第4話 時間は残酷で無慈悲だ。
- 3 -
時間は残酷で無慈悲だ。
本当にそう思う。
純佳に残されていた時間は僅かなものだったんだ。
異変は、酒でも飲もうと姉貴も含めて俺の部屋に戻ってきた直後に起きた。
日付が変わるまであと30分くらいだ。
「あ、あれ?」
「純佳、どうした?」
「わ、私……」
純佳の体が消えていってる!?
「わたし、わたし……思い出した」
「何を!?」
「この世にいれるのは、どちらか1人」
「はぁ!?」
「省吾か、私のどちらかだけなの!」
「ど、どういう意味だ?」
「私は……省吾に成り代わって、省吾の存在を消すために生まれたのよ!」
純佳の言葉を聞いて、俺は……。
「どういう意味よ!?」
姉貴は納得できないと純佳を問い詰める。
待ってくれ。
純佳は悪くない、悪いのは……。
「私は……省吾の分身なの……でも、この世には1人しかいることはできないの……そういう『理(ことわり)』だから……省吾は、もうわかってるはずだよ」
純佳は泣きながら、俺を見る。
俺も泣いていた。
「省吾?」
やっと姉貴は俺を見て、びっくりした顔をしている。
「『消えたい』、『苦しみを代わってもらいたい』って思い続けたから、私が生まれたの……これは、あんたが現実から逃げようとした罪による罰……」
「でも、それなら、なんで、純佳が消えるんだ? 俺が……俺が消えるならわかるのに……」
俺が望んだことなら、俺が消えるはずだろ。
「私は……本当は、あんたを日付が変わるまでに消さなきゃいけなかった……でも、あんたの想いが不十分だったから、記憶をなくしてしまった……」
「俺の想いが……?」
「もう……タイムオーバーなの」
「まだ、時間はあるだろ!」
「嫌よ! 私、あんたを消したくない!」
「でも! それじゃ、お前が消えるだろ!」
「私は元々はいない人だったもの! それに、あんたは今は立ち直ってる!」
「それは……っ!」
「あんたは生きてなきゃダメなの!」
お互いに泣きながら言い合う。
時間は日付が変わろうとしていた。
本当にタイムリミットだ。
「安心してよ、私のことは、なかったことになるから……記憶もなくなるよ」
「なんだよ、それ、安心できるかよ……ばかやろう」
「消えるのは怖いことなんだよ……二度と思っちゃダメだよ」
「善処する」
「約束」
「わかった、約束だ」
「ありがと、じゃあね」
日付が変わった。
姉貴は俺の顔を見て驚いた顔をしている。
「省吾、あんた、何泣いてるのよ?」
「は?」
「『は?』って何よ、あ、ちょっと!?」
俺は、姉貴のノートパソコンを奪い取った。
時計の隠しカメラからSDカードを抜き取る。
「あんた、何を……!?」
「ちょっと黙ってろ!」
「あんた、さっきから変よ!?」
今は姉貴を気遣う余裕がない。
SDカードに入ってる録画ファイルを見る。
終始、俺と姉貴の二人しかいない。
俺が勝手に泣いてるだけだ。
何かを話してたり叫んだりしている様子はない。
不自然に加工されているようだった。
昼の映像も同じ感じで、俺が鏡で身だしなみを確認しているところに姉貴が乗り込んできて、SDカードを二人で見ている映像はあるが、終始二人だけで、鏡の破片の件はカットされてしまっている。
「そうだ!」
鏡こそ、動かぬ証拠だろ!
鏡を見た俺は……。
「俺は……悪い夢を見ているのか?」
鏡は、割れていなかった。
純佳に会う前の状態のままだ。
試しに覗き込んでみるが、そこに映っているのは泣いている俺の姿だった。
忘れてるんじゃなかったのかよ。
なんで、俺は、純佳のことを忘れていないんだ?
この呪いは、俺が望んじゃいけないことを望んだ罪に対する罰なのか?
そうだ、これは呪いだ。
純佳が、俺に忘れてほしくなくて、同じ過ちを繰り返させたくなくて、俺に呪いをかけたんだ。
勝手に消えやがって。
俺の中に住み着いてきやがって。
やっと現実も悪くねぇなって思ったばかりだというのに。
この呪いを受け入れろってふざけんなよ。
純佳と約束したからな。
今だけじゃない、これからも『消えたい』って思えなくなってしまった。
純佳のばかやろう。
あと、最低でも30年位はそっちにいけないだろ。
姉貴が心配そうに俺を見る中、俺はずっと泣いていた。
- 終わり -
もう一人のあいつは呪い? 弓月キリ @yudukikiri
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