家を育てる物語~男爵から始まる異世界暮らし~

水川み月

第1話 異世界は突然に


高度経済成長期の日本。


それは、未来への繁栄と安穏が約束された時代。そして、地下に蠢く魔物たちが地上に姿を現した時代。


1954年、第1次鳥山次郎内閣が発足し、翌年、翌々年には第2次、3次と形を変えながら日本を牛耳っていた。「もはや戦後ではない」時代を幕あける日本に、彼を疑問視する声は上がらなかった。


後の世に「世界の終りの魔物」と言い伝えられる彼の日本の総理大臣は、その名の通り世界を終焉へと導いていた。


陽の当たらない町から徐々に、世界の裏舞台に存在する化け物が入り込んできた。そして裏の世界と表の世界が入れ替わろうとする寸前、世界は日本にありとあらゆる武器兵器を投入し、これを殲滅した。


総理大臣官邸に落とされた原子爆弾は、「人類叡智の結晶兵器」として世界から賞賛されることとなった。


それ以来、「世界の終りの魔物」は世界に現れていない。



そして世界の裏舞台に落とされた少年は、天使の声を聞く。


「あなたをこちらの世界に連れてきたのは間違いでした。あなたには仮初の、人の生の時ばかりの世界を与えましょう」




――新しい世界ヴィクトヘルミナスよ、その姿を現しなさい。――





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目が覚めたのは、太陽が真上に上っている時間だった。


「んんー! よく寝た」


寝起きの悪さに定評のある自分だったと記憶しているが、さすがにこれだけ眠れば寝起きも爽快だった。


先日道端で拾った手鏡で寝起きの顔を見てみる。髪の毛のところどころに木の枝と葉っぱがついており、顔には落下時についたと思われるひっかき傷が無数にあった。


「今いる場所も、自分の名前もまったく思い出せない。うーん、ピンチだ……」


自分の声だけが響くこの空間は、彼の頭を冴えわたらせるに十分だった。



「とりあえず、昨日のことを思い出してみよう――」

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