第4話 奴隷選別日

 明日は別ブロックの貴族の連中がこのブロックの連中、放浪の民から奴隷として何人かを連れて行く日、奴隷選別日どれいせんべつデーだ。

 この奴隷選別日は1ヶ月に1回40から下のブロック全てで行われる。

 人が人を飼う糞みたいな日だ。

 奴隷として連れて行かれた連中の中には俺の友だちもいる。


 ……俺を逃して自分が身代わりになった幼馴染が…。


 39ブロックから上のブロックはブロックから他ブロックへの行き来は自由に出来るのだが、40から下のブロックはブロック間に門が設けられている。

 治安の悪いブロックの人間が治安の良いブロックでの犯罪行為を防ぐためだ。

 無理にこの門をよじ登り、越えようとすると左右に作られた高台の門番に射殺される。

 この門が開く時、それは


 貴族が奴隷を求めブロックに入ってくる時と、奴隷を連れて帰る時だけだ。

 つまり、明日が門が開く時。ボーカーへ旅立つチャンスの時だ!


 この事は既にジゼルとアリスには伝えてある。作戦も。


 俺はボーカーへの招待状を握り締め、スヤスヤと寝息を立てているアリスとジゼルを起こさない様家を出る。

 俺たちの貴重な飲料元となっている小川の前に座り込み、月明かりを頼りに招待状を読む。


 ボーカー~平和の楽園~へのご招待


 1、1ブロックの女神の口付けまでお越しください。

 2、奴隷の方、40ブロック以下に住まいの方でもご来場できます。

 3、この招待状を持っている方の承認により何名でもご来場できます。

 4、尚、当ボーカーは何らかのトラブル、事件等にお客様が巻き込まれましても一切責任を負いませんので予めご了承下さい。


 では、お客様のご来場をお待ちしております。


 よ い 旅 を ……




 4の記述が気になるが……。これは1ブロックに行くまでの間に何かあってもって意味なのか、それともボーカー内で何か…

 あぁ、また俺の悪い癖だ。すぐ悩む。

 悩んだところでもう意味はないというのに。ボーカーへ行く事はもう決まった事だ。


「届きそうで届かないものが多すぎる世の中になったな」

 小川の水面に揺らめいている月を眺め呟く。

 この月だって手を伸ばせば届きそうなのに実際は物凄く離れた場所にあるんだ。


「眠れませんか?」


 心地よい低音ボイス。ジゼルだ。

 ジゼルは淹れたての温かいコーヒーを俺にくれた。

 盗品の中にコーヒー豆があったはず。それを挽いて淹れてくれたのか。

 ジゼルは食に関して凄く知識が豊富である。アリスの執事時代には料理長も兼ねていたって話をいつだったか聞いた覚えがある。


「コーヒーありがとう」

「どういたしまして」


 俺はジゼルから貰ったコーヒーを口にする。

 …………!!?こ、これは!!


「はっ!?え??何だコレ!?すげぇ美味い!!」

 え?コレ本当にコーヒー……か?コーヒーだよな??うん、コーヒーだ。

 すげぇ美味いんだけど!?


「お口に合って良かったです」


 ジゼルは軽く頭を下げた。月明かりに照らされて灰色の髪が輝いている。


「完璧かよ…」

「はい?何か言いました?」

「いや!何でもない!」


 おまけに地獄耳なのか…


「ジゼルはさ」

「はい」

「何で俺がボーカーへ行く事を賛成してくれたんだ?」

「と、言いますと?」


 俺が何を言いたいか分からないと言った様子でジゼルは不思議そうな表情を浮かべた。

 俺は少しだけバツが悪そうに続けた。


「その、なんつーか、ほら、……アリスに危険が及ぶ事をジゼルがよく許したなーって」

「あぁ、その事ですか」


 ジゼルは分かったと言わんばかりに左掌に右手の握りこぶしをポンッ!と置いた。


「わたくしはお嬢様に危険が付きまとうような旅には行って欲しくありません」


 その言葉を聞いて心臓がドキッ…と高鳴った。やっぱりジゼルは本当は反対なんだ…

「でも」

「……でも…?」

「わたくしがお嬢様は守りますし、お嬢様には、お嬢様のしたい事をして欲しいのです。今までお辛い事が沢山ありすぎ……おっと、すみません、これ以上は」

「大丈夫大丈夫、言いたくない事は言わなくていいさ」

 ジゼルはいつも肝心な事は何も話してくれない。アリスもなんだけど。

 人は誰でも話したくない事の1つや2つはあると思ってるしあまり気にはしていないけれど…

 いつかは話して欲しいと思う自分がどこかにいる。


「それに、ソーマもお嬢様を守ってくださるでしょう?」


 この言葉にちょっとだけ俺は驚いた。それってつまり信頼してくれてるって事だよな?

「あぁ!当たり前だ!!ジゼルも守ってやろうか?」

 ニヤニヤしてそう言うとジゼルはくすりと笑って「じゃあ、お願いしましょうか」と 言った。


 俺はジゼルの肩に軽く拳を当て


「あぁ、まかせとけ!」


 と、意気込んでみせた。



 *



「朝だよー!おっきっろぉーー!!」

 ズッガあああん!


 これが俺の毎日の目覚めである。

 一番早く起きるのはジゼル。俺が起きた時にはいつも俺の盗ってきた物で適当に朝飯を作ってくれている。

 そして次に起きるのはアリス。アリスはとても大食いで、食べる事が大好き。その為ジゼルの作る料理の匂いで起きるのだ。


「あ、アリス……もっと優しく起こしてくれよ…ぐふっ」

「なーにを言ってるのよ!朝の気付けよ!気付け!さっ!早くご飯食べましょ!!」

 今日から旅に出るからか、アリスは凄く上機嫌だ。

「あっ、そーだ」

 俺は昨日手に入れた盗品の中から星飾りのついたヘアゴムを取り出し、アリスに渡す。

「やるよそれ。盗品は嫌かもしれないけど」

「わああぁぁ…ありがとう!」

 アリスは感激し、早速長い髪をゴムでまとめる。

「どう、、かな?」

 ポニーテール姿になったアリスはソーマを見つめた。

 。

「うん、いいんじゃないか?可愛いよ」

「!!えっ、、そ、そぉ?」

「可愛いよヘアゴム」

「…………」

 この男はほんと女心を分かってないなとアリスは思う。

「?どうかした?アリス」

「ちょっとソーマ耳かして」

「?」

 ソーマは耳をアリスに向けようとした、その時

 ドゴッ……!!

 アリスの腹パンが綺麗に決まり、ソーマは床に倒れ伏した。

「早くご飯食べに来なさいよ」

 ソーマの姿も見ずにアリスは外へ出て行った。

「お、俺…なんか悪い事…したっけ…?」

 腹の痛みに耐えながらソーマは女の子って分からないな…と思う。

「次から気をつけよ…」



 *



 外でアリスをなだめながら朝飯を済まし、昨日の夜の間にまとめておいた荷物を”秘密袋シーカー”に入れる。

 秘密袋シーカーとはその袋の大きさとは裏腹に沢山の物を入れる事のできる魔法の品だ。

 大きさは様々だが俺たちの持っている秘密袋シーカーは化粧ポーチくらいの大きさである。これ1つで小さな家1つ分くらいの荷物は入れる事が出来る優れものだ。

 袋の開け口よりも大きな荷物でも大丈夫だ。入れる瞬間に縮小魔法が働いて小さくなるから。取り出す時は勿論元の大きさに戻る。

 さらに、秘密袋シーカーに入れた荷物の重さは外部に影響されないので、袋の重さだけで済む。

 長い間盗みをやっていると稀にこう言った価値の高い魔法の品を手に入れる事があるんだが…たまに呪いの品が入ってたりするので秘密袋シーカーを手に入れられて正直凄く嬉しい。

「これ、アリスが持っててくれ」

 俺はアリスに秘密袋シーカーを手渡した。

「分かった!任せて!」

 アリスは秘密袋シーカーを腰に紐で巻き付けた。

「2人とも忘れ物はないですか?」

「あぁ、大丈夫だ」

「私も準備オーケー!」


 俺たちは奴隷選別日どれいせんべつデーで貴族のやってくる門へとまず向かう。


 アリスとジゼルが小川を越え俺の先を行く。



 俺は



 長年暮らしたボロボロで汚くて小さな家だけど愛着のある家をこの目に焼き付けておく。


「今までありがとう。お前のお陰で雨の日は濡れなかったし、寒さも凌げた」


 沢山の思い出の詰まった小さな家にお礼を告げ、ソーマは2人の後を追う。


「…楽しかった!」


 小さな家へと贈られた最後のソーマの言葉に、何故だか家は「行ってらっしゃい、幸せになってね」と言ってくれているような気がした。



 第4話 奴隷選別日どれいせんべつデー~end~



 次回予告。



 そして、1番危険な奴が…あの白馬に乗った男だ。


 強力な敵がソーマたちに立ちはだかる…



「いつ味わってもか、い、か、ん♪ですね!」


 新敵の異常さ。



        嫌な予感がする



 その光景はまるで地獄の様な光景だった。



 次回 第5話 ゲーム

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