第7話 商人とたわし


 初クエストの次の日。ギルドに来た俺たちは、昨日助けた男性を待っていた。

 傷も難なく治療出来たらしく、動けるようになった様だ。

 そして、危ない所を助けてくれた俺たちに直接お礼を言いたいと、病院から来てくれるとの事だった。

 話をする機会を貰えたのはいいが、何だか無理させてるようで、遣る瀬無い気分である。


「やっぱり、こっちから出向いた方が良かったのでは…?」

 イヴが何だか、落ち着きなく聞いてくる。

 あちらから出向いてくれると聞いて、こっちから行こうと一番言っていたのはイヴだった。

 人助けをモットーとする人を憧れにする立場としては、助けた病み上がりの男性に自分の元まで歩かせるのは抵抗があるだろう。


「しょうがないだろ、直接こっちに来たいって言ってるんだから。ここは待ってればいいんだよ」

 同じく人助けをモットーとする人を憧れにする俺は、快く引き受けた。


 遣る瀬無い気分ではあるが、悪い気分にはならない。むしろ、そこまでして俺たちにお礼を言いたいと感じてくれているのなら、喜ばしい事だ。そして、そんな好意を受けるのは人助けとしても、いい事だろう。

 決して、昨日の戦闘で疲れて歩きたくないとかいう理由ではない。

 そう、そんなことはないのだ。

「……何か変な顔してるよ、アイマさん」

「そ!……そんなことないし?」



「お!いたいた!」


 と、雑談をしていると扉の方から声が聞こえた。

 振り返ると、そこには手を振る昨日の男がいた。

 俺たちは立ち上がって、こっちだと手を振る。


 年上のノリの良い兄ちゃんっぽいその人は、腕などにまだ包帯を巻いていた。それを隠すようにか、はたまたファッションなのか長めのマントを羽織り、それをなびかせながら、椅子に座った。


「す、すいません。そっちから出向いてもらって…」

「いやいや、助けてもらったんだしこっちから礼を言いに行くのは、当たり前だ。気にしないでくれ」


 男はイヴに笑いかけた。イヴは安心したようにほっと息を吐いた。

 俺は男を座らせ、話を聞く体制をとる。



「改めて、今回は本当に助かった!ありがとう!俺はエイザ。各地を回って冒険者を助ける商人、『スキル商人』をしてる者だ!」



「「「スキル商人!?」」」

 思わず大声を出してしまい、俺たちは口を手で塞ぐ。

「ほ、本当にスキル商人なんですか…?」

「おう。ほら、例の魔道具だ」

 リースの疑いに、エイザはテーブルに魔道具を置いた。

 砂時計が、4つの柱の中に埋め込まれたような形で、砂時計の上側に青色、下側に赤色の水晶が取り付いている。

 そして、この魔道具は確かに。

「す、『スキルプレゼンター』…!?本物だ…!」

「す、すごい…!」

 スキルプレゼンター。世を回る『スキル商人』の証だった。



『スキル商人』

 読んで字のごとく、冒険者やその他の普通の職にもある、様々なスキル。それを売り、本人のスキルポイントを消費することなく習得させるという、とんでもなく有用な商人だ。

 ただ、ある欠点が一つある。


 これは、先ほどエイザが出した魔道具『スキルプレゼンター』に関係する。

 この魔道具は、所持者のスキルを相手に覚えさせることが出来る。

 ただし、所持者が持っているスキル『だけ』だ。

 他の者に渡したとしても、能力は発揮されない。


 その為、スキル商人はスキルを多く持つ元冒険者の者がなる事が多い。

 クルセイダーだったならクルセイダーのスキルが、アークウィザードだったらアークウィザードのスキルが多かったりする。

 そんなスキル商人だが、最近は肝心のスキルプレゼンターが魔王軍によって作成に必要な素材を狩られ、希少な物になっている為、それに比例して珍しい職となっている。

 


 そんなスキル商人が今、目の前にいる訳だが。

「なるほど、商人だったから港なんて場所で襲われてたんですね」

「そうなんだよ、乗る予定だった船に乗り遅れてなぁ…。困ってたら、ちょうどここに行く漁船に乗せてくれる人がいて、ラッキーなんて思ってたらあれだ。運が悪かったわ」

「災難…」

 リースとイヴがエイザと話す中、俺は。



 あの時見た、『たわし』のことを思い出していた。



 俺の読みが正しければ、これはとんでもない『好機』だ。

「それで…どんなスキルを扱っているんですか?」

「魔法系の物があれば是非…」

「お!よくぞ聞いてくれました!それじゃあ商品を…」



「すこし、聞いていいか?」



 エイザの言葉を遮り、俺は大変深刻な声色で尋ねる。

「?アイマ?どうしたんですか?」

「どうした?恩人のよしみだ。なんでも聞いてくれ」

 エイザはどん、と胸を叩く。そんな言動に、俺は微笑しながら口を開いた。


「あの時、捕まっていた中、ジャイアントオクトパスの動きを止めたあの『スキル』…あれは?」

「……ッ!?」


 聞いた瞬間、エイザの顔から笑顔が消える。

 俺の聞いてる言葉の意味を、理解したようだ。

「止めたって…私が助けに行こうとした時のですか?あれ、スキルなんですか?」

「てっきり、ジャイアントオクトパスが怯んだだけかと…」

 二人が付いて行けずに顔を見合す中、俺とエイザは真剣な顔で見つめ合う。

 まるで、お互いの腹の中を探るように…。

 俺は、自身の推測を続けて行く。


「ジャイアントオクトパスを止めたのは、麻痺の状態異常だ。現に、あんたの攻撃を食らった際、痙攣して動かなくなってた」


「………そうだな」

 エイザが強く頷いた。


「そして…俺が足を引っ掛けて転んだ時にあった『たわし』」


「たわしって、あのたわし?」

 リースが首を傾げながら聞いて来る。

「あぁ」

「たまたま落ちてただけじゃないんですか?というか、それが先程言っていたことと、どんな関係が?」

 俺はイヴの最もな疑問に頷き、息を吐く。

「この二つから導き出されるスキル…。俺はそれを一つしか知らない…」

 ゴクリとエイザが生唾を飲み込む音が聞こえる。

 


「『不死王のたわし』……間違いないかい?」



「………っ!!」

 ズガーン!と衝撃が走った様に驚いた表情をするエイザ。

 俺はそれを見て確信する。当たりだ!

「……知っているのか。このスキルを…!」

「あぁ。まさか持っている奴が居るとは思わなかったがな」

「……………」

 エイザは目を瞑り、拳を握り込む。

 そして……。



 その拳を突き出した。それに、俺はコンマ一秒で反応し、同じく拳を突き合わせた!



 ニヤリと不敵な笑みを浮かべる俺たちを、二人はポカーンと眺めていた。




「そうか!ネタスキルを!そりゃいい心がけだ!好きだぜそういうロマンのあるやつは!だっはっは!!」

「いやぁ〜、こんな始めの街で不死王のたわし扱ってるスキル商人に出会えるとは!ラッキーにも程がある!」



「「あ、あの〜…」」

 俺とエイザが、肩を組みながら大笑いしていると、リースとイヴが困惑気味に手を挙げた。

「なんだ!?どうしたお嬢ちゃん達?」

「いや、なんで急に肩組み合って…」


「お前、こんな珍しいネタスキルをスキル商人が持ってるなんて、肩組むしかないだろ!」

「ネタスキルって…、こないだアイマが言っていた目標の話ですか?」

「そう!実はさっき言った『不死王のたわし』…あの時エイザさんが使ったスキルも、ネタスキルと呼ばれる物なんだよ」

「へぇ…。どんな由来で言われるようになったの?」

 リースが興味深そうに聞く。



「……このスキルの能力は、その名の通りアンデッドの王、リッチーに由来する。だが、名前と使うものの都合で有用ではあるがネタスキル呼ばわりされている可哀想なスキルだ」



「へぇ…。確かに、あの巨体を止めたことを思うと、使えるスキルではあるんですね」

 イヴの言葉に、今度はエイザが頷いた。

「そう!このスキルは、不名誉な称号を持ってはいるが、確かに使えるもの!第一、これを作った冒険者が、一時期名を馳せた者だったからな。当然だ」

「冒険者が…。一体、どういう経緯で作られたの…?アイマさんは知ってるの?」

 俺は、小首を傾げるリースの言葉を聞き、ガタッと立ち上がった。

 二人がびくりとする。


「勿論知ってるとも!これは、ある冒険者とリッチーの、悲しき物語…」


 俺は、拳を握りながらいつか本で見た、話を語り始めた…。


********************


 あるところに、一人の冒険者がいた。

 冒険者は、子供の頃から才に恵まれ、めきめきと頭角を現し、あっという間に名を挙げた。

 だが、彼にはある誰にも言ってない弱点があった。


 

 彼は、「たわし」が苦手だった。



 この世界のたわしは、植物からなる物だ。

 正式名称を「エセイガグリ」という。この植物は、モンスターのいる森林地帯などによく生えている。

 葉の代わりに、細かいトゲの生えた実のような物を複数生やす。種子はこの実の中にあり、散布する時、周りを飛ぶ虫や小さなモンスターから魔力を吸い取り、炸裂して種子を撒く。

 だが、じつの所、種子のある実は内側に生える数個だけである。そして、その周りをまるで守るように生えているのが、種子のない実。

 種子のない実は魔力を吸い取る性質はあるものの炸裂はしない。

 これが、洗い物用の「たわし」になるものだ。


 彼は、このたわし、エセイガグリにトラウマを持っていた。

 純朴な子供の頃、森を散策していた時、近くに生えていたエセイガグリが、一斉に炸裂したことがあった。

 恐らくは、彼の才のある魔力を吸い取り、一気に種子のある実が炸裂したのだろう。

 だが、そんなことは子供にはわからない。

 彼は、唐突に周りで爆竹みたいな音ともに植物が炸裂していくその情景に、恐怖を覚え。


 トラウマになったのだ。



 まぁ、そんなことは昔のこと。今ではトラウマも克服し、立派に森の中でもクエストをこなしていた。

 これから、そのたわしにトラブルを呼び込まれることも知らず…。



 その事件は、ある森の中でのクエストで起きた。

 彼が当時、居座っていた街の近くにアンデッドの王、リッチーが出たという情報が上がった。

 退治するため、リッチーが出たという森の中に彼は出かけていった。

 そして、問題のリッチーを見つけ死闘の末、ついに追い詰めることに成功したのだ。


 これで更に名声を得られる!

 彼は、高揚と共にリッチーにトドメを刺そうとしたその瞬間。



 何かが、目の前に投げられた。


 それは、恐らくリッチーが投げたものだった。


 彼は、それをすぐに認識した。伊達に名のある冒険者ではない。こんな悪あがき、普段なら食らうはずがなかった。


 だが、彼はそれをモロに食らってしまった。


 投げつけられたそれは。



 リッチーの手元にあった、「たわし」だった。



 リッチーの体質の、状態異常を吸い取ったたわしは様々な抗体スキルを持つ彼さえも、麻痺させた。

 そして、何より。



 彼は、克服した筈だったトラウマを思い出し、動けなかった。



 まさかこれで強敵を潰せると思っていなかったリッチーは、追い詰められていたこともあり、調子に乗って。



「ばっかでー!!たわしにやられる冒険者!よっわ!!」



 と言う捨て台詞と共に、森の中に消えて言った。


 動けるようになった彼には、夜を告げる鳥の鳴き声と、足元に落ちた、たわしだけが残った……。



 その後、彼は狂ったようにたわし、エセイガグリについて研究し始めた。

 冒険者も辞め、ただひたすらにトラウマを研究し続けた。

 まるで取り憑かれるように研究する彼に、昔は黄色い歓声を浴びせていた住民達は、黒い陰口をかけるようになった。

 それでも彼は研究をやめない。


 その真意とは…。



 あのリッチーを、このたわしだけで倒すことだった。



 その為に、たわしを研究し、たわしのスキルを作り、たわしの武器を作った。

 そして彼は、宿敵であるリッチーに出会い、たわしだけで倒したのだ!


 その時、放った最後の言葉は…。



「いよっしゃぁぁ!!たわしにやられるヨワッチーが!!!舐めてんじゃねぇぞぉぉぉぉ!!!」



 当時、45歳である。



 その後、彼の狂った偉業は瞬く間に広まったが、彼はそのスキルを明かしはしなかった。

 ちなみに、彼が山中で、スキルの内容を聞き出したい冒険者が詰め寄った時、言った言葉は。



「いや、ほんと勘弁して…。あれは、その…。気の迷いっていうか…。あぁ!資料を取らないでくれぇ!!これから燃やすんだぁ!!」

 だった。


 抵抗する彼は、何だか色んなものを失った顔をしていたという。

 

 なんとか資料を守った彼だったが、この時、一度だけ取られた資料の中のスキルを、広められてしまった。


 それが……。


********************


「『不死王のたわし』なのさ!!」


 高らかに叫ぶ俺。エイザは、声を殺しながら涙を流していた。

 そう。何て、何て悲しく、そして熱い話。

 一人のリッチーの為、そして自身の弱い所の為に、人生の全てを費やし、自身のトラウマに打ち勝った!

 これはとんでもない、名声に似合った物語だ!

 何故か、最後は「やめろ…黒歴史だから…ちょっと盛り上がっちゃっただけだから…」と盛んに言っていたらしいが、そんなことはない!

 そう、この話を見た時俺は昔のトラウマを克服しよう思ったのだ!

 …思っただけだけど。

 そして、このスキルに出会うのは、俺の夢のひとつでもあった。

 エイザがたわしで、ジャイアントオクトパスを止めた時は心踊った。

 もしかしたら…と!

 それが、現実になったのだ!喜ばない筈はない。


 それは俺のパーティーメンバーである二人も同じだろうと反応を見ると…。



 物凄い微妙な顔をしていた。



「な、なんだお前らその顔…」

 あまりのなんとも言えない顔に、思わず声をあげると。


「いや、そんな泣ける話でも燃える話でもないんですけど…」

「……45までそんな馬鹿げたことやるのは、流石に…」


「な、何だと!?歳は関係ないだろ!それに、そんな歳まで宿命の相手を追いかけるのは燃えるだろ!!」

「宿命ていうか、小学生の喧嘩みたいな感じでしたよ。くっそダサい言い合いでしたよ」


「たわしでやられたのは、まぁトラウマだったっていうので分かるけど、それで恨むみたいに追いかけた上、最後にヨワッチーって。イヴちゃんの言う通り、小学生の喧嘩だよ…。『バカって言った方がバカなんです』並み…」


「しかも結局、終わった後、後悔して何もかも燃やそうとしてますし」


 二人の言葉の刃が俺の高揚した心に突き刺さった。

 な、何てことを…!確かにその通りだとは思うけど!登場人物全員、小学生みたいだけど!

 それでも、俺はこのロマン溢れるスキルを…。



「アイマ、こんなスキル取りたかったんですか?」

「アイマさん、こんなスキル取りたかったの?」



「がはぁ!!」

 会心の一撃をモロに喰らい、吐血しそうになる俺。

 ひ、久しぶりの感覚…。

 俺の、ネタスキルの概念を否定されるこの感覚…!!

 二人は理解してくれると思っていたのだが…。

「ねぇ、私達、実は大分おかしな人についてきてしまったのでは…?」

「でも、クエストの作戦はちゃんとしてたし…。ちょっと感性がおかしなだけだよ…」

 期待を見事に打ち砕かれ、テーブルに突っ伏すと。


「アイマ!!」


 目の前の唯一の味方が俺の肩を叩いた。

「落ち込むな!お前の思いは間違ってなどいない!」

「な、なに?」


「確かに!彼女らの言う通り、この話は所々小学生感がある!この名のある冒険者も、ソロで活動してたらしく、理由が自尊心が高過ぎてパーティーが組めなかったらしいからな」


「……ダメじゃん」


「だが!それがどうした!?俺たちは確かに、このスキルに運命を感じたのだろう!?熱さを!感じたんだろう!」


「………!!」

「そう!それこそが真意!お前が信じるこのスキルが熱い限り、周りに何と言われようともこのスキルを信じる!」


「それが、俺たちの為すべきことじゃないか?同士よ!!」

 拳を握り語るエイザの言葉に、俺は電撃に打たれたように机から立ち上がり…。


「え、エイザさぁぁぁん!!」

「うおぉぉぉアイマぁぁぁ!!」


 と、肩を抱き合うのだった…。


「いや、結局過去の話がしょうもないってこと否定出来てないじゃないですか…」


 イヴ。それ、身も蓋もない。



「と、言うわけでだ本題なんだが。そのスキル、教えてもらえないか?」

 改めて椅子に座り直して落ち着いた俺たちは、エイザにそう聞いた。


「そりゃ勿論。というか、今回会いに来たのは、是非ともこの俺のスキル達で恩返ししたかったからだしな」


「おぉ!?マジか…。ほんと、ありがとうございます!」

「いや、さっきも言ったが礼を言うならこっちの方さ。危ないところを助けて貰ったんだ。お安い御用さ。あ、お二人さんもだ。一応、普通のスキルも取ってるからな。何か欲しいのがあったら無料で教えるぜ?」

「あ、普通のスキルもあるんですね…。そしたら、お言葉に甘えましょうか?」

「うん。甘えよう甘えよう」


 二人も了承したところで、決まっている俺が先にやってもらうことになった。

「そういえば、経緯は聞きましたけどスキル自体の能力は聞いてませんでしたねぇ。どういうスキルなんですか?」

 エイザが準備をしている中、イヴがそれを横目に見ながら聞いてきた。リースも気になるようだ。


「『不死王のたわし』は、エセイガグリの魔力吸収を使ったスキルだよ。このスキルを発動させて、たわしに魔力を込めるとランダムに麻痺、昏睡、魔力封じのどれかの状態異常の宿ったたわしが出来上がる。これを投げつけたり叩きつけたりして、相手を状態異常にするっていうスキルだ」

 

「へぇ。…あれ、もしかしてそれって…」

「そう。お察しの通り、このスキルはあのリッチーにやられたことを再現したものだ」

「……それが世に出るなんて。何だか不憫…」

 リースが憐憫の目でそれを言う中。


「よし、準備出来たぞ!」


 エイザがスキルプレゼンターを叩きながら言い、俺たちは待ってましたとばかりに目を輝かせた。


「よし、砂時計の上側の青い水晶を掴んでくれ。そうそう。で、下がこっちに来るように回してくれ。そうだ。よし」

 柱に埋まっている砂時計は、うまく回るようになっており、水平になる形で下をエイザ側に向けると、エイザは底についていた赤の水晶を掴んだ。


「こいつは、俺の魔力からスキルの情報だけを吸い取ってこの中の砂に蓄える。そして、このまま反対にして、お前の水晶にスキルの情報が行った時、青く輝く。それまで、ちょっとキツイ体制になるが勘弁な」


 説明を終えると、エイザは早速魔力を込め始めた。

 赤の水晶が光を放つ中、中にあった砂も輝き始めた。

 俺ら全員から、おぉ…と声が漏れた。

 気づくと、いつの間にか後から来た冒険者達がこちらを眺めていた。

 魔力を注ぎ終えると、エイザは俺に合図をしてゆっくりと砂時計を回す。

 先程とは逆さまになった砂時計は、上からサラサラと魔力のこもった砂が落ちていった。


「おぉ…。すごいな…」

「あ、アイマ。どんな感じですか?」

「腕が辛い」

「…………………」

「しょ、しょうがないだろ!?それしかないよ今は!」

「……魔力が来る感じはないの?」

「今の所ないな…」

 横で砂時計を眺める二人は、まるで魅入られたかのようにそれを凝視している。

 

 どれくらい経ったのか。

 ようやく砂が全て落ちた瞬間。


 シュワァァァァン!!


 そんな、師匠から弟子に伝説の道具を渡した時のような効果音と共に、青の水晶が光り輝いた。

 一瞬、手から暖かい何が入った気がしたが今のがスキルが入る感触なのだろうか。

 おぉ…、と周りから感嘆の声が上がる。

「よし、終わりだな」

 エイザがそう告げて、俺に手を外していいと合図する。

 俺は手を退けて、さっそく冒険者カードを取り出す。


「おぉ!!」


 思わず上げてしまった声。

 スキル欄にある、「不死王のたわし」の文字に俺はテンションが上がった。

 横で眺めていたリースとイヴ。そして、周りの連中も声を上げていた。

「おぉ!本当に覚えてますね!何だか感動です!」

「……私もやりたい」

「おぉ、どうぞどうぞ!…ってうわ!?」

 エイザが、リースの言葉に嬉しそうに答えた瞬間、周りで見ていた連中もこちらに近づいて来た。


「お、おい!俺にも見せてくれ!」

「ぜ、絶対ヤラセだと思ってたのに!すごい!」

「こ、こんな初めの街にスキル商人が来るなんて…!この街いてよかった!」

「あ、押すなよ!」


 俺たちのテーブルが冒険者達でごった返している。

 うわぁ、すごいことに。馬小屋か宿屋でやれば良かったな…。

 とんでもない喧騒の中、エイザが叫んでいた。

「ちょ、待て待て!後で要件は聞くからまずはこの人たちに…!お、押すな!商売道具取ろうとすんな!」

 た、大変そうだ…。

 俺も止めようと、立ち上がり声を上げようとした時。



「あーーーーーっ!!いたぁぁぁぁ!!」



 この喧騒の中、ギルド中に響く声。

 何事かと、入り口を見る冒険者達に合わせて俺らもそちらを見ると。



「いた!!あの時のパーティー!!」



 そこに居たのは、昨日の青髪の美少女、アクアさん。

 そのアクアさんが、涙目で俺らの方を指差していた。

 

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