第15話 小瓶

 …なつきに告られた。

 今まで一番近くにいたけれど全然気付かなかった。

 「‥‥。んっ‥」

 気付いたら涙が溢れていた。

 なつきはどんな気持ちで私と一緒にいたんだろう。

 どんな気持ちで私に告白したのだろう。

 どんな気持ちで私を励ましたのだろう。

 絶対‥‥辛かったよね。

 勇気‥か。

 涙を拭い携帯を出す。

 私も。頑張ろう。

 勇気を出せる人になろう。

 「‥あ、もしもし?明日の放課後空いてる?‥‥じゃあ、放課後昇降口で待ってる。‥うん。ありがとう。」 

 

 やっとスタートラインに私は立てた気がした。



━━━━━━━━━━━━次の日 


 運動部のかけ声、吹奏楽部の音色。

 誰もいない放課後の昇降口。

 いしだくんと二人。

 

 私の心臓の音が聞こえていたらどうしよう。

 「い、いしだくん」

 いつもの太陽みたいな笑顔で笑う。

 「みつるちゃん。」

 火が出るくらい顔が熱い。

 「あっ、あのね、いしだく…」

 「好きだよ。」


 「……へっ?」

 

 いしだくんは真っ直ぐな瞳で私を見てこう言った。

 「好きだよ、みつる。」

 夕焼けの明かりに照らされて世界がオレンジ色に染まる。

 「付き合おっか。」

 「…うんっ。」

 私の頬は真っ赤な夕焼けみたいだった。

 そんな私を見る彼の目は優しくて温かかった。

 

 いつもの帰り道だけど、世界が輝いて見える。

 隣にいしだくんがいるから?

 想いが通じあったから?

 全部正解。

 でも一番輝いているのは何か。

 世界でも、川でも、小瓶でも無い。

 彼だ。

 何よりもキラキラ輝いている。

 「みつるちゃん、何か変わったね。」

 「え?悪い意味?」

 「ううん。良い意味で変わった。」

 「ふーん。」

 変わったか…。

 内気で影みたいで地味な私が自分から行動した。

 告白は未遂で終わったけれど。

 「あっ、あれなつきちゃんじゃない?」

 「え?」

 いしだくんは川を指差している。

 


 輝く世界に悲しむ人がいた。

 なつき。

 なつきは川に向かって何個も小瓶を投げていた。

 「バシャ!!バシャッッ!」

 泣きながら。

 「っっ…。んっっ…ぐすっ。」

 私といしだくんは何も言えずに見守る事しか出来なかった。

 声を掛けることも、触れることも出来ない。

 彼女の事は見えるのに、心も見えるのに…  

 声を掛けたら、触れたら壊れてしまいそうで。

 まるで小瓶みたい。

 透明な壁。閉じた蓋。落としたら割れる。

 見えない心の壁、閉じた口、割れた心。

 なつきは小瓶みたいだ。

 

 「いしだくん…行ってくる。」

 「みつるちゃ…」

 「先に行ってて。」

 私は走り出した。

 あなたの元へ。

 鞄を投げ捨て、川へ駆け下りる。

 

 そして、あなたへ抱きついた。

 

 


 


 キラキラ輝く水面に、ただ一つだけ。違う輝きがあった。

 それは、あなたなのかもしれない。


 Fin.

 

 

  

 

 

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小瓶 向日葵 @redmagnet

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