七夕にかける願い

蒔田舞莉

七夕にかける願い

おーほしさーまきぃらきら。

調子の外れた歌が、彼女の口から流れる。

空には歌の通り、星がキラキラと瞬いていた。


「ご機嫌だな」

「うっふふー。だってはーくんと一緒に帰れるの久々だもん」


握った手に、ぐっと力がこもる。

漫画ならにこにこというオノマトペが入りそうな笑顔を浮かべる彼女、織花は本当に可愛い。美人は三日で飽きる、なんて嘘だ。もちろん性格の良さが滲み出ているというのもあるのだが。

たまたま今日、顧問が用事があるとのことで部活が休みになったから、一緒に帰れることになったのだ。

顧問の用事は恋人とデートに行くことだとか部員は囁いていたがなんにせよありがたいことだ。素直に感謝しておく。


「でも晴れてよかったねー。昼間は雨降ってたからどうなるかと思ってたけど。

織姫さんと彦星さん、一年に一回だけなのに会えないと悲しいもんね」

「人間に換算したら三秒に一回会ってるって話だが」

「もー、ロマンがないな。いいじゃない、素直に受け取れば」


少々意地悪を言ってみると、むっと膨れっ面になる織花。

彼女は少々ロマンチストなのだ。

と、すぐに表情が変わる。思い出した、という風情だ。


「あ、そうだ。そんなこと言うくらいだし、はーくん短冊買ってないでしょ」

「まあもう高校生だし」

「いいじゃんいいじゃん。頼れるものにはなんでも頼れば。はい、これあげる。

私はもう書いたから」


手渡されたのはマジックペンと分厚目の長方形の色紙。色紙は水色だった。織花のは多方ピンクだろう。

そもそも七夕の願いって誰が叶えてくれるんだよ、なんていったらまたむくれられそうだから飲み込む。

しかし願い事、ねえ。

小学校の時以来だから何を書こうか困る。昔書いてたのは確かゲーム機やらソフトやらが欲しい、だった。


「……織花はなんて書いたんだよ」

「んえ、私?私はねー、なんだと思う?」


わからないから聴いてるんだが。

織花は悪戯っ子のような笑いを浮かべつつ自分のものであろう短冊を鞄から取り出した。

予想通りピンクだ。


「答えはねー」


それを聞いた俺は頭を抱えた。

なんで俺の彼女、こんなに可愛いんだろう。

抱きしめると、まるで世界一の幸福を手にしたかのような声でふにゃふにゃと笑った。

俺も、同じだ。

とんでもなくベタだし恥ずかしい願いだけど、これ以上ない願いだ。

二つ同じ願いを書こう。どちらかくらい、織姫と彦星の目に留まるだろう。

留まらなくても、織花の願いは俺が絶対叶えてやるのだが。


マジックのキャップを外して、書く。

願いは。


『ずっと二人でいられますように』


織花の家の笹にぶら下げられたその二つの短冊は、仲良く寄り添っていた。

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七夕にかける願い 蒔田舞莉 @mairi03

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