ロリコン屍兵とは私のことです。

りーりん

ロリコン屍兵とは私のことです。

 下っ端は忙しい。

 魔王城の掃除をしなければならないし、料理も作らなくてはいけない。

 今日も朝6時に起きて、いつものように各部屋を掃除する。


「じゃ、俺地下からやるわ」

「中庭行ってくる」

 掃除仲間(下っ端同士)と手分けして、俺は地下へと潜っていく。


 地下は特に汚い。

 地下水路と繋がっているからスライムの出入りが激しい。あいつら自分の粘液を床へこすりつけながら移動するもんだから床材の痛みが早い。

 毒スライムなんか掃除している俺の命すら脅かす程の毒をまき散らしながら、プルンプルンと体を震わせて移動している。

 ふよふよしている見た目から何故か人気があり、魔王様を裏切って人間に飼育されるものもいる。


 忠誠心の低い奴らだ。

 しかし胸を張って言える身分でもない。俺は元人間だ。死んだ後死霊使いに蘇生させられて生きている。

 いや、死んでいるから、動いている、といったほうがしっくりくるな。


 ただの屍兵だ。

 特技もない、魔法も使えない。

 体は腐敗しているから人間界へスパイ行為も出来ない。すぐばれる。

 元人間ということもあって、同じ魔王軍の中でもあまり信頼されていない。


 だが俺の忠誠心は揺らがない。魔王様の為なら俺はもう死んでるけど再び死ねる。


 しかし、俺のやるべきことは掃除だ。

 手足があり手先も器用だから、掃除や料理を命令された。

 しかも、まだ魔王様に会った事がない。


 いつか会ってやる、そう思いながら今日も床拭きを始めた。


 俺が拭き掃除をしていると、水路の奥に小さな明かりが灯されている。

 あんなところに明かりなんてなかったが?


 不審に思った俺は、ゆっくり水路の奥へ確認しに行った。流れている水の脇に道があり、そこを慎重に歩く。

 ここで出入りしているのはスライムやマーマンくらいだが、彼らは明かりなど必要ない。


 じゃあ、何の明かりだ?


 慎重に奥へ進むにつれ、明かりが鮮明に見えてきた。

 松明の炎だ。

 ゆらゆらと小さく燃えている。

 松明なんて魔王軍は使わない……まさか!


 俺の足は石のように固まり、その場から動けなくなった。魔法などではない。

 俺の恐怖心が足を硬直させていた。


 松明を扱うのは人間のみだ。

 そして、人間が魔王城へ迷い込むなんて事はまずありえない。そんな弱い人間なら当の昔に殺されているだろう。

 それらの罠を潜り抜けて、ひっそり城へ侵入している人物、そうなると答えは……。


 勇者だ。魔王様を討伐しようと企む憎い人間、俺の敵だ。

 だが俺は下っ端であり、もう一度言うが特技も魔法も使えない。武器といえば雑巾とバケツ。

 そんなスペックでここまでたどり着いた勇者を倒せるのか?

 否、倒せないに決まっている。


「誰!?」

 俺の存在に気付いたのか、勇者と思わしき女が声を上げた。


 女?

 勇者が女だって?

 勇者がいるという事は聞いていたが、魔王様の四天王を倒した人間がまさか女だとは……。

 いや、男女差別はよくないな。女でも強いのだろう。


 しかし、俺は非道冷酷残虐な魔王様の下っ端だ、足止めくらいさせてもらう!

 この命を投げ捨てででも勇者にダメージを!


 そう思って勇者の元まで駆け寄ると、松明の明かりで勇者の姿がはっきりと見えてきた。

 金色の長い髪が炎に照らされて艶のある光沢が眩しい程だ。

 青い瞳にはまだ幼さが残っていて、俺よりも身長は低い。

 肩や膝には金属をあてているが、足元のブーツの上にはスカートから覗く太ももが。薄暗くてもわかる、健康的な肌色をしている。

 腰元には剣が収められていて、手で柄を握っている。

 少女と言ってもおかしくない程幼い勇者だが、その表情は勇ましかった。

 今にも俺を切りつけてしまいそうな程、俺を睨んでいる。


 いいぞ、この睨み。もっと俺を睨んでくれ。


 勇者の全貌を確認した俺は、またも足が氷のように固まってしまった。

 魔法ではない。

 俺の心がそうさせたんだ。


「魔王軍の一員ね? 悪いけど死んでもらうわ」

 そう言って、勇者は剣を抜いた。


「ま、待ってくれ! 魔王軍にいたがもうやめたんだ、それに俺は元人間だ!」

「辞めたって……魔王を裏切るの?」

「あぁそうだ。無理やり俺を蘇らせて戦力にしていたんだ」


 俺は今この瞬間から、魔王軍を辞めた。

 魔王様?

 そんな会った事もない奴のことなどどうでもいい。元人間だし、寝返るもなにもない。

 元に戻っただけだ。


「そう……」

 勇者は剣を収めた。

 よかった、また死なないで済む。


 しかし、見れば見る程勇者は可愛い。

 こんな可憐な少女が四天王を倒したなど信じ難い。

 俺の心臓は動いていないが錯覚を感じている。

 激しく鼓動しているような錯覚。息も心なしか荒いようだ。


「もし勇者様が城へ攻め入るとすれば、外との繋がりがある水路ではないかと思い、お待ちしておりました!」

「屍のわりに勘はいいのね」

「学校で教師やってましたから」

 これは本当の話だ。

 俺は死ぬ前、街で教師をしていた。

 可愛い少女に囲まれて本当に幸せな毎日だった。


 しかし、魔王軍の襲撃で街は滅び、少女たちは散り散りになってしまった。


「あなた、本当に寝返ったのならちゃんと蘇生を受けてみる?」

「ちゃんとした蘇生、ですか?」

「えぇ。リリット国にいる賢者様は屍を蘇生する事が出来るのよ。まぁ、死霊使いに蘇生させられた屍限定なんだけどね」


 まじで?

 俺、ちゃんと生き返ることができるのか?


「そのちゃんとした蘇生を受けると、元の人間に戻れるんでしょうか?」

「うん」

「元に戻ったら、俺と付き合ってもらえないでしょうか?」

 勇者は驚いたというより呆れているような表情で俺を見た。


「なんでそんな話になるの?」

「すみません、惚れました」

「惚れたって……お断りします」

 即断られた。


「なぜですか?」

「だって別にあなたの事好きじゃないもん」

 辛辣な一言きた。


「これから惚れさせてみせますからお願いします」

「お願いされても無理」

「そこをなんとか」

 俺は勇者の前で土下座した。


「嫌なものは嫌、無理なものは無理」

「俺は絶対諦めませんよ」

「はぁ……」

 勇者は大きく息を吐いた。


「勝手にすれば? それより魔王の居場所わかる?」

「もちろん、案内しますよ。しかし、秘密の抜け道を通るにはひとつお願いが……」

 俺はやりと笑った。

 勇者は身構えている。


「な、なによ……」

「俺だけが知っている抜け道は、魔王がいる部屋までほぼ一本道です。無駄な体力を使わずに全力で魔王を倒す事ができるでしょう。そこで、その抜け道をお勧めしたいのですが」

「いいから早く教えて、なんなの?」

 勇者はしびれを切らせている。

 結構こらえ性がないようだな。


「抜け道は昔水路から水をくみ上げる為に使われていた滑車が通るところです。その滑車につかまれば、あっという間に最上階へ」

「城の一番上にいるってわけね」

「はい。それで、滑車に大きめの桶が入ってまして、1人しか乗れません。ですが俺が勇者様を抱きかかえれば……」

「ちょ、ちょっと待って」

 最後まで説明を聞かず、勇者は話を遮った。


「私一人でいくから……」

「俺でないと動かせません、ちょっとしたコツがいるんですよ」

「他に方法は?」

 俺は、う~んと腕を組んで悩むフリをする。

 この方法が一番手っ取り早いし、俺にとっても一番良い方法だ。


「普通に階段を駆け上がりますか? 見張りもかなりいますし、各部屋にもモンスターは待機していますよ。なんたって魔王の城ですからね」

「そのつもりで来たけど、無駄な戦闘を避ける方法があるなら……」

 勇者は俺を睨みつけて言う。


「へんなことしないでしょうね?」

「変な事とは?」

 勇者は頬を少し赤く染めて反論した。


「へ、変な事って言ったら変な事よ!」

「善処します、それではこちらに」

 善処は、ね。


 今は使われていない古い小部屋へ入り、本来水を入れていた桶を指さした。


「これです。これに乗っていきましょう」

「……思ってたより小さいのね」

「でしょう? だから、俺が勇者様を抱きかかえて乗るんですよ」

 現物を見てもまだ納得していない様子の勇者。

 しかしこれしか方法が無いので、諦めたようだ。


 実は方法は他にもある、が、これが一番勇者と密着出来る最善の方法なんだ。


「それでは失礼して……」

 俺は勇者の腰に左手をまわし、抱きかかえた。

 あぁ、これだよこれ、この感触だ。

 なんて柔らかいんだろう。ずっと忘れていた少女の感触だ。少しでも力を入れてしまうと折ってしまいそうな程、繊細でそれでいて弾力がある。


 俺は感触を楽しみながら桶へ乗り込み、右手で吊るされている紐を操作した。交互に操作する事で桶は上へあがる。

 抱きかかえている手を離せば、勇者は下へ落ちてしまう程、桶は小さい。

 俺は左手を少し動かし、勇者の背中を撫でた。


「ちょ、ちょっと何してるのよ」

「左右のバランスも大事なんですよ。こうやって重心を傾けながらでないと上へ登れないんです」

 そう言い訳をしながら、勇者の背中をまんべんなくさする。

 そのまま手を腰まで戻し、下の方も念入りに手を動かす。


「さ、触らないで!」

「あぁ、暴れないでください、桶ごと落ちますよ? それと声も出さないでください、まわりに響いて気付かれます」

「くぅ……」

 勇者は慌てて自分の手で口元を塞いだ。


 やはり勇者といっても少女、ちょろいな。


 俺は遠慮なく、勇者の尻へ手を伸ばした。

 小ぶりだが形の良い尻だ。

 勇者は黙っているが、手で押さえている口元から吐息は聞こえている。

 必死に声を抑えているようだ。


 構わず、俺は撫で続けた。


「はぁ……ふっ、はぁ……」

 狭い空間に、勇者の吐息と紐が軋む音が響いている。


 そろそろ最上階だ。

 もっと勇者を堪能したいが、続きは魔王を倒した後にしよう。


 噂だが、最近冥界との道が繋がったと聞いた。冥界といえば冥王がいる。魔王よりも強いとか。

 その冥王が人間界へ手を伸ばしたとしたら、勇者は倒しにいくだろう。

 その時俺もついていこうと思う。

 人間として勇者を支援、そしてありとあらゆるイタズラをし、そして真の平和な世界を取り戻すんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ロリコン屍兵とは私のことです。 りーりん @sorairoliriiro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ