第12話どこかの幕が上がる

アーバン魔法研究工房の除幕式当日、公式スタッフとして招待されているということで、アーバン社製の移動車という人を乗せて高速で移動出来る乗り物による送迎があった。どうやらこちらの方面から向かう人は少ないようで、車内には運転手と私の二人だけだった。

特に会話もないまま、アーバン社に着いたときはさすがに申し訳ない気持ちになった。ちらちらこちらを伺って、何か話そうとしているのが見えたので尚更だ。


着いてからは案内人のような人に連れられて、まだ関係者以外入ることを許されていない工房の中へと案内された。

おそらくこの辺では一番高い建物になるんだろうなとぼんやりと見上げたその先が見えることはなく、その全貌を拝むことすら難しい。


案内人について行くこと10分、到着したのは更衣室だった。


「ここでスタッフ用の制服に着替えて下さい」


無機質な声に困惑しつつ、促されるまま中に入っていくと思ったより広い一部屋だということに気が付く。既に何人も人がいて、皆いそいそと着替えを始めているようだった。私も手渡された新品の制服を開封して袖を通していく。


見た目のイメージはごりごりの武装兵のようだった。警備とは聞いていたものの、こんなに気合いの入った装備だとは思わなかった。

着替え終わった人の動向を追っていると、更衣室からそのまま繋がった別の部屋に移動しているようだったので、私も付いて行くことにする。


すると移動した先の部屋に置いてあるものに驚愕してしまう。

更衣室と違ってロッカーも何も無い開けた空間の壁沿いにテーブルが有り、机上には黒い塊がずらりと並べられている。


その正体は平和な生活を送っていた人間からしてみれば随分と浮き世離れした逸品。


「え……銃?」


大小、種類も様々な銃が所狭しと並べられているのだ。更衣室から移動してきた面々は各々テーブルから銃を拾い上げると、何やらカチャカチャと弄りながらまた奥の部屋へと移動していく。


もはやどういうことだろうと考えている自分の方がおかしいんじゃないかと思うくらいに皆自然に振る舞っている。部屋の中央には看板のようなものが置いてあり、テーブルには番号が振られていた。自分の着ている服をよく観察してみると、胸の辺りに番号が振られたタグが付いていることに気が付き、そのタグの番号とテーブルの番号が紐付いているようだった。


都会の街並みや人の多さに困惑している田舎者のような動きで自分の番号が振られたテーブルへと移動していくと、そこには他のテーブルにおいてあるものよりはかわいいものが並べられていた。


「これは……多分拳銃??」


片手で収まるくらいのサイズの銃が二丁。どうやら二丁で一セットのようで、ホルダーも同様に並べられていた。周りをきょろきょろと確認していると、そのホルダーを腰辺りに装着して、そこに拳銃を収めているようだった。


改めて拳銃を手に取ってみると、その大きさに似つかわしくない重量感に血の気が引いていくのを感じる。ここにきてようやく「あれ、騙された?」という疑問が浮かび始める。


とはいえ小心者な私は慌てているということを察されたくないため、流れに沿って奥の部屋へと移動する。中には機関銃のようなものを肩から提げている人もおり、ココがどこだか分からなくなっていく。


奥の部屋へと進むと、景色は一変し薄暗い空間だった。その中でも目立っているのは正面のスクリーン。煌々とするその画面にはこの広く高い工房のフロア図が立体的に映し出されており、フロアごとにまた番号が振られていた。また工房内だけではなく、工房の外、実際に式が執り行われる正門付近にもスタッフの展開図が映し出されていた。


また先ほどと同様に、自分の番号とスクリーンの番号を見比べ、各々散り散りになっていく。どうやらここからは各自の持ち場に移動するようだ。出口付近には案内をしていた人と同じ格好の人が何人もならんでおり、出口から出る人達に何やら手渡しているようだった。


そもそもここまで何をすれば良いのか全く分からないまま進んでしまっていることに危機感を覚えていた私は、考える余地がないことに背中を押されるようにしてスクリーンがよく見えるところに移動していた。


自分の番号をスクリーンの番号と照らし合わせてみると、自分の配置場所が最上階の展望フロアだということに気が付く。一番高いところだ、とバカみたいな感想を浮かべつつ、もうこの部屋に用がなくなってしまったのでまたも流れに沿って出口へ向かう。


出口へ向かう道で考えていたことは、至極単純で私は今何をやっているんだろうということだった。ついこの間まで辺境の地で幸せな孤独生活を行っていたのに、今やぞろぞろと物騒なものをひっさげて移動する軍隊のようなものの一員になっている。これが摩訶不思議というやつ。


どうにか今の状況を日常に近づけようと、よく聞くラジオのテーマソングを思い浮かべていると、いつの間にか出口までたどり着いており、待ち構えていた人から端末のようなものを手渡される。


「これは現在の状況やそれに沿った指示を確認出来る端末です。除幕式の進行に合わせて端末の表示される内容も変化しますので、逐一確認して下さいね」


皆一様に同じ台詞を吐いているため、あまりに機械的で少々引いてしまったもののその端末を受け取る。まだ画面には何も映し出されていないが、何やらガチャガチャといろいろなボタンが付いていることで面倒なんだろうなということを想像させる。


この時点では特に何も思ってはいないが、直にこの端末に表示される内容に腰を抜かすことになるのだ……


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異世界特務活動課日記 ひこーきぐも @hikokigumo

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