傘
甲乙 丙
◆
雨が降っている。
すこし気取った感じのする、読み方の難しい店の軒先でワタシは雨宿りをしている。なぜaやuやeの上に記号を付けるのかな。もしかして英語じゃないのかな。ワタシにはわからない。
雨の所為か、涙の所為か。化粧が流れ落ちて、ワタシは一気に老けてしまった。十万歳くらい。フハハハ、お前を蝋人形にしてやろうか。そんな強がり、彼の前で言えたら良かったのに。
カランカランと店の中から男の人が出て来る。奥からは「メニュー書き換えて!」と叫ぶ声がした。ランチからディナーへと変わる為に、イーゼルに載った黒板の文字を書き換えるのだろう。
出てきた男の人は、「わかりにくいメニュー名書いたって誰も読まねえだろうがよ」と一人で悪態をつき、黒板にテルテル坊主とカエルの絵と吹き出しマークを描き、「アラヤダ、ヌレチャウ。ワタシ、カエル」とセリフを入れた。フフッ。ワタシは笑ってしまった。
「あ、傘貸しましょうか?」ついでといった具合に、振り向きざまで男の人はワタシに言った。
「いえ、もう大丈夫です」ワタシはそう言って雨の中飛び出した。
心に傘を差して――。
傘 甲乙 丙 @kouotuhei
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます