第3章 八宝美刃のシークレットガーデン PART18(完結)
18.
「え? 士郎さん、ワタシとデスか?」
「ええ、もしあなたがよければですか」
士郎は八橋に優しく微笑みながらいう。
「私はずっと支配人ばかり見てきました。それは彼こそが私の生きがいだったからです。支配人にとって一番大切なものはここ、クーロンズホテル。それを支えることに私はずっと夢中になってきました」
「それはわかってマス。だからこそ、ワタシもあなたの熱意にやられて……ここにいるんデスから。あなたが作ってくれた料理、今でも覚えています」
「料理?」
士郎が尋ねると、八橋は嬉しそうに答えた。
「火を通さないカルボナーラを作ってくれたじゃないですか。葱と明太子の相性、とってもよかったのを覚えてマス」
「ああ、そんなこともありましたね」
2人の会話が弾んでいく。司会となっていた士郎の表情がゆっくりと溶けていく。
「地元の食材を使って作る料理に感動を覚えたんデス。……ずっとあの時は料理人としての自分に思い悩んでいましたから、あなたの郷土料理を食べさせて頂いて、あなたの地元の方言を聞いて、ワタシ、自分は自分でいいんだと認めて貰った気がしたんデス」
「お恥ずかしい。料理長であるあなたに、料理を提供したなど、差し出がましいことですが」
「そ、そんなことないデス。ワタシは本当に嬉しかったんデス」
八橋は士郎をまっすぐに見据えていう。やはり彼女の意中の相手は士郎だったのだ。だからこそ、その思いを胸に秘め料理長としての責務を果たしていたのだ。
……彼女はきっと士郎を見て絶望したのだろう。
自分の恋い焦がれる相手が司会としてこの会議に参加していることに。彼と結婚する機会すらないことに憤り、それでも彼を前にして思い悩み、きっと策を巡らせたのだろう。
「士郎さん、本当にワタシでいいんデスか?」
「ええ、あなたと結婚したいです。私にも事情がありますので、全てを受け入れることはできませんが、あなたとなら、よりよい関係を作っていけると思います」
……結婚は相手を尊敬できれば、何があっても成り立つ。
零無の言葉が不意に蘇る。結婚には全てを知る必要もないし、相手のたった一つの点を尊重できれば成立するのだ。愛を誓うことは相手との信頼関係を崩さないこと、ただその一点なのだろう。
「私は女性とお付き合いしたことがありません。ですが努力はすることができます。あなたのことを知ることがまた、業務においても成長に繋がることができると思いますので」
「ありがとうございマス。喜んでお受けいたしマス」
八橋は涙ぐみながら士郎を見つめる。
「ずっとあなたのことを考えてきました……あなたと一緒になることができなくても、ここにいれば一緒にいれると思っていたんデス」
彼女の覚悟に胸を打たれる。叶うはずがないと思っていた彼との付き合いに希望が見えたのだ。もう偽る必要がない。
「参浦さん、すいません。私のために名乗りでて頂いたのに……」
「そんなことないよ。お二人が結婚できてよかったと思ってる」
参浦が拍手で彼らを迎え入れる。
「実際に僕はホモではないしね……君はレズでもないんだろう?」
「ええ、すいません。ですが士郎さんのことは私も受け入れていきたいと思っていマス。よろしくお願いしマスね! 士郎さん」
「ええ、こちらこそ八橋さん」
士郎はかしこまって礼をする。
「士郎さん、そんなかしこまった言い方は止めて下さい」
「畏まりました」
士郎は胸をポンと叩いていう。
「
残り7名
第四章➡ 双
五
扶
汝
のクロスクルス
『婚活ロワイヤルッ!』 くさなぎ そうし @kusanagi104
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