ブサイクだからオークにしか転生できなかった

掛葉 充

ゲロブサうんこマンの門出

 高校生2年、俺のあだ名はゲロブサうんこマン。

小学校から今なお続く呪われたあだ名だ。


 小学校2年生の時に席替えで隣になった女子が突然ゲロを吐いた。

体調不良だったのだろうが、早退していった彼女の友達の間で

「隣のやつがブサイクすぎて気分悪くなったらしいよ」と、根も葉もない噂が流れた。それに便乗した男共も一緒になって俺のことを「ゲロブサ」と呼び始めた。

俺は温厚でおとなしい性格だったので聞こえないふりをして、その場をやり過ごした。

その一週間後、朝から腹の調子が悪かった俺は、3時間目の授業中うんこを漏らした。

こうしておれのゲロブサうんこマン伝説が誕生したのだ。


あれ以来、女は気持ち悪がって話しかけてこないし、男は俺をパシリ扱いする。

どいつもこいつも本当にクソだ、俺が本気でキレたらお前らなんかパンチの一発で病院送りだ。俺は面倒ごとになりたくないから本気を出さないだけで、本当はすごい能力を持ってるんだ。本気で勉強に取り組めば一夜漬けで東大だって行けるだろう、本気で音楽をやれば日本の、いや、世界のトップに入るミュージシャンにだってなれる。そうすればお前たちは手のひらを返して俺を持て囃し、まるで大親友であるかのような顔で近寄ってきて胡麻をすることになる。

俺は無駄な会話が嫌いだから、そういう馴れ合いには参加したくない。

こうしてひっそり生きててやるだけだ。


 教室の窓際で本を読みながら、暑くもないのに垂れ流れる汗をぬぐう。

異世界転生、今流行りのジャンルだ。

俺のような凡人のふりをした男が死ぬ。しかしそれは神の誤算で、代わりにチート能力(まあ俺は本気出してないだけで元々持っている能力だが)を持って異世界に飛ばされる。

しかしそこは比較的原始的な生活をしている世界で、転生した奴のチート能力が大いに役に立つ。

何でもできる主人公にやたら布面積の薄い女たちが次から次へと惚れこんで近寄ってくるのだ。

……いい、それはすごくいい。俺はこの小説に出てくる聖騎士のマニュエちゃんが好みだ。金髪色白で小柄、しかし胸はそれなりに豊満。正義感がありとても強く、主人公への誠実な態度と奥ゆかしさにとても好感が持てる。

俺の力はこういう女の子を守るために存在しているんだ。

解るか現実のクソ共!お前らみたいな人を蔑んでスクールカーストの上にのさばっている連中は俺という物語においてモブでしかないんだ!


汗でずれ落ちる眼鏡を上げる。今日は湿度が高くじめじめしていてべったり張り付くワイシャツが気持ち悪い。


 その時、強い風が吹いた。開けっ放しの窓、教室中のカーテンが大きく揺れる。

それは部屋の中をぐるりと回って、俺の手の中の本のページをばらばらと乱暴に捲り上げた。と、同時に本に挟まっていた栞が風に舞う。

シリーズ増刷記念で限定付録としてついてきたマニュエちゃんの栞だ。

限定200枚、争奪戦になる中、本屋を営む親戚のおじさんに無理を言って取り寄せキープしてもらったレアものだ、あれはもう二度と手に入らない!


「マニュエ!今助けるぞ!」


風に強奪されたマニュエを救うために俺は体を揺らして走った。

ドン引きしている女や、ゲロブサうんこマン地面揺らしてんじゃねーよと罵る男共の声は無視をする。

今は俺のマニュエを救うことで頭がいっぱいだった。


窓の外に投げ出されかけた栞を間一髪つかみ取る。

よかった!マニュエは無事だ……!


そう思ったのもつかの間、窓から身を乗り出しすぎた俺の体は、重心が窓の外に行っていた。足はむなしく空中を蹴り、「ホォッ?オオオオン!」という情けない声を最後に4階の窓から落下していったのだ。


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ブサイクだからオークにしか転生できなかった 掛葉 充 @kakebaataru

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