おかえり

@niceboat

第1話

溶けるようなアスファルトの温度を足から感じとるこの季節。毎日同じ車両の同じ位置。知った顔ももう何年見続けているだろうか。


毎日毎日。


変わらない毎日の中に幸せがある

「アホか」

電車のなかで小声でそう呟いてしまった。


アパートから徒歩と電車で小一時間程のところにある何処にでもある小さな商社に俺の机がある。

昭和中期に立ったであろうこのビルは鉄筋コンクリートで各所にひび割れや染み、独特の臭いが染み付いている。耐震強度の事はよくわからないがおそらく大きな地震があれば人生が終わるだろう。

木製のドアにつく少し引っ掛かりがあるノブを回すと20卓ほどの机が並べられ奥には灰色の書棚、立ち入りを遮るように置かれた長机。その上に置かれたひまわりや紫陽花が季節を感じさせる。

真ん中辺りの席につきpcの電源を入れる。昨今の情報漏洩対策として電源は毎日落とす方針だ。こんな顧客情報誰も必要としないだろう。

立ち上がるまでの間、タバコを吸いにいく。これも10年以上続いた習慣だ。

始業時間に近づき席に戻ろうとすると

「おはよう田村。」

彼は同僚の鈴木 淳一。年は2つ下で業績も同じくらいの同じようなスペックの人間

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