【 さよなら、つながれっぱなしの犬 】
一匹の犬が死んだ
中型雑種の茶色の犬
なんのへんてつもない平凡な
そして よぼよぼの老犬だった
おまえは狭い駐車場の中で
いつも鎖に繋がれて暮らしていた
つながれっぱなしの犬
その呼び名は わたしがおまえに付けた
今年の夏は とりわけ暑かった
木で囲っただけの粗末な犬小屋の中で
おまえはうつろな目で
苦しそうに ハァハァ……と喘いでいた
あぁ もうダメかも知れないなぁー
わたしの心配は的中した
二、三日経って……
犬小屋を覗くと空だった
おまえを繋いでいた鎖が落ちていた
餌入れの器がひっくり返ってる
つながれっぱなしの犬!
おまえは死んでしまったのか?
ごめんね
なにもしてあげられなくて……
わたしは想うことしかできなかった
空っぽの犬小屋が悲しすぎる
おまえのことは忘れないから
暑い 暑い 夏の日に
おまえは飼い主にホースで
ジャージャー お水をかけて貰っていた
ピョンピョン 跳ねまわって嬉しそう
尻尾フリフリ 飼い主にじゃれていた
犬なのに笑っているようだった
幸せそうな おまえの姿を見て
わたしも幸せな気分になれたよ
つながれっぱなしの犬
おまえは幸せだったの?
いつも鎖で繋がれていたけれど
おまえにはおまえの幸せがあったはず
飼い主のことも大好きだったんだね
きっと満足していたのだろう
立派な飼い主とはいえないが……
仔犬のころからずっと飼ってくれていたんだ
おまえにとっては 唯一無二の飼い主
そこに 深い『 絆 』があったかも知れないのに
それを不幸な犬と決めつけた
わたしこそ 傲慢な人間だったかも知れない
おまえを通して
わたしはいろんなことを考えた
犬の飼い方
犬と飼い主の関係
そして おまえの幸せについて
そう おまえが居たから気がついた
数々の事柄があったんだ
『 事実と真実 』は 違うってことも
ありがとう!
つながれっぱなしの犬
おまえの魂は決して繋がれてはいなかった
さよなら……
つながれっぱなしの犬よ
天国にはおまえを繋ぐ首輪も鎖も
もうないんだ!
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