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時織家にまつわるあれこれ。
ダイジェスト版。
この世には、二つの世界がある。
まず一つが、《普通》の世界。普段私達が平和に暮らす、程よい日常と馬鹿らしい戦争、口先だけの平等と現実的な差別で溢れる、穏やかな世界だ。これが一般的に《表》や《スタンダード》、はたまた《箱庭》なんかと言われる。
そして二つ目が、『時織』の属する《埒外(らちがい)》の世界である。
権力と財力。暴力と能力が確固として渦巻く、人外と埒外、気違いと桁違いのるつぼ。非常識が非常識に淘汰される、人外魔境の極致。
《普通》の世界を《表》とするならば、こちらは間違いなく《裏》だ。
《表》に決して出ることはなく、舞台裏から影響を与える。比喩や概念などの生ぬるい話ではなく、《裏》が無ければ《表》は成り立たない程に。
そして、その中心に“在る”のが、『七忌名(しちいな)』と呼ばれる人外集団だ。
《研究》の≪下上-サカガミ-≫
《戦闘》の≪若紫-ワカムラ-≫
《技術》の≪絡繰-カラクリ-≫
《暗殺》の≪糸色-イトシキ-≫
《権力》の≪七星-ナナホシ-≫
《商売》の≪孤子-ミナシゴ-≫
《観察》の≪福井-フクオイ-≫
7人の魔女をそれぞれ当主とする、群体である。
その内の一角。
七星の分家にして、《信仰》を司るのが≪時織≫だった。
古くから、《権力》の影には必ず《信仰》があった。それは『弱った人の心』に《信仰》は程よく響き、御しやすいから。そしていつだって吐きだめのようだった『社会』において、それは想像を絶する『集団』になりうる。
《権力》に必要不可欠なものは何か。
そう、『群体』である。
軍隊などまさにその一部でしかなく、金などただの付随品に過ぎない。
人が群れれば、そこには武力が生まれ。
人が群がれば、そこには財力が生まれ。
そして、『支配』が生まれる。
《権力》が、存分に発揮される。
故に、『群体』を生む《信仰》は、まさしく《権力》の影と言える。
時織は、ずっとそうしてきた。
あちらとこちら、《表》の世界と《裏》の世界の橋渡し。
人身御供。
宗教の新興・布教。
政治介入。
世論の扇動。
ありとあらゆる媒体を持って、《表》に干渉してきた。
そんな時織の中で、絶大で絶対的な権力を持つのが、祖母――つまりご当主様というやつだ。
誰も当主である祖母には逆らえないし、また逆らうなどとは例え天地がひっくり返ろうとも思わない。
『この家では』『誰が偉い』のか、遺伝子レベルで組み込まれているからだ。
そして。
その祖母の次に『偉い』のが、いわゆる『跡継ぎ』という存在。
私は、かつてそれに属していた。
かつて。
今はもう、過去系だ。
子供の出来なかった義父と義母の間に、養子として時織に名を連ねたわたしだったが、そして実際子どもの頃からつい数年前に至るまで“教育”を受けていたのだが、その生活はあっさりと終わりを迎えた。
直系――つまり“本当の”跡継ぎの存在の発覚である。
血で血を洗うような《裏》の世界はしかし、何よりも血の繋がりを重視する。一部の例外を除き。
時織にとって“苦肉の選択であったわたしという存在”は、望み焦がれた直系がいればただのお払い箱というわけだ。
かくして、跡継ぎという立場と引き換えに、わたしは自由を得た。元からあの生活には嫌気が差していたので、未練などは微塵もなかったが、それでも一つだけ、心残りがあった。
いや、心残りというよりは、ただの罪悪感か。
直系の跡継ぎ。
“隠し子から産まれた隠し子”。
禁忌から産まれた禁忌。
はたしてわたしは。
彼女に対して、どんな感情を抱けばよいのだろうか――。
人でなしのいろは 囲味屋かこみ、 @kakomi
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