第35話 エピローグ
ハルトが来てからもう一か月が立とうとしている。順調だ。順調過ぎて怖いくらいだぞ。
朝ごはんを食べた後、食堂で暖かいココアを飲んでいると、隣に座るクロが立ち上がる。
「マスター殿、修行つけてきますゆえ……」
彼女は俺と同じで格闘が得意なんだけど、俺は力押しで彼女は身の軽さとスピードで押す戦い方をする。
冒険者にとって、クロの戦い方のほうがあっているみたいで、彼女の希望もあり冒険者の修行は彼女に任せることになったんだ。
いつもの猫柄のワンピースに裸足だとパンツが丸見えになってしまうから、ユキに頼んで薄いピンクのホットパンツにレースのついた白のボタンシャツを着てもらうことにした。
ボタンシャツはちゃんと襟首までついていて首元にもボタンがあるから、前がはだけることはない。クロ自身は余り気にしていなかったけど、俺達が気になるからさ。
足? 足は黒色のくるぶしの上あたりまであるブーツに白黒の横縞のニーハイソックスを着てもらっている。俺はスニーカーでいいんじゃないかと言ったんだけど、ユキが見た目的にスニーカーは嫌だというのでブーツになってしまった。
動きづらいと思うんだけどなあ……しかし、修行に来ている冒険者とクロの実力差はかなりあるみたいで、これでも全く問題ないそうだ。
「クロ、頼んだぞ」
俺がクロに手を振ると、彼女は尻尾をフリフリしながらご機嫌に食堂を出て行った。やれる仕事ができて嬉しいみたいで、彼女は毎日ご機嫌なのだ。
「夜叉くん、かき氷食べる?」
キッチンからユキが氷を削りながら尋ねて来る。
ポイントが豊富に入るようになって、食材もポイントを気にせず準備することができるようになったんだ。ユキにも好きな食べ物を遠慮なく出してくれと言っていけど、彼女は長年染み着いた貧乏症のせいか一つだして消費しない限り次を出さない。
消費するときにも「もったいないかな……」と一人でウンウン悩んだ後に食べるくらいだから、余りポイントは使っていない……
「うん。食べるよ。イチゴシロップで頼むー」
「うん!」
すぐにユキは俺と自身のかき氷をお盆に乗せて、テーブルまで運んでくる。
「いやあ、しかし……この一か月で随分施設を作ったよなあ」
かき氷を口に運びながら、俺はしみじみと呟くとユキも同意するように頷きを返す。
「そうね。テーマパークじゃなくなっちゃったけど、他のニーズが発掘できたから良しだよね?」
「うん。冒険者の訓練とキャンプ場、迷路に手軽に遊べるビリヤードなど……」
本当にたくさん作ったよ。先月までは夢にも思わなかったほどのポイントが入って来るようになったし、ダンジョンの中も見違えるように変わった。
「あ、今日はうっしーさんの喫茶店を作るんだっけ?」
ユキは食堂にある大きな壁時計を確認し、思い出したようにポンと手を打つ。氷を食べる口の動きは止まってないけど……
「あ、ああ、そうだった! 先に壁の整理しておくよ」
すっかり忘れていたけど、うっしーが街とこっちで半々滞在して喫茶店を運営すると提案してきたんだった。
うっしーのお客さんは多数いるんだけど、ダンジョンには手ぶらでやって来る。普段山登りとかに慣れてない人にとっては、街から俺のダンジョンに到着するに少しキツイみたいだから、手ぶらで来れるよう施設を拡張したんだよ。
俺はまだかき氷を食べているユキを残して食堂を後にすると、広場に向かう。
落とし穴から一階に登って広場の方へ向かう途中、クロが冒険者たちへ稽古をつけている姿が目に入る。ステージの裏手に修行をするためのスペースを作ったんだ。そこで彼女たちは毎日訓練に明け暮れている。
反対側の奥に彼らのワンルームアパートがあり、このアパートは風呂とトイレが各個室についているなかなか良い建物なんだぜ。
広場に到着すると、ステージやテーブルの横にトレーラーハウスが四つ。トレーラーハウスの奥には風呂場が二つ建築済みになっている。
トレーラーハウスがある反対側も拡張し、うっしーのお客さん用の休憩所がある。休憩所はトイレとキッチンが備え付けられていて、ここで寝泊まりをすることも可能だ。
今回は休憩所の隣の壁を取っ払い、ここにうっしーの喫茶店を作るのだ。
作ると言っても、ポイントを使って事前に決めておいたデザインの建物を呼び出すだけだ。極めて簡単なんだよな。家具や飾りつけはうっしーに全て任すから、俺達がやることは一瞬で終わる。
作業を始めるとすぐユキがやって来て、二人で喫茶店を出す位置を調整しつつ壁を取っていく。
「こんなもんかな?」
俺は出来上がった空スペースを眺めフウと一息つく。
「うん、じゃあ喫茶店を出すわよ」
ユキが手を振ると、何もない空間に突如喫茶店が現れ、最初からそこにあったかのように佇んでいる。最初に風呂場を出した時は驚いたけど、今となっては突然馬鹿でかい建物が出てきても驚くことは無くなった。
「おし、終わった終わった」
「あとはうっしーさんが来るのを待つだけね」
「テーブルに座って待っておくかー」
「うん」
俺はユキの手を握ると、彼女は俺の手をギュっと握る。
そのままどちらと無しに顔を近づけるとお互いにそっと唇を合わせ、テーブル席へ向かう。
手を握ったままテーブル席に腰かけると、俺は手を離し咳払いを一つ……
「あー、ユキ、その、なんだ……」
「なあに?」
ユキは察しているはずなんだけど、分からないフリをして聞いて来る。
「あの、その……」
「なあに?」
ダメだ。言うまでとぼける気だよ……俺は息を吸い込み、ゴクリと喉を鳴らすとユキの目をじっと見つめ、
「そろそろ、付き合ってもいいんじゃないかな? どうだろ?」
「うん! 嬉しい!」
ダンジョンの運営が安定して来たし、俺とユキは改めてちゃんと付き合い始めることをお互いに確認する。
再びユキに口づけをしようとした時、遠くからうっしーの「ふんふんふんもー」という鼻歌が聞こえてきたから、俺は慌ててユキから顔を離す。
俺は椅子から立ち上がり、うっしーの方へ歩いていく。
よおし、もうひと頑張りするか!
おしまい
※これにて一旦完結いたします。ここまでお読みいただきありがとうございました。
また再開するかもしれませんが……
※叶編集長と結城編集に打ち切りをくらいました。ま、また、そのうち。
ダンジョンマスターだが妖怪だと冒険者が来ないので、ダンジョンをテーマパークにすることにした うみ @Umi12345
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