地下遺跡とファアリーと炎の精霊編
第29話地下遺跡とファアリーと炎の精霊1
地下遺跡とフェアリーと炎の精霊1
「単刀直入に言うと強い仲間が欲しいねん」
クリシャは自称探求者らしい。広大に広がる世界の色んな謎を解き明かし、自分の成長と知識という武器を得たいそうだ。そうするには力がある仲間が必要になる。
「武器?どういう事だ?」
「売れるという点では武器と同じ…やろ?とにかく知識イコール金や。もしも、誰も行ったことがない場所に魔法の理が記された本があるんやとするならどうや?アホらしい程高そうやろ?それにウチの可愛さと未知の知識が合わされば、最強じゃね?」
(もうちょっと頷けそうな理由はなかったのかよ…それっぽく言ってるけど要は金が欲しいということだな…)
ナルシズムが尋常じゃない気もするが確かに、今までルシウスになかった発想にも思える。情報屋もそうだが、この世界では有用な知識は金になる。今のように緊急に金が必要な時は役に立ちそうだが、どの知識が売れるもので、どの知識が売れないものかはルシウスにはわからない。何よりこういうキャラは裏切る可能性が濃厚だ。
「信用は出来ないが…まぁ、ノエルも女友達がいた方がいいだろ。ただし、我々に危害を加えるような真似をした場合は、お前にその代償を支払ってもらう」
「そんなことせへんって。ルーシも怖い雰囲気はもう仕舞いなさいな」
言動が軽く、ふざけた態度に信用は出来る気がしない。ただ、彼女自身のノリがこんな感じなだけという可能性もある。ノエルのため、せめて悪いやつではないことを祈って置く。
気を取り直し、クリシャは指輪の説明と使い方を教える。初めて魔導アイテムを使うことに梃子摺ってしまったが、何とかコツを掴めることが出来た。
「ほう…人間にしか見えないな。どんな原理なんだ?」
「でも触られると直ぐにバレるで。これは変身魔法やのうて、偽装魔法の一種やからな」
指輪はイメージを直接インプットするか、インプットされてある姿にしか変えられないが、今は街に入れる姿になれるだけで充分だ。
ベルゴも指輪を渡されると直ぐに使いこなし、ルシウスとは別の姿となる。
「そういえばルシウス様。メレンシアさんがこれを渡して欲しいと…」
ノエルから巻物を受け取り広げてみると、奇妙で中身がスカスカな魔法陣の中心部に拇印が押されてあった。クリシャの話ではその巻物を破れば遠くにいる相手と会話ができるらしい。
(電話というより通信みたいな感じか?しかし、それをくれた相手があのやべー感じの女か…)
気楽に連絡出来そうな相手とは思えないが、いざという時には使ってみることにして巻物を倉庫に入れる。
取り出して置いた物も再び中に戻そうと剣を掴むと「能力:装備効果確認」を習得すると同時に、「装備効果:スケレトン強化」「装備効果:スキル威力増幅」「…………」などが確認出来た。
他の効果は発動されていないのか、靄で隠れて確認出来なかった。思ってもいなかった拾い物は嬉しいが、剣を差しておく鎧なき今、ずっと手に持っている訳にはいかないためしまって置くことにする。
数日間体に異常がないことを確認した後人間の姿で、長い間世話になったビーフから食料を少し分けてもらい、別れを告げる。
「長いようで短い同居生活だったが楽しかったぜ ブヒッ」
「お前には本当に世話になった。この恩はいずれ何倍にして返す」
骨型馬を人数分の四体創造する。まずは、武具の品揃えが豊富と言われる帝国に向かいながら道中、金になるモンスターを倒し魔導石や素材を集める事にする。
「この馬すごいな!生まれてこんなにアンデットを見たのは初めてや!」
「アンデットはそんなに数が少ないのか?」
「記憶を失っているからしゃーないとしても、アンデットがアンデットのことを知らんちゅうのはなんだか可笑しな話やな」
今までの旅を振り返ってみるとモンスターは結構頻繁に遭遇するが、アンデットに遭遇したことが一度もない。一番アンデットがいそうだった薄気味悪い沼地帯でも、アンデットを見かけることは出来なかった。そもそもアンデットに仲間意識はあるのだろうか?
「せやなー、アンデット自体滅多に見かけることが出来るもんやないな。勇者物語や童話によく出るのはスケレトンかグールくらいやしな」
「うむ…なら、大きな枠から見たらアンデットはその二種しかいないのか?」
「どうやろな、アンデットの情報は少なすぎる。この馬だってどう見ても魔導石なんか見当たらんけど、普通の人はアンデットとわからんのとちゃうか?」
想像以上にアンデットの情報が少な過ぎることにルシウスは驚いたが、アンデットの見分け方もわからず、見分ける方法が魔導石の有無だけなら逆に好都合でもある。休息が必要な肉体を持つ者なら、移動手段があるかないかで天と地程の差を感じるだろう。その有り難い骨型馬をモンスターと勘違いしてくれるのなら助かるという訳だ。
(念には念を入れて、適当に犬っころの魔導石でも馬の骨の隙間に挟んで置こうかな)
「ところで、サキュバスは翼が一つしかないんですか?」
「これか?サキュバスの力が目覚める前の子供のサキュバスの翼は、恋の妙薬として価値が高いからな。親にもぎ取られたんや」
クリシャはその後家を出て、十三年間たまたま縁が出来た色んな者達と旅をしていたそうだ。ノエルはクリシャの傷口を抉った気がして丁重に謝る。
「昔のことやし、謝らんでええよ。それよりもうすぐや」
今向かっている先は、アイアンベアーという鋼の剛毛に覆われたモンスターが出没するところだ。魔導石だけではなく、重くて頑丈な毛皮は防具の素材としていい値がつくということで、クリシャの案内に従い付いていく。
「あれか?」
「ウチではあの数はちょっと厳しいわ…メレンシアを倒したくらいやし問題ないやろ?」
目の前には何かの死体で争う三体のアイアンベアーがいた。それに何だか試されているようで釈然としないが、今は受けて立つことにする。
「私が支援します!」
ノエルが「ウィンド・カット」をアイアンベアーに向け放つが、鉄にぶつかる音だけでダメージは無さそうだった。三体のアイアンベアーが死体より新鮮な餌であるノエルを追いかけ始める。
「速いな…」
「あいつ結構硬いで」
「ちょっと!見てないで助けてくださいよ!」
「ベルゴ」
「畏まりました!」
ルシウスの新たな能力で強化されたベルゴが、ノエルを捕まえる寸前のアイアンベアーを蹴飛ばす。鋼の剛毛で相当重い筈なのに軽く飛ばされ、数十メートル先の岩に激突する。
「死ぬかと思いましたよ…」
ノエルから標的を変えた二体がベルゴを襲うが、ツヴァイハンダーを振り被って薙ぎ払う強烈な一撃に呆気なく両断される。ベルゴは自分の手を見つめながら、明らかに比べ物にならない程進化した強さを噛みしめる。
残りの一体はルシウスが倒すことにして、異空間から漆黒の剣を取り出す。太陽の光を反射し刀身が光を放つかのようなその剣を、蹴飛ばされ怒りマックスのアイアンベアーに向け新スキルを披露する。
「断空爆斬」
体が勝手にクマに向け高速の前進三段斬りを行い、クマに斬れ味抜群の剣を突き刺すと、特撮の怪獣が倒れる時の如く大きな爆発を起こしクマが爆散する。
爆発による爆風がノエルとクリシャをゼットコースターに乗った後のような髪型にした後、轟音の余韻だけがその場に残っていた。ルシウスは、威力はともかく新しいスキルはなんだかしっくり来ないのを感じる。
(派手なのはいいことだけど、微妙なスキルだな。「真空斬」の方が良さげな気がする)
ゲームでも習得した全てのスキルが良さげな訳ではない。微妙なのもあれば、糞なのもある。スキルは数自体少ないというか二つしか習得していないため、一対一の場面では使えるかもと一応心のクイックスロットに登録して置く。
「まぁ…合格点というところやな」
上からの物言いが腹がたつが、モンスターの情報を提供したことで今回は水に流すことにする。
一匹を無駄にしてしまったが、残っているアイアンベアーの心臓辺りを剣で抉り魔導石を取り出していると、如何にも悪人ヅラをした連中が現れ言いがかりをつけて来た。
「なぁ兄ちゃんさ…それは俺らが半殺しにして追い込んでいたモンスターだぜ?」
「それを横取りするとは、卑怯な奴らだぜ全くよ!」
「代わりにそこの女達を渡せば許してやってもいいんだぜ?」
「ついでに変な馬やその剣もな」
小型爆弾で剛毛を吹き飛ばし、剛毛に比べ柔らかい皮を攻めるのがアイアンベアー退治の基本だ。ルシウスが放ったスキルの爆音を聞き嗅ぎつけた八人は、面に見合う悪人らしい要求をして来た。
「何だあいつらは?冒険者が横取りもするのか?」
「ちゃうちゃう。どこかの盗賊ギルドの連中なんやろ」
金になるモンスターがいるところには、スタンバってから戦闘で消耗した相手を数で脅し、略奪する盗賊ギルドのメンバーと遭遇する可能性もあるそうだ。
「一度は許すから消えろ。私は今、自分が試されたことで機嫌が悪い」
ドキッとするクリシャに、実力もわからないことだし今回だけは黙ってやるつもりだったが、元の世界で見たアニメを思い出す。アニメでも主人公に上から目線で自分勝手に試したり、主人公を含め仲間を危険な目に合わせるキャラは必ずと言っていい程よく出てくる。
そんな理不尽な状況になぜか寛大過ぎる主人公達は、事が終わった後その事にガチで怒ったり強気に出ないことが、個人的に見ているといつもイライラを誘発していたのだ。そういうキャラが嫌いなルシウスは、余裕な相手だったにも関わらず、せこいようだがある目的も兼ねて敢えて口に出すことにする。
「あん?!この人数が目に入らんのか?」
「女の前だからってカッコつけてると痛い目にあうぜ?」
「やれやれ、お前らでは私の相手にならない」
完全に舐めているようなルシウスの言い草に、頭に来た輩はそれぞれ獲物を取り出し、危害を加える気満々のように見えた。敵対する者に手加減してやるつもりはない。手加減して仲間の安全を脅かしかねない
「カハっ」
ルシウスに全力の「王の威圧」を向けられた輩は一瞬で押し寄せる死を迎える痛みに、漏れ出る苦痛の一言だけを残し、身体中の骨が折れまくる嫌な音と共に、何重にも捻られ皮が収縮性を超えたことで引き裂かれ始める。
そして、捻られた圧により全身から血が絞り出された状態で絶命した。それを横で見ていたクリシャは、メレンシアよりタチが悪そうなその力に顔が青ざめる。ノエルにも人間のあのような姿は残酷過ぎたのか、目を逸らしている。
(西洋ホラ映画の猟奇的殺人現場のようだな…)
自分でやったことではあるが、他人に恐怖を与え余りある程のインパクトを感じる。それに。良くない考えだが別の用途でも使えそうな気がするが、それは今度の機会にすることにしてクリシャの方に視線を向ける。
「へへ…あれは軽い冗談やって!まさか、ウチに使ったりせへんよね?」
「我々に危害を加えなければな。した場合は…わかるよな?」
「しないしない!言った通りウチは仲間が欲しいだけや」
「王の威圧」に青ざめたことで力はルシウスの方が上だと確認出来た。もしもの場合にも対処可能と判断出来たし、このグループのリーダーは誰なのか示す事も出来た。ルシウスは最初とは違いクリシャを除いた仲間に対してはそこまで偉く見せるつもりはもうない。
しかし、見ず知らずの新しい者が加わった事で曖昧な感じでいると、先の試されたことよりも図に乗って振り回そうとする可能性もあるのだ。仲間の受け入れ方は知らないが、シンプルに制御する方法はやはり力に限ることに改めて思ったルシウスだったが、運がいいのか悪いのか輩はその道具にされてしまった。役に立ってくれた礼として一瞬だけ心の中で手を合わせた後、倉庫を開けクマの死体を入れてみることにする。
(休載) 休載 @JUN90122
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