第3章 八宝美刃のシークレットガーデン PART17
17.
「え、零無さんもですか?」
士郎の顔色が変わっていく。
「あなたも九条様の囲いに入っていたということですか?」
「いいえ、私はまた別枠ですが、あなたが知らない関係を持っています」
零無の不敵な笑みが光る。NO.2の士郎でさえ知らないことがあると公言しているのだ。
「士郎さん、結婚したからといってその人の全てを知ることはできません。もちろんあなたのように好きでい続ければ、作れる関係もあるのだと思います。ですが結局、その人の全てを知るためにはその人自身にならない限りにはなれないのだと思います」
「結婚すらも、仮のお付き合いの場だとおっしゃりたいのですか?」
「まあ、端的にいえばそういうことです」
零無は再び意見を連ねていく。
「共同生活をおこなうことでその人のいい点もみえれば悪い点も見える。もちろん一緒にいる時間が増えるのですから、当然です。ですが一番支配人の顔が見えるのはあなたの立場、支配人補佐という関係なのではないでしょうか?」
……零無のいいたいことはわかるが、何を目的としているのかはわからない。
ここにはいない支配人との関係を述べても仕方がない。彼女は支配人を諦めて他の誰かと結婚しろと間接的にいっているのだろうか。
「私はすでに支配人の素顔を握っているといいたいのですか?」
「そうです。支配人が最も信頼しているのはあなただということは変わりありません。支配人の体調を整えることから、八橋さんの料理を選んだのもあなたですよね?」
「……そうです。あの方は多忙を極めており、休息を取る暇がありません。ですので、八橋さんのお料理を提供したいがために、彼女を押した面もあります」
知らなかった情報に意識を集中していく。異例の若さで料理長を抜擢した背景には、トップに立つものの体調を考えていたという意図がある。
確かに理には適っている。お客様を満足させるという以前に、従業員が安心して働けるホテル作りの一環を担っているのだ。
「九条様が生粋の日本人ではないからですよね? あなたと同じように」
「そうです。そして八橋さんのように様々な各国の料理を勉強している人にこそ、料理長が相応しいと思いました」
士郎は相槌を打ち、零無の方を見た。
「……なるほど。零無さん、あなたの考えはわかりました。さすがあなたは一流のウェディングプランナーですね」
「恐れ入ります」
士郎はしばらく黙考を続けた後に、八橋の方に声を掛けた。
「……八橋さん、お願いがあります。もしよければですが、私と結婚して頂けないでしょうか?」
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