第5話 ゲーム
家を出て出発した俺たちは門が見える所まで来ていた。
門の左右に建てられた高台には相変わらず門兵が配置させられていて片手には狙撃銃を抱えている。
そして、このブロックで唯一正確な時計が左の高台に取り付けられている。今は11時52分。貴族たちがやって来るのは12時ジャストだ。
「2人ともいいか?作戦通りに。もしこの作戦が失敗してもBプランに変更し継続する」
2人とも黙って頷く。緊張感が漂っている。
「もしもの時は、、アリス、頼む」
「任せて…!」
「お嬢様なら大丈夫です。わたくしもサポートしますから」
「お願いね
お任せ下さいと、ジゼルは頷く。大丈夫。よっぽどの事がない限りこの作戦は上手くいく。
「最後にルートの確認だけど…」
俺たちはギリギリの時間までお互いに作戦の確認をする。
そして、時計の針は12時を回った。
ガコオオオオン。
という音を立て、門が少しずつ開いていく。
門が完全に開ききると、白馬に乗った軍服を着た黒髪の男が現れ、続いて二台の檻を積んだ馬車、その後ろに数人の射撃兵と剣兵の部隊が放浪の民へと入ってきた。
「今回の貴族は2人か」
ソーマは馬車に目をやる。それぞれの馬車に馬使いと貴族が乗っているのが分かる。
そして、1番危険な奴が…あの白馬に乗った男だ。
何故、こんな危険なブロックにも関わらず貴族自らが奴隷を求めてやって来れるのか、殺しに慣れている放浪の民の連中なら集団で襲い掛かって門の向こう側へと行けるのではないか?
これらの疑問を全て覆すのがあの男の存在だ。
この、放浪の民の奴隷連行担当を任されている37ブロックの全ての軍隊をまとめる若き部隊長。”門川レン”。
レンは「ふむ」と放浪の民を見渡すと
「汚らわしい外観ですねぇ」
突如レンの背中に一枚の燃え上がる炎の翼が生え、右掌に炎の
!?まずい!そう頭に浮かんだ時には既に遅かった。
「
ドガアッ!ドゴオンッ!
炎の弾が辺り一帯を無差別に壊していく。
するとソーマたちの他に隠れていた放浪の民の人間たちが驚いて飛び出してくる。
「やっぱり隠れていましたか!」
ニヤッとレンは笑い、飛び出して来た人間たちを次々に炎の弾で撃ち倒していく。
「あぁ、やっぱりボクの炎が薄汚い屑どもを撃ち抜く感覚…いつ味わってもか、い、か、ん♪ですね!」
ゾクリ!と自らの身体を両手で抱きしめ快感に身を委ねる。
「門川よ。あまり殺すでない。余興がなくなってしまうだろう」
馬車に乗っている貴族の1人が少し怒った様子でレンを見る。
「あぁ、お見苦しい所をお見せしました。ささ、奴隷選びに行きましょうか」
相変わらずニヤニヤしているレンを見て、貴族2人は気持ち悪いな…と心の中で呟く。
「その言葉言われ慣れてるので気にしてませんよ」
レンのその言葉に貴族はキュウウッ…と心臓が締め付けられる感覚を覚えた。やはり、この男は気味が悪い。冷や汗を浮かべながらも「行くぞ」と強めに言を放ち、
ソーマたちは……
「助かったよジゼル!」
「し、心臓止まるかと思った…」
「危なかったですね」
瞬時にジゼルがソーマとアリスの頭を掴み地面に伏せてくれたお陰で無事で済んだ。さっきまで伏せずにいた所の壁が消し飛んでいる。もし、伏せていなかったらと思うと恐ろしい。
門は既に閉まっている。少し驚いたがまぁ、予測範囲内だ。
「よし、じゃあ怪我をせずに上手く”捕まる”んだぞ?3人とも同じ馬車に乗せられる事。それが条件だ」
ジゼルとアリスの2人は頷き馬車を追う。
3人一緒に行動し捕まってしまっては仲間だと思われ警戒され多分、別々の馬車に乗せられる。それだけは避けねばならい。
最初の内は単独行動は危険なので、馬車の数と敵の数を把握するまでは一緒に行動したが…
ここからは時間差でタイミングを見計らい同じ馬車に捕まる。つまり単独行動だ。
「2人とも、頼むぞ…」
俺は2人の背中を見送り、只々祈った。
*
この国には元々ブロックなどなかった。4つの大きな区域に分けられていただけだった。
それに地域格差もなく、それぞれの地域が協力し合い、助け合い、正に理想の国だった。
しかし、人というものは優劣を付けたがる生き物だ。
この世界には”羽根持ち”と言われる奇跡の翼の
そして、もう1つの存在。”見捨て子”と呼ばれる存在。見捨て子は神に見捨てられたと言う意味が込められた呼び名であり、この名で呼ばれる人間は、何の
この羽根の
しかし、ある事件を境に羽根持ちたちは羽根のない人間たちを自分たちより劣っている存在だと思うようになった。
その思いはいつしか軽蔑の感情となり、”羽根無し”たちは、羽根持ちに従順になる事で共生を許され、見捨て子たちは奥へ奥へと追いやられ、門を築き上げられ、治安の良し悪しが生まれ、ブロックが出来上がった。
それが今のこの国”夢見の王国”の現状である。
「2人は上手く捕まったかな…そろそろ馬車が戻ってくる時間なはず」
俺は自らの身体を砂で汚す。そして両腕を後ろに回し、持って来ていたロープで縛る。
普通の人間ならば難しいだろうが、盗賊の技が使える俺なら出来る。
馬車の近づく音が聞こえてきた。どっちの馬車にジゼルとアリスは乗っている…?
檻の中を確認する。
っ……!どっちだ!?檻の中の人数が多すぎる!2人の姿が見つけられない!
いつもは少人数しか連れて行かないのに!
ソーマは焦り始める。急いで2人を確認して演技しなければならないのに!
ジゼルとアリスは手錠を掛けられ上手く一緒の檻の中に捕まっていた。
小声でジゼルがアリスに耳を打つ。
「妙ですね、そろそろソーマが出てきてもいいはず……」
アリスも不安になる。そして考える。
今日はいつもの
アリスとジゼルはその大人数に追いやられ中央に姿が隠れてしまっていた。
もしかしてソーマもこの大人数は予想外の出来事……?
はっ!と気付く。そしてアリスは息を大きく吸い込み…
「いやあああ!奴隷にされるなんて嫌よ!ここから出して!」
悲鳴に近い大声で腹の底から張り上げた。
「ふふふ、女の悲鳴。あー堪らないですね!」
先頭を行くレンは悲鳴に心地良さを覚え胸高らかに馬を進める。
「アリス、ナイスプレーだ!」
今の悲鳴でアリスとジゼルが後方の馬車に乗せられているのを確信したソーマは、最後尾を行く射撃兵と剣兵の隊列の後ろに回り込み、倒れる。
ここからは俺の演技の見せ所だ。
「くそおおお!あの野郎!俺を騙したな!!」
その大声に最前列を行くレンを含め全員が振り向く。
一斉に瞳が自分に向けられ、威圧感がソーマを押し潰しそうになるが、踏ん張って続ける。
「俺を安全な場所に案内してやるっつーから物資を渡したのに、縛り上げてこんな所に置いていくなんてよぉ!!」
ソーマの迫真の演技にジゼルとアリス以外の全員がこの男は裏切られここに放り投げられたのだと信じ込む。
隊列はソーマを取り囲み、レンに声をかける。
「隊長!この男どうなさいますか!!」
「ここに置いていっても死ぬ運命、ならその命ボクたちが使って差し上げましょう。あぁ、なんて慈悲深いんだボクは!!後ろの檻に入れておきなさい!」
「はっ!分かりました!」
ソーマは後方の馬車に乗せられそうになる。それを敢えて抵抗してみせる。あまりに素直に捕まると疑われそうだからだ。
「大人しくしろ!」ガッ!と右頬を銃で殴られた。くっそ、痛ぇな。と思いつつ、そこで抵抗をやめ素直に捕まった。
「手錠はいいか、縛られてるしな」
ソーマだけ手錠を掛けられず、ロープで縛られた状態で檻に中に入れられ、馬車は再び門へと向け進みだした。
ソーマは急いで他の連中を掻き分け中央に潜り込んだ。
と、誰かに肩を掴まれ引っ張られた。
「ジゼル!」
「ナイス演技でしたよ。ソーマ」
続いてアリスをジゼルは中央に引き寄せる。
「アリスもナイスプレーだったぞ!助かった!」
「うん!任せてよ!」
再会に喜びながらソーマはロープをシュルルと解く。そして続いてアリスの腰に巻き付けてある
続いてジゼルの手錠も同じ様にロックを解除し、手錠を外す。
それを
この手錠は両腕を外側に開くだけで簡単に外れる作りになっている見せかけの手錠だ。2人に手錠がしっかり掛けられたのを確認し、再び自らの腕をロープで縛りつけた。
よし!偽装は終わった!次は門を潜って……
「……?」
その違和感はソーマだけでなく、ジゼルやアリス、他の連中も感じ取っていた。
先を行く馬車は既に門に着いているにも関わらず門が開いていない。
何かアクシデントでもあったのか?
「……嘘」
その言葉を発したのはアリスだった。何故だかわからないが、先に門に到着している馬車に積まれた檻から、連行中の人間たちが次々に降ろされ一列に並ばされている。
「何がしたいんだ、分からない…」
ソーマは予想外の出来事に焦り始める。そのソーマの様子を見ていたジゼルは「落ち着いて、状況を見極めましょう」と冷静な口調でアリスとソーマを落ち着かせてくれる。
流石大人だ。少しの焦りも見せないジゼルを見てソーマは冷静になれる。
ソーマたちも門の近くに着くと檻の中から降ろされ、先に並んでいた連中の後ろに一直線に並ばされ、その後ろに射撃兵と剣兵が並ぶ。
ソーマ、ジゼル、アリスは3人一緒に固まる事が出来た。捕らえられた人間はざっと60人くらいだった。
長谷川レンが俺たちの集団の前まで馬を走らせ、いつの間に移動したのか貴族2人は左右の高台に登り、俺たちを見下ろしている。その時に左右の高台の門兵が俺たちに銃口を向けている事に気付いた。
嫌な予感がする
後ろの兵隊たちも剣を抜き、銃口を向けている……
「やぁやぁ!放浪の民の諸君!ボクの名前を知らない奴はいないと思うけれど一応名乗っておくよ!この先のブロックの兵隊たちを全てまとめている隊長、門川レンだ!」
凄く楽しそうに笑いながら話すレンを見てソーマは嫌気が刺す。
こういう奴こそ俺たちの事をゴミ以下にしか見てないんだ。
ギリッ…と唇を噛み締めるソーマを見てアリスは少し怖い…と思う。
レンを見つめるソーマの瞳は憎しみそのものだった。
「ソーマ…大丈夫?」小声で話しかけるとソーマは、はっとした様子で「大丈夫だ、ありがとう」と小声で返し笑いかけてくれた。
レンは話を続けた。
「今回は貴族様のご好意によりなんと!君たちは今から自由だ!!」
その言葉に捕らえられた連中は騒めき始める。
捕らえられた人間の中の1人が声を上げた。
「じ、自由って事は向こうのブロックに行っても良いのか!!?」
「えぇ!勿論!!」
歓声が上がった。なかには貴族様ありがとうございます!!と地面に倒れ伏している奴もいる。泣いてる奴も。
俺が呆気に取られているとジゼルが視線を投げかけて来た。油断するな。そう、言っている。
「しかーーーーし!!」
そのレンの大声により、騒がしかったこの場が静まり返る。
「ゲームをクリアできたらね」
ニヤリ、と本当に楽しみで仕方ないという様子でワクワクしながらそう言った。
貴族の連中も何だか楽しそうにそわそわしている。待ち遠しいと言った様子だ。
「ゲームは簡単!この門を越えられたらボクたちはあなた達の事を見逃します!」
俺は、アリスに小声で#秘密袋__シーカー__#と呟いた。
アリスとジゼルもその一言で理解した。
心臓がドク! ドク! ドク !と
周りに聞こえるんじゃないか?ってくらい大きな音を立て、徐々に鼓動が早くなっていく。
アリスが心配だが、アリスは物凄く集中している様子でちょっとした音でも即座に反応できるくらい緊張の糸を張り詰めらせている。
流石のジゼルも瞳は強いが冷や汗を浮かべている。
レンはニコニコ顔で俺たちの前から退き、背後に回る。
正面は門。左右の高台に射撃兵。
背後は射撃兵と剣兵。さらにレン。
何が起こるかは明白だった。
「それでは始めますよぉー!ゲーム…」
「今だ!伏せろおおおお!!!!」
「スタート!」
ババババババババババババババババババババババババババババババンッ!!!
俺たち3人が伏せると同時に射撃兵が一斉に発砲した。
その発砲で一気に半分くらいの人が地面に倒れ、鮮血が散った。
その光景はまるで地獄の様な光景だった。
第5話 ゲーム ~end~
次回予告。
「どうやって門を超えるんです!?」
前も後ろも敵だらけで四面楚歌のジゼルたち。
「大丈夫だ!信じろ!!」
ソーマを信じ、アリスとジゼルは門へと突き進む!
「私があの男の攻撃を防ぐわ。私にならそれが出来る」
アリスの選ぶ手段とは一体……!?
次回 第6話 空ってこんなに。
ボーカー~平和の楽園~ 鮫島 リョウ @ryo0427
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