第100話 かくも長き不在

 やあ、覚えていますか? もう忘れちゃいましたよね? 一応名乗ります。おいらです。やっぱ、忘れられてるな。まあ、仕方ない。前回これを書いたのは寒さ厳しい一月。それが今や、葉桜の季節になんとやらの四月。エイプリールフールも過ぎ、嘘をつくことすら許されません。だから、正直に話しますね。なにを? さあ、なんでしょうね。


 去年の十月ごろでしたか、ついに貯金が尽きてしまったので、おいらは就職活動をすることにしました。Indeedで何百件も何千件も閲覧し、なかなか、おいらにあった仕事はないなあって思いながらパソコンを見ていました。皆さんには関係のないことですが、今の求人のほとんどが、登録制派遣なんです。おいらはやっとこさ、自分に合いそうな仕事を見つけ、派遣会社に出向きました。そして、職場見学までして、結果は「今回は見合わせることになりました」でした。「うぬう、なんのこれしき」と次の派遣会社に登録に行きましたが、これがとんでもないブラック企業。こちらからお断りしてやりました。次に応募した派遣会社は、あまりにもネット上の評判がよろしくないのでキャンセルしました。


「ああ、このままでは埒が明かない」と思ったおいらは公的機関を利用することにしました。区役所の生活支援課に赴き、「仕事を探しています」と生活困窮自立支援制度を利用したのです。そしてハローワークから出向で来ているおっさんの個別指導を受けることになりました。しかし、おっさんの提示する求人はおいらの意に沿うものではありませんでした。でも、働かなくてはいけないという強迫観念から何社も面接を受けました。でも、おいらの病とブランクが多分ネックになって全て不採用になりました。その時点でおいらはクタクタになり、別の道を探ることにしました。Sです。


 ですが、その道は平坦なものではありませんでした。たくさんの書類を集め、何枚もの書類に署名捺印し、担当者の嫌味にグッと耐え、朝九時前から電話してくる担当者の無神経ぶりにも怒りを押し殺し、Sの申請をしました。それが、三月一日です。その夜からおいらは寝込んでしまいました。いや、ぶっ倒れてしまいました。精神的ストレスに我がメンタルが負けたのです。食事は喉を通らず、下痢便をひたすら垂れ流し、睡眠薬を飲んでいるのにも関わらず、一日一時間しか眠れず、やる気なんか全然出ず、ひたすら、布団とトイレを行き来していました。半月で十五キロ体重が減りました。ライザップ並みの効果です。毎朝、体重計に乗るのが唯一の楽しみでした。いつもと違う意味で、死にたいと思いました。


 今日、新しいエピソードを書こうと思ったのは、本日より、旧出入り自由な雑居房から出入り自由な独居房に移ったからです。これで、あとはいつ死刑執行が行われるのかを待つばかりです。


 そういうわけで、これでおいらの無駄話を終わりにします。今後は独居房での暮らしを報告する程のエッセイもどきを書けたら書こうと思います。執行までは茫々たる暇な時間があるのです。まあ、看守の足音に怯えながら、自堕落な生活を送ることでしょう。

 では。


 追伸

 Kさま、リクエストありがとうございます。でもね、おいら出不精で、知らない店には入れないんです。ご期待には沿えそうにありません。ごめんなさい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いまさら奇想天外な物語も驚天動地の小説も思い浮かばないけどね よろしくま・ぺこり @ak1969

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ