第8話 不届きプリーストの依頼
「あーーー!!出たなアクア様の名を騙る不届き者!私が説教をします!!」
「え!?不届き者!?」
「ちょ、待て待て待て!!いきなり突っかかるんじゃない!」
入り口から大声で入ってきたアクアに、ウチのアクシズ教徒は怒り心頭で絡もうとしていた。
その上、二人にスキルを教えようとしていたエイザが椅子を転げ落ちた。
こいつは何やってんだ!!
こないだ説教すると言って怒っていたが、幾ら何でも突っかかり過ぎである。
俺はイヴを止めて、リースにエイザの介抱をするよう頼み、俺はアクアと話す。
「アクアさん…だった?昨日はありがとございます。お陰でクエスト達成出来ました…」
「あ、あぁ!そんな大丈夫よ!それより…」
「よし、お礼は言いましたね!さぁ、説教です!!アクア様の名を騙る不届きプリースト!!いいですか我等が御神体アクア様はそれはそれは清き女神様で水という生物全てに欠かせない物質を司る最高神で教義も昨今働き詰めで休みすら取れず人生の選択を出来ない人々の悩みや考えを一新し全てを癒す全人類の女神様でうんたらかんたら……」
「やめんかややこしい!!」
俺はイヴの頭を叩き、説教を止める。
アクアは、いつの間にかその場に正座して悲しそうに……。
ではなく、何だかだらしなく笑っていた。
「何で笑ってるんですかぁぁぁ!!」
「わあぁぁぁ!ご、ごめんなさい!だって何だか嬉しくて!貴方アクシズ教徒よね?ありがとう!」
「何がありがとうですか不届きプリースト!実はドMプリーストでしたか!」
「や、やめて!ウチのパーティーにドMクルセイダーっていう称号を持つ子がいるの!それを奪わないであげて!」
「うるさいですよ不届Mプリースト!!」
「つながっちゃった!?」
二人の喧嘩に、頭を抱えていると騒ぎを聞いた周りの冒険者達がこちらを一瞥した。
だが。
「何かと思ったらアクアさんか。またなんかやったのか?」
「いや、周りにいるのはあいつらじゃないぞ?新入りかな」
「いきなりアクアさんに絡まれるなんて、災難なパーティーだなぁ」
……アクアさんは、このギルドでどういう評価なんだ…。
そんな声など聞こえないであろう二人。
イヴはすっかり我を忘れてアクアに説教をしているが。
アクアはそれを時折、ニヘラと笑みを浮かべながら正座で聞いていた。
なんなんだこの状況。
「というか!アクアさんは何か俺らに用があって来たんじゃないんですか!?」
「あ!そうよ!貴方達に用があって来たの!私の可愛い信者の説教を聞いてる場合じゃなかった!」
「誰が貴方の信者ですか!!」
「あぁ、イヴちゃん落ち着いて…あぁ、フードを噛まないでぇ!」
イヴがリースに文字通り噛みついてる隙に、俺はアクアに事情を聞くことにする。
「しばらくかかりそうかい?」
と、アクアの登場ですっかり埋もれてしまったエイザが後ろから話しかけて来た。
「あぁ、エイザさん!すまん、ちょっとかかりそうだ…」
「だっはっは、まるで嵐の様に俺の用を吹っ飛ばしていったなぁ」
エイザは楽しそうに笑っているが、何処と無く虚ろな目をしているような…。
な、なんかすんません…。
「ま、それなら終わったら呼んでくれ。それじゃあ俺は…」
そう言うと、エイザはくるりと後ろを向き、隣の机を指差す。
「俺、あそこで商売してっからよ!今回アクセルに来たのは、こうして初心者冒険者に売るためだしな。ここは、随分持ってるんだろう?」
「いや、そうなのか?少なくとも俺らはスキル商人から商品買うようなお金はないぞ」
「なんでも大物のモンスターを最近ここで狩られてて、その賞金でアクセルの冒険者は潤ってるって話があるらしい」
そうなのか…。最近来たばかりで、全然知らなかった。
エイザは一つ隣の机で、集まった冒険者にスキルを売り始めるのだった。
「で、一体何の用なんですか?」
アクアの話を聞くべく、改めて机についた俺たち。
アクアは何だか機嫌良さそうに、答えた。
「私と一緒にクエストを受けてくれない?」
「クエストを?」
「えぇ!」
あれだけ盛大に入って来た割には普通な提案に、俺は拍子抜けした。
何だ。クエストを受けるくらいなら全然…。
「お断りです」
「えぇ!?」
「ちょ!?」
了承しようと返事しようとしたところで、イヴの無慈悲な返事が刺さった。
「何勝手に決めてんだ!受けます受けます!」
「ダメです。このパーティーのリーダーの私が決断しました」
「誰がリーダーだ誰が!」
「だって考えてください!説教されてニコニコ笑うような人ですよ!?絶対厄介なクエストを受けさせられるに決まってます!」
「いやまぁ、そこは確かに奇怪だけど…」
「ち、違うのよ!?私にとってあれは説教っていうか褒め言葉みたいな…」
「やっぱり不届Mプリーストじゃないですか!」
「だからそれはやめたげて!ウチのクルセイダーの立場が!!」
ダメだ埒が開かん…。
「……その口振りだと、アクアさんは何処かのパーティーに所属してるよね…?その人達は?」
不毛なやり取りが続く中、リースがそれに割って入って聞いた。
そういえば昨日も、ヒキニートのパーティーに入ってる、みたいな事を言っていた気がするな。ヒキニートなんて、何だか親近感湧きそうなパーティーだと思っていた。
またイヴに説教を喰らってニコニコしていたアクアは、何だかバツが悪そうな顔で、
「あ、あー。実は私だけで行くことになってて…」
と呟いた。
「「「……なんで?」」」
至極真っ当な疑問。
アクアはそれに汗だくになりながら、わたわたしていた。
何があったんだろうか…。
「アクアさんの自業自得だからですよ」
後ろから声をかけられ、振り返るといつもいる受付嬢さんが呆れた顔で立っていた。
「こないだ、アクアさんのパーティーにクエストを頼んだのですが…」
「あ、あー!!ちょっとー!」
「どうやらアクアさんが、大規模な魔法で近くのモンスターの巣を刺激してしまいまして…それで大量のモンスターが湧き出てしまいまして…」
「………………」
何だか不穏な話の流れに二人がアクアに疑いの視線を向けていた。
「な、何よー!しょうがないでしょ!私の魔法はそれだけすごいんだから!」
「た、確かにすごいけど悪い方向にしか向かってない…」
「モンスターの巣って見つけようとしなきゃ見つからないと思うんですが…。あれですか?山を覆い尽くす位の魔法でも打ったんですか?」
「う、いや、違うんだけども…」
アクアが取り繕えば取り繕うほど、リースとイヴのアクアを見る目が、冷めて行く訳だが。
俺は。
「しかし、それでもパーティーで行かないのはおかしくないか?確かにアクアさんの失敗ではあるが…」
そう。パーティーメンバーの失敗はパーティーで拭うモノだ。
失敗と成功を共に重ね、信頼を高め、強くなっていくものだ。
そう言うと、アクアは。
「!?そ、そうよね!そうよ!パーティーメンバーの失敗はみんなで尻拭いするものよね!?全くあのヒキニートったらパーティーのパの字も分かってないわ!」
と、大急ぎで乗ってきた。
「でもね!こ、今回は私に非があるのは分かってるわ!だから一人でなんとかしたかったんだけど、私プリーストじゃない!?攻撃魔法ほとんど持ってないから、恥を承知で頼みたいの!お願い、私の贖いに手を貸し…」
「実は、この話もう少し詳しい話があるんです」
物凄い勢いでいい感じな話に収束させようとしていたアクアを遮り、受付嬢さんが割り込んできた。
「詳しい話?それってどういう…ひっ!」
リースが受付嬢さんの方を向いて、小さく悲鳴を上げた。
受付嬢さんは、後ろにゴゴゴゴという効果音が見えるような、黒い笑顔で佇んでいた。
「うぇ…?」
素っ頓狂な声を上げるアクアを尻目に、受付嬢さんはアクアパーティーの失敗談を語り出した。
「今回のクエストは、ブルータルアリゲーターに汚染された湖の浄化を頼んだんです。以前、別の湖で同じ様なクエストをアクアさん達パーティーはこなしてまして。大丈夫だろうとクエストを受けていただきました。
以前は、アークプリーストであるアクアさんをモンスター捕獲用の檻に入れて、湖に放置することで安全に浄化を行うという作戦を取ってました」
「あ、安全…?」
「今回も同じ手で湖の浄化を図ったのですが、アクアさんはこの方法にトラウマを持っていて、早く終わらせたい一心でとても大きな魔法を放ったそうです。
勿論、湖は浄化されました。しかし、湖の近くにあったモンスターの巣に魔法の余波が当たり、刺激されたモンスターが出てきたんです…。
退治しきれないと撤退したんですが、そこでアクアさんが真っ先に逃げた時に、リーダーの方から奪ってお金にしようと企んでた『大事な品』を落として来たらしく、リーダーの方が怒って一人で解決して探してこいと…」
「………………」
「待ってぇぇぇ!お願いだから待ってぇぇぇ!!」
三人で席を立ち、その場を去ろうとした俺たちにアクアが縋り付いてきた。
いや、これは自業自得だわ。
「なんですかダメプリースト。私達これからエイザさんにスキルを教えてもらうんです」
「……パラライズがあった。それ教えてもらおう」
「そうだな。俺も他のも教えてもらおう」
「待ってよぉぉぉぉ!!手伝ってよ!あんなワニの大群私一人じゃ無理だわ!なのにカズマったら怒って一人で行ってこいって!」
「いやアクアさんがリーダーさんの大事なもん失くすからでしょ」
「しょうがないじゃない!何だか良さそうな紙使った高そうなカードだったんだもの!それに、落としちゃったのもモンスターが出てきたからだし!」
「それも、貴方が魔法を所構わず打ったからです」
「だって早く終わらせたかったんだもん!私、あのワニにトラウマがあるから!」
「………………」
「わぁぁぁぁ!!行かないで見捨てないで!お願いだから一緒にクエスト行ってぇぇ!」
あまりに惨めな姿。こないだまでのちょっとお茶目な有能アークプリースト感は何処へやらという感じだ。
「な、なんか可哀想だし行ってあげない…?」
と、不毛なやり取りをしていると、見かねたリースが俺に語りかけてきた。
「しかしなぁ…。相手は大量のモンスターだぞ?やるにしても巣に帰す方法あるのか?」
そう言うと、いつの間にか隣にいた受付嬢さんが呟いた。
「……今回巣から出てきたのは、クエストでも退治したブルータルアリゲーターでして。湖をなんとかすれば、恐らく他の場所へ移るでしょう。しかし、一度湖を浄化しに行っているので普通より激しく抵抗してくることが予想されます」
「……どれくらいかはわからんが、リース。昨日使ったあの大規模な魔法、あれは連続で使えないのか?」
「…また説明するけど、あれは超必殺技みたいな魔法で…。打つと魔力切れ起こしちゃうから、大量にくる今回は相性良くないと思う…」
「そうか…。……普通の魔法を連続で打つ方法はあるか?」
「あるにはある…。ただ、準備しないと…」
「…ブルータルアリゲーターはそこまで過激に移動はしませんから、準備は出来ると思います。ただ、このまま汚染されると…」
……ふむ。
「アクアさん。条件付きでいいなら受けてもいいですよ」
「!?ほんと!?」
「え!?受けるんですか!?」
イヴに色々言われていたアクアにそう言うと、二人して驚いた顔をした。
直後、アクアが俺の腰辺りに縋り付いてきた。
「な、なんでもいいわ!今の私に一緒にクエスト受けてくれる人は貴方達くらいしかいないの!お願いぃ!」
「まぁ俺らも受けたくはないんですが…。まぁ、今から言う条件を飲んでくれるのなら、受けましょう」
「受けるわ!もうなんだって受けるわ!宴会芸の一環として裸踊りしろと言われてもするわ!!」
「いやそれクエストに関係ないじゃないですか。んなこと言いませんよ。
ではまず一つ目。賞金はこちらを多めにすること。前回のクエストの尻拭いをやるような物ですから」
「わ、わかったわ」
「そしてもう一つ。巣を刺激した大規模魔法は控えてください。そして、浄化しながらこちらの支援もお願いします」
「わかったわ…。でもどうやって支援するの?浄化すらままならないのに…」
「最後の条件です」
俺は二つ目の条件に首を傾げているアクアに、ニヒルな笑みを浮かべて言った。
「檻に入って、湖の浄化と支援をすることを了承してください。もう一つトラウマを持つ覚悟をしてください」
「…………へ?」
アクアがこの世の終わりのような顔で、声をあげた。
この風変わりな転生に祝福を! 冷菓子 @hiyagasi
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