終奏
第25話 桃花色の終楽章(ももはないろのフィナーレ) -家族と絆-
一瞬ののち、レイア達は魔女の城に戻っていた。
「無事に戻って来れたようじゃな」
絵のある部屋で待ち構えていた魔女ブランシェが、安堵の笑顔を見せた。
レイア達の目の前のキャンバスからは、あの夜の景色を描いた絵が綺麗に消え去っていた。あるのはただ真っ白な、何も描かれていないキャンバスだけだった。
*
「ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした」
「……ごめんなさい」
父クラングと息子のリートが、絵の中に囚われていた住人全員とレイア達に対して頭を床につけんばかりの謝罪をしていた。
「まぁ、こうして無事に元の世界に戻って来れたんだから、俺は別に気にしてないぜ」
「うむ、不思議な体験だった」
完全に外部から巻き込まれる形になった
「起きてみたら五十年も経ってたってのは、ビックリだったがな」
「えっ、どういうこと?!」
ノエルが驚いて二人を振り返る。
「うむ、ワシがこの絵を預かったのは五十と数年前。こやつらはそれより前にこの絵に吸い込まれたようじゃからの。話を聞いて調べてみたが、確かにその頃行方不明になった者達がおったわ。」
「てことは、リートやクラングも五十年前の人なのか……」
ノエルの言葉に、レイアは不思議な感覚に包まれた。
ほんの
だが、全員無事で帰って来れたことに違いはない。絵の呪いは解け、もう誰かが吸い込まれる心配も無くなったのだ。
*
「そういえば」
魔女ブランシェがレイアに話しかけた。
「お主、クラング達と一緒にダークエルフの村に行ってみるか? お主の出生について、何かわかるやもしれぬぞ」
「私の出生……」
思ってもみなかった魔女の言葉に、レイアは戸惑った。
自分の両親は、記憶も無いほど小さな頃に盗賊に殺害されたということしかわかっていない。
西大陸にはダークエルフが多く住んでいる村はなく、クラング達は東大陸のダークエルフ村の出身だと言っていた。そこに行けば、もしかしたら自分の親戚や
だがレイアは首を横に振った。隣のカノアや、ノエル、カッツェ、ヴァイスを眺める。
そうだ、いずれ他のダークエルフの仲間達にも会ってみたいとは思うが、今はまだいい。なぜなら――
「……この者達が、今のお主の家族なのじゃな」
魔女ブランシェが、レイアの気持ちを代弁してくれた。
その言葉に、レイアは無言で、だが力強く頷いた。
「ニャ、なんの話してるのニャ?」
耳の良いカノアがぴくりと反応して振り返った。
「……なんでもない」
少し気恥ずかしくなって、レイアはカノアの橙色の耳と耳の間を優しく撫でた。
この仲間とともにいたい、そこに理由なんていらない。
レイアは自分の中に芽生えたいくつもの色彩に満ちた感情を噛みしめ、そう思った。
今のレイアを柔らかに縛る「掟」。
それは「絆」という確かな糸で、レイアと仲間達をしっかりと繋ぎ止めてくれているのだった。
― 第二部「色紡ぐ音」(完) ―
===========================
あとがき:
第三部「色紡ぐ音」をお読みくださり、ありがとうございました!m(_ _)m
これにて、現在書き終えている三部作は終了となります。
本当は、カノアを主人公として「時間」を旅する第四部や、カッツェとノエルを再び主人公に据えた第五部を描きたいという構想はあるのですが、いかんせん構想だけで実現の目途は立っておりません……。いつかまた、気力があれば続きを書いてみたいと思います!
このお話を楽しいと思っていただけて、もしご興味があれば、公開中の他の作品も読んでみてもらえたら嬉しいです(n*´ω`*n)
そして評価や感想、厳しいご意見などなど、いつでもお待ちしておりますっ(^-^)/
ここまで応援してくださった皆さま、本当にありがとうございました!!
■第一部「はじまりの詩」(五人が出会うまでの物語)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054883240772
■第二部「魔王の手紙」(魔女の城に着くまでの物語)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054883374391
■設定集・人物紹介
https://kakuyomu.jp/works/1177354054883365550
■短編集・ちょっと不思議なファンタジー
色紡ぐ音/とある少年魔導師の異世界冒険譚Ⅲ 邑弥 澪 @purelucifer2016
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます