第15話 騎士に

「まさかジョーカー殿自らいらっしゃるとは」

「自分の息子の安否を確認しない親がどこにいる。お前も親になれば分かるさマルコ」

「ご冗談を、そんな予定は今しばらくありませんよ」

 ウンディーネ支部の作戦会議室に場所を移し、僕らは父さんの前に整列している。僕を含め、みんな少し緊張した顔をしていた。

「さて、ここへ来たのはそれだけじゃない。ライオット」

 名前を呼ばれて背筋が自然と伸びる。

「お前を正式に、騎士として我が聖イデア騎士団に迎えいれることにした」

 一瞬何を言われたのか分からず、僕は返事もしないまま父さんの顔を見つめる。

「詳しい所属についてだが……」

「ま、待ってください!」

 慌てて言葉を遮り、一歩前に出る。父さんは不思議そうな顔をして僕を見下ろしている。

「こ、こんな事態になってしまったので入団試験の結果は出ていませんが、僕は到底騎士にふさわしい人間ではないと痛感する手ごたえでありました。も、もちろん騎士団には入りたいですが、そんな……」

 そこで僕の言葉は途切れる。騎士はそんなに簡単なものではない、僕なんかに勤まるわけが無いのだ。

 父さんは表情を動かさず、重々しく口を開く。

「ガリレオ」

 名前を呼ばれたガリレオ隊長は凛とした声で答える。

「御身の決定したことであれば、私どもには反対などございません」

「マルコ」

「右に同じく」

 二人の答えに僕は絶句した。

「こういうことだ、ライオット。お前の実力の話など関係は無い。俺がそう判断したからそうする。今の騎士団とはそういう場所なのだ、覚えておけよ」

 その声に畏怖を宿らせ父さん、いや、ザルファリオ・ジョーカー騎士団長は僕にそう言った。

「では改めて命ずる。ライオット・ジョーカー、その身をこの世界に捧げる騎士となれ」

「……はい」

「おめでとう、家のことはルイスが継ぐ。心配するな」

 僕は晴れぬ気持ちを抱えたまま、去っていく父の背中に頭を下げる。

 こうして僕は、騎士になった。


「あの子はまだ力が上手く扱えん。だがその秘められた力は私以上だ」

 ザルファリオの言葉のひとつひとつを、ガリレオとマルコは心に刻み込む。

「扱いには気をつけろ。我々ジョーカーの血に宿る力は世界の理を変えかねないからな」

 水の結界の向こうにたゆたう月を見つめ、その瞳を物憂げに沈ませる。

「直に敵が攻め込むだろう。死ぬなよ」

「了解」

 二人の言葉を聞き届け、ザルファリオはその姿を消した。

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血戦のイデア だらけベーコン @doradara02600

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