ゆうき 卅と一夜の短篇15回
白川津 中々
第1話
七月七日。七夕。
その日は四時間目にクラス全員で短冊を書いて笹に吊るそうという話になった。本来ならば国語の授業が入っていて楽しみにしていたのだが、担任が変更すると言ったのだから仕方ない。僕は叶うわけもない願望を綴り、それを、どこからか仕入れてきた、青々とした葉が茂る笹に飾り付けたのだが、これが事の発端であった。
「ゆうき君! どうしてこんな事書いたの!?」
ヒステリックな担任の声が響く。「どうして」と言われても、素直に願望を書いただけで、殊更問題はないように思えた。故に、僕は担任の質問に対して適切な言葉を繕うことができず、ひたすらに項垂れてうーうーと唸ることしかできなかったのであるが、担任は大いに慌てふためき、一通り暴れた後になぜだか僕は別室へと移せられ、親を呼ばれて「誰にいじめられたの!? 命を粗末にしちゃいけないよ!」と、いまひとつ要領を得ない励ましを頂き、急に帰宅させられそのまま数日の休暇をとらせられたのだった。
そうしてよく分からない連休が明けて久しぶりに学校に出てくると、友人であるしげはる君が、僕を虐めた事の責を負い転校したとの話を聞いた。確かにふざけて殴打された事は度々あったのだが、お互いがじゃれ合いという相互理解の元に成り立っていたお遊びである。それがどうして加虐、被虐の関係となったのか見当がつかなかった。しかし、あのうるさい担任が教室にはいってくるなり僕を捕まえて放った言葉により、ようやく何が起こったのかを理解したのであった。
「おはようゆうき君。貴方をいじめていたしげはる君はもういないから、二度と死にたいなんて思っちゃ駄目だよ」
違うんだ先生。僕はあの短冊に、確かにし人になりたいと記したのだが、それは、死人になりたいと書いたんじゃない。詩人になりたいと書いたのだ。
詩という漢字を失念してしまっただけで、まさかこうまで大事になるとは……なんという悲劇であろうか。担任の、仕事をした。と言わんばかりの笑顔がやるせなさを感じさせる。僕は二度とこのような事が起きぬよう、しっかりと勉学に励もうと天に誓った。
ゆうき 卅と一夜の短篇15回 白川津 中々 @taka1212384
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