エピローグ


■ エピローグ



 一年に一度、伝説上の男女が逢瀬を許される日。

 人々は天に願いを捧げる。自分のために。あるいは誰かのために。


 ある一人の少女が、歌いながら、ピンク色の紙を笹に飾りつけている。

「さーさーのーはーさーらさらー

 おーちーばーにーゆーれーるー」

「だから、そこは『落ち葉』じゃなくて『軒端』。落ち葉だと、秋の歌になっちゃうでしょ」

「なんだっていいよー」

 そばにいた女性の苦笑いに、少女は口を尖らせる。

 女性は空を見上げた。今宵の星空は、人々の願いで輝いているように思えた。

「それでさ、今年は何をお願いしたの?」

「ないしょ」

「いいじゃない、教えてくれたって」

「じゃあ、ヒント。私のお願いは、一つだけだよ」

「それじゃヒントになってないよ」

「じゃあ、もう一つ」

「何?」


 誰かの願いは別の誰かの願いを生み、やがて出会いが生まれ、物語が生まれ、命が生まれる。

 夜空に流れる乳白色の星の光を浴びながら、少女は少し恥ずかしそうに、けれど満天の喜びを煌めかせて言った。


「おかあさん、産んでくれて、ありがとね」


  *


 夏の夜の風が、笹の葉を揺らす。

 星明かりに照らされたピンク色の短冊には、少女の字でこう書かれていた。



  いつまでも、おかあさんのこどもでいられますように。 せいら


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Milky Way 脳内航海士 @ju1y_white

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ