのか、それらを考える間もなくティーチが叫んだ。


「逃げろ!!」「!?ティーチ!!?」


 普段口数の少なく、多分オイラが知る中で一番強いティーチがそれを口にした事がオイラの中で危険の質を変えた。


 それほどに彼は危険なのか、それは、そうか。ほとんど経験のないオイラが危険だと感じたんだ。多分、ティーチにはオイラよりもよっぽど彼の危険が分かっているはずで、そんな事を思う間にも、彼の危険が実証されていく。思考の最中、既に戦いは始まっていた。Jの剣とティーチの大鎌と激突し火花が散る。


「早い!!」


 火花が左右に散る。

 オイラの目には見えないが、左右に、という事はあの剣はティーチの構えた鎌の左右に打ち込んだという事らしい。


 剣と大鎌の重量差もあるだろうティーチは、攻撃を全て鎌で受けてこそいるが、その表情に余裕はない。


 オイラの目には映らない剣速での二連撃を左右に打ち分けた彼の剣がようやく目に映ったのは、彼の剣が鎌と打ち合い止まった一瞬だけだった、が、その瞬間、オイラは気付いた。


「十字架の……死神?」


 長い塚と中心の白色の装飾、その剣は一見に分かる十字架を模した剣で、それはオイラが良く知る恐怖の象徴そのものだった。


『御名答』


 ゾクリと、冷たい声が脳内に響いた。・・・・・・本物だ。


「ティーチ・・・・・・・君の長所は私には意味をなさないよ。私は昔から心を読まれる体質でね……お陰で心を読まれる戦いなんてのは馴れたものだ」


 ニコリと笑い、もともと細い眼を更に細めた時、ティーチの腹部が裂け、鮮血がJの服を染めた。


「なんだこれ?」


 なんなんだこれは……心が読まれても関係無いだって?それは、おかしいだろう。だってアキラが今証明したばかりだ。心を読むという事がどれくらいの優位か。ならば何故Jはティーチに攻撃できる?


『遅い』


 答えは……簡単だった。

 Jが強く、速すぎるのだ。


 常に心を読まれて勝ってきた男。

 その刃は教えられても避けられないほどに早く、知ったところであがなえないほどに周囲を圧倒しているのだ。


「君、随分と怠慢な暮らしをしてきたんだね?」「……」


 ティーチは黙っていた。

 しかし、その表情はかつて無く険しい。


 理由はオイラにも分かる。

 Jの心が伝わってきたからだ。


 彼は伝心で隠せなかったから、オイラは彼を知った。

 彼が能力によって異質を隠すことも許されず、その上差別される教育者だったから、人前に出る事は戦いの場以外には不可能だった。食べ物も水も全て奪う以外にない環境が彼を強くした。そしてその強さが彼を今の地位、暗部に導いた。自らを守る法律も制限する法律もない『存在しない人間』という地位にだ。


「・・・・・・」


 言葉が、出ない。

 彼の過去はオイラが知る何より過酷で、それを乗り越えた彼が誰よりも強いのは当たり前にさえ思えた。でも、こうも思った。


「哀しい人……」


 オイラを守るように隣にいたグリーンが代弁した。

 元・暗殺者のグリーンにはなにか通ずるものがあるのだろう。


 その眼は何とも言えない悲しみに満ちている。

 一方、オイラの後ろで座り込むアキラを見ているピートは冷静だ。


 Jの昔には何の関心も示さず、彼の危険性を考慮して、満身創痍のアキラを守ることに勤めているように見えた。


 ティーチの顔は相変わらず険しい。

 昔、聞いたことがあるティーチの過去、オイラはそれを凄惨だと思ったが、ここにそれを超える存在が現れたのだ。


 同じ教育者で、対照的な異能、白い燕尾服は剥き出しの狂気を象徴し、隠れ潜む黒に身を埋めるティーチとは正に表裏の存在に思えた。

 しかし、オイラ達が客観的な分析をしていられたのはここまでだった。Jが口と心が同時に言った一言がその気持ちを打ち消した。


「『おっと、へんな同情はやめて下さい。この力も案外面白いものですよ?』」

「う……うわぁぁ!!」「アキラ!?」


 突然、苦しむアキラ。

 アキラは頭を抱えてのたうちまわるが、彼を診ていたピートにもこれが何かわからない様で、ただ、どう見ても原因はこの男だった。


「ブレインコントロール。私の思想を植えつけて操る……実験は失敗しましたが、達人の使う威圧の様に、触れもせずに人を壊すことが出来る」


 ニヤリと笑うJ。


「・・・・・・なぜだ?」


 一瞬、それが誰の声か理解出来なかった。

 いつも軽薄で軽快、冗談ばかりを口にしていた彼がそんな低い声で話したのを聞いた事がなあったからだ。


「私とアキラはまだお前の味方のはずだろう?」『まだ・・・・・・ですか』


 ピートの質問にJが笑う。


「狡い人だ。確かに君たちはまだ、味方だが・・・・・・敵になる可能性が高い。大方この戦いが終わるまで中立。そういう考えだろうが、残念、私は存在しない人間なのでね、命令された男の殺害意外に何の枷もないのですよ」


 オイラはピートの本心をどこまで分かっているか自信が無い。


 それほどピートは本心をよく隠す。

 ただ、そんなピートについて確信出来るのは、彼がアキラを守る気持ちが本物という事で、彼が中立を計画していたとしても、オイラはそれを狡いとは思わなかった。


 むしろ、ピートらしいと安心するくらいなのだが・・・・・・どうやらそれはやっぱりオイラがピートをよく知らなかっただけらしい。


「一つ訂正しよう。私は中立をしていた訳じゃない。していたのは・・・・・・準備だよ」


『!・・・・・・これは、少しまずいですね・・・・・・』


Jが跳び退いた瞬間、ピートの前方が眩く光った。


「これを避けるとは、想像以上だが・・・・・・先手は打った」


「追尾・・・・・・ですか?」


「安心していい。私はあの国に詳しくてね・・・・・・君の成績も知っている。君の服や剣に直接電撃の誘導線を張っても簡単に見抜かれるだろう?」


「ええ、私も貴方の監視ですから、得意魔法の対策はしていますよ」


 Jはピートの電撃を防いだ白い手袋を向けて言った。

 恐らく電気を通さない加工が施されているのだろう。


 グリーンが教えてくれたが、電気の魔法は速い。

 だが、その動きは直線的で予想しやすく、しかもゴム製品などの防電で簡単に対策できる事が弱点だという。


 とはいえ、ピートは【見聞】という二つ名を持つほどの魔法使いだ。それがただのゴムを相手に敵いませんとはならない。


「視野を広くしてみるといい。指向性の電磁力を持っているのは君の衣服じゃない。この大気そのものだよ」


「!?・・・・・・これは、とんでもない事を考える・・・・・・」


 見れば大気の至る所にバチバチと放電が見られる。

 どうやらその全てがピートの電撃の向きを変える魔法らしい。


「君は二つ後悔した方がいい。一つは全身ゴム製品を着用しなかったこと」


 そして、ピートが放ったただの電撃がJを追い詰める。

 高速で動き向きを変える電撃、初撃を手袋で防いだJの周囲には既に十を超える電撃が追尾を始めていた。


「この電磁フィールドにいる限り私の電撃は全て指向性を持つ。毎分、毎秒数を増す電撃の雨は誰も逃れる事を許されない。あぁ、言い忘れていたね。君が後悔するべき事は、私を見聞させておかなかった事だよ」


『お見事です・・・・・・』


 その間にもピートが使役する電撃は増え、Jはピートの電撃を指向性を持つ範囲から離れる事を余儀なくされたのだが・・・・・・


「で、この後どうするんだよ?」


 オイラは嫌だった。

 こんなピリピリした戦いの最中にピートにツッコミを入れるのなんて嫌で仕方ないのだが、そうも言っていられない。


「電磁フィールド?縮んでるよね!?さっきより大分、いや、かなり!!」

「当たり前だろう。魔法は無限じゃないんだからな」


 いや、まぁ、そうなんだけどさ。

 まるでクライマックスみたいに叫んだじゃん。


 勝ったと思ったのに、結局逃げしてるし、どころかこれが縮んだら魔力切れのピートとグリーンに手当は受けているもののJを相手には勝率芳しくないティーチの戦いが始まってしまう。それは、多分負ける未来だ。


「いやー、実際大健闘ではあるのだけどね、だって彼は裏社会最強と言っていい存在だ。あれに勝てる方法は限られる」


 いやいや、大健闘で満足できないよ。普通に死ぬじゃん。嫌じゃん。


「彼は一発なら電撃(光速)も避ける。規格外にも程があるが、あの身体能力を上回る策以外は全て無駄・・・・・・ティーチ君の大地を埋める炎なら焼き切れるかもしれないが、アレは出来ないのだろう?」


「俺も消耗が激しい・・・・・・」


「補足するなら、それがアキラとの戦いで撃てなくなったのを知っていたからこそ、彼は私たちに挑んだのよ」


 なるほど、最初にオイラはこの人数に勝てる自信がJにあるのだと思ったけど、違ったんだ。自分を脅かす可能性が一番少ないタイミングが今だったのだ。


「そんなもん、どうすればいいんだよ・・・・・・」


「J、あいつの知らない手段で避けられない攻撃をする・・・・・・それしかないわね」


 相変わらずグリーンは難しい事を、簡単に言ってくれる。

 まぁ、嘆くしかできないオイラが言えた義理ではないのだけど・・・・・・と、そう思っていると、そんなオイラの肩をピートが叩いた。


「気づいていないのか?君の見せ場だよ」「はぁ!?」


 ・・・・・・言っている事は、分かる。でも、信じられない。

 いや、オイラが信じられないんだから、きっとJも信じられなくて、それが勝機だといえばそうなんだろうけど・・・・・・うん、逃げたい。納得できる理由はどうにも心許ないけど、逃げたい理由ならいっぱいある。相手が強いとか、大人だとか、オイラは戦いが不慣れだし、相手は十字架の死神、強いというより伝説や怪談みたいな存在だ。


『意外性だけなら、満点ですね』


 そうだろうさ。

 意外性しかないし、それしか手もない。でも・・・・・・


「やるしかないんだ」


 オイラはJ に銃を構える。

 Jはそれを見ても動かない。


 多分、ただの銃撃を避けるのは彼にとってそんなに難しい事ではないのだ。

 だから、準備は整った。


「任せるよティーチ!!」「ああ!決まりだ」


 屈んだオイラの背を飛び越え、ティーチが炎の魔法を繰り出し、それが壁となってオイラとティーチ、Jの間を遮った。


『この程度か・・・・・・大した連携でもない』


 落胆の色が強いJの声だが、それにオイラは強気に応える。


「ああ、この程度さ」


 そうだ。オイラはティーチを恨んだ。

 今も、全て納得したわけじゃない。


 そのくせアキラの事で困れば頼ろうとしたり、虫の良い事ばかりだ。

 そんなオイラとティーチの連携が大そうなものなわけが無い。


 でも、でもティーチやグリーン、それにピートはそんなオイラに魔法の使い方を教えてくれたんだ。だから、出来る。


「なぁ死神、知ってるか?炎は風で燃え上るんだ」『まさか・・・・・・』


 オイラは銃の引き金に手をかけた。

 Jは炎の壁で見えない向こう側、そこに今、ティーチの炎を纏ったオイラの風が届くんだ。絶対に届く、炎の壁から先の全てに吹き荒れる、触れることも避ける事も出来ない炎の風なのだから。


「『ぐあぁぁあぁぁ!!!!』」


 断末魔。

 それに相応しい叫びが聞こえる。炎の向こうからは悲鳴が耳と頭に直接聞こえてくる。


『がぁぁあぁぁぁ!!!!』


 やがて、口からの声が止み、心の悲鳴だけが聞こえ始めた頃、ようやく炎はその姿を消した。


 炎の風が去った先には焼き爛れた不自然に平らな大地と……存在してはならない男の姿。


 しかし、その姿はあまりにも痛々しく、狂おしい。

 霊であれ悪魔であれ、人が最も怖れるものは常に既知ではない。


 未知の存在にある。

 今、オイラはそれに遭遇したかの様な得体のしれない恐怖を味わっている。


 オイラたちの前にはJ(理解不能)がいた。

 炎の風を耐え凌いだJは無傷ではなかった。むしろ、瀕死の重傷だ。


 喉は剥き出しの血管を見せ、顔の皮膚は半面が焼け焦げ、瞼が焼き千切れた眼球はゴロリと前のめりになり、血管か神経かの細い管で支えられて居座り悪くグラついている。


 凄惨だ。

 凄惨な姿なのだが、それは既知の恐怖に過ぎない。オイラが何より恐ろしく感じたのはその声が発する未知の感情だ。


『楽しい・・・・・・』


 剥き出しの眼球が歓喜に震え、声を失った狂人の心の歓喜と、役目を失った喉が歓喜に打ち鳴らす【シュルシュル】という空気音だけがオイラたちお耳に届いていた。Jの楽しいという言葉には複雑な感情が混じっていた。


 その多くは同じ教育者でありながら正反対の生き方をするティーチへの対抗心であり、彼にとって強敵と認識したティーチを倒すことは自分を認める事でもあるようだ。ただ、その事への強い興奮に隠れて少なくない嫉妬と怒りの感情が見えていた。


 長く、果てしなく長く感じた狂気が止むと、忘れていた様に荒野はあるべき静寂を取り戻した。声を失ったJ、警戒を続けるグリーンとピート。誰もが言葉を発さない中、倒れたままのアキラを抱えたオイラとティーチの目が合う。オイラは頷た。


「いつでも来い!」


「『は?』」


 ティーチ意外、全員から疑問の眼差しが俺に向かう。もう一度言おう。


「いつでもかかって来いって言ってるんだ。オイラ達はここでみんなで暮らしたいだけ、逃げ続ける気もないし自分から攻撃することもないけど・・・・・・戦いでも話し合いでも会わないままじゃなにも始らないんだ」


 それは、今回の事でオイラが学んだ事の一つだ。

 オイラの声を聞いて、初めこそグリーンとピートは驚いた顔をしていたが、その表情は次第に決心に変わりオイラの言葉の肯定となる。しかし、Jの順応はそれ以上に早かった。二人の顔が決心に変わる数秒の前にはすでに、臨戦の構えを解き、醜く焼け爛れた顔ではあるが、ぎこちない笑みを浮かべていた。


『確かに、私も少々疲れました。今日のところは……勝者に華をもたせましょう……ティーチ、グリーン、ピート、そして君は?』


「パウロだ」


 毅然と返す。

 震える気持ちを精一杯に隠した返答もJは気にもとめない。


『パウロ君……次を……楽しみにしているよ』


 再びJの眼球が俺達を見回した後、今までの戦いが嘘の様にJはその姿を国へと向けた。


 オイラ達はそれを見届けてすぐに崩れる様に寝そべった。


 改めて見渡せばみんなかなりギリギリだ。

 オイラは連日の疲労と緊張、アキラもJの精神攻撃と、多分戦いの疲労だろう。まだ眠りが醒めない。


 ティーチは腹部の出血は止まっているが彼が膝をついて休むというのは初めて見る。ピートは魔法を使い切った事で頭痛に似た症状があり、オイラ達の護衛だったグリーンだが、見ればとんでもない量の汗をかいている。後で聞いた話だが、戦闘開始からJが帰る為に背を向け歩いている最中までずっと暗殺の機会を窺っていたらしく、随分と消耗していた。


「全く、あんなにやられておいて……もうちょっとフラフラと帰ればいいのに」


 その時はただの嘆きに聞こえたこの言葉も、それを知っていると意味が違って聞こえるから不思議だ。


「しかし、やってくれたね。パウロ君」


 要約緊張が解けていたその時、ピートが言った。

 苦言、ではないのだろうが苦笑気味な何とも言えない表情だった。


「まぁ、中途半端なままよりもいいさ。これで私達はこの町に住むしかなくなった訳だ」


「え!?」


 話がさっぱり分からない。

 しかなくなった?アキラも?なんで?


「貴方……Jが誰だか分かってる?」


 ため息混じりにグリーンがヒントらしき言葉を口にする。


「えっと、アキラ達の国の……教育者の悪者?」


 大人達のため息、もれなくオイラのスネ顔・・・・・・そして、見かねたティーチの解説。


「奴は国の上層部が派遣した存在しない人間だ」「うん・・・・・・うん?」


 オイラはまだピンとこない。


「まぁ、今は関係ないけど、政治的に表にしたくない事を始末する為の存在よ。存在が認められてなければ原因不明で片付けれるってわけ」


「それで、大事なのはそのアキラの国の上層部にJが繋がっている点だ」


 グリーンの補足とピートの答えでようやくオイラにも意味が分かってきた。

 つまり・・・・・・オイラが言った言葉、いつでも来いは帝国に向けての宣戦布告でもあり、オイラ達には少なからず手を貸したアキラやピートも含まれるわけだ。


「今更逃げる気も手のひらも返す気もないが、私個人としては、君に定められたというのはむしろ、嬉しくもあるよ」


 それは、アキラのためだ。

 あの真面目はきっと自分で決断しても祖国の裏切りだのなんだとまた気を病むだろうことを見越しているんだ。


「まぁ、いいさ。私は自由意志で国にいただけ。アキラも本心では君といたかったのだろうから……」


「え?じゃあ……お前ら家は?」

「家も何も、君の家は宿屋だろ?・・・・・・何も変わらない。そういう事さ」

「うっへぇぇ」


 思わず飛び出る唸り声。

 笑う大人達。


 それはなんだか数週前に酷似したひどい既視感だったが、その頃とは全く違う一日だ。


 なぜならここには二人も多くの仲間と、更に強くなった絆があるのだから。

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