金魚の子
白神護
金魚の子
Cちゃんの家には薄い水色の金魚鉢があり、その中では、艶やかな朱色の金魚が泳いでいました。
ある日、UちゃんはCちゃんに誘われ、Cちゃんの自慢の金魚を見に、Cちゃんの家を訪れました。
金魚鉢はCちゃんの部屋にあるとのことでした。Cちゃんの家は母子家庭で、午後四時ごろのCちゃんちは、しんと静まり返っています。
Cちゃんの部屋は二階にあがってすぐのところにありました。Cちゃんは執事みたいに扉を開けて、Uちゃんにお先にどうぞという仕草を見せます。Uちゃんはくすくすと笑いながら、Cちゃんの部屋に入りました。
部屋の一角に、立派な勉強机がありました。金魚鉢はその上に置かれていて、中には砂利と、水と、水草と、そして朱色の金魚が一匹、居ました。
「エサ、あげてみる?」
金魚鉢に視線を奪われているUちゃんの脇をすり抜けて、Cちゃんは机の傍の段ボールを漁り、市販のエサを取り出します。
「はい、Uちゃん」
UちゃんはCちゃんからエサを受け取って、巾着状の鉢の口から、数粒、ぽろぽろと落としました。
でも、朱色の金魚は見向きもしませんでした。
Cちゃんは申し訳なさそうに「ごめんね、お腹いっぱいなのかな……」と呟いていましたが、Uちゃんは気にしていない様子で、「ううん、大丈夫。大丈夫だから……」と一生懸命に答えました。
それから日が暮れるまで遊んで、UちゃんはCちゃんの家を出ました。軒先で手を振るCちゃんに、小さく手を振り返しつつ、道を曲がって塀の影に隠れたUちゃんは、全速力で家に向かって走りました。
その日以降、UちゃんはCちゃんと距離を置くようになり、やがて進路が別れてからは、一度も顔を合わせていないそうです。
けれど、その日から十数年経った今でもまだ、Uさんは思い出すそうです。
Cちゃんの部屋の、机の上の、金魚鉢の水面に揺蕩う、濁った瞳の金魚の死骸を。
金魚の子 白神護 @shirakami
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