僕のかぐや姫は男の子
ユキ マツ コトブキ
序章 出会い
「これも全部忘れてしまうのに。─楽しいね。」
これは、帰っていってしまったアイツを思い出すと決まって浮かぶ、あの夜の台詞。
ごく普通の男子高校生である自分に突如舞い降りたファンタジーでハーレムな毎日は、期日通りに終わりを告げ、日常はまたなんとなく過ぎるだけのものに戻った。
始まりは、三年前の夏。
もし、今後東京などに出て暮らすようなことがあれば、出身地を言うのが恥ずかしいくらいの田舎の町に、
手入れされているのか、されていないのか分からない竹やぶが、立ち漕ぎの自転車の脇を駆け抜けていく。
「ーあっちぃ」
馨は、立ち漕ぎを後悔した。金曜であるが今日は終業式。いくら早く帰って遊びに出たいとは言え、真上から見下ろしてくる太陽は、自転車を急がせるのには少々無理があった。馨は、自分のみじかい影を少し睨むと、また自転車を漕ぎ出した。
家は、一軒家。馨が暮らす地区にはマンションなどない。隣の家まで、田んぼを一つ挟む。炎天下の下、タオルを頭に巻いて、その上から麦わら帽を被り、田んぼに出ている隣家の爺さんに、笑顔で会釈をして、自転車を停めた。
古い家であるため、門がある。その前に、女性がぼんやり立っている。中を伺うようで、特に用事があるわけでもなさそうである。
「なにか、ご用ですか」
通学カバンを自転車のカゴから引っ張り出しながら、「
ー綺麗な、
歳は馨よりも少し上だと思えるが、二十歳にはなっていなさそうである。おしゃれに疎い馨でも、この髪型をショートボブと言うことくらいは知っている。馨と殆ど変わらない高さにあるアーモンドのような眼と、その飾りになっている長い睫毛が、瞬いた。
馨が少し警戒しているのは、女が、真っ白な布を、歴史の教科書の挿絵の、古代のギリシャかローマ人みたいに身体に巻き付けていたからである。
「どうか、したんですか?」
睫毛が、また瞬いた。
「何か、困ったことでも?」
「名前は?」
女が、やっと答えた。
「なまえ、名前は、
三年後の、八月の満月まで、馨は紗耶と共に過ごす。それは馨の人生の中で、何にも代えがたい、最も美しい時だった。
僕のかぐや姫は男の子 ユキ マツ コトブキ @seira519
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